89枚目:「一級建築士の話」
このドアはイライラしたら
バタンとしめて楽になるための道具です。
喧嘩などして最後に言い返せずに電話を切られ
余分なエネルギーを押しつけられしまったら
その力を利用してお閉めください。
どうせどこにも繋がっていない
ただ壁に打ちつけられた扉です。
そうそう、言っておきますけれど
この家に玄関はありません。
いつまでも一人で暮らせるように
電話線と水道管だけはつないでおきました。
ベランダは菜園になっています。
この階段は急になっていて
頭を割るのにほどよい高さに設計されています。
地下室にはワインが貯蔵されています。
ワイン瓶の破片などで育てられるように
テラスには山羊が飼われています。
新鮮なミルクやチーズが毎日食べられるでしょう。
退屈しのぎのためには
A4のコピー用紙が段ボールごと
冷蔵庫にはベネトンの透明水彩と
ドクターマーチンのカラーインキ
モンブランの万年筆が1ダース
少々…食事が健康的にすぎるきらいがありますが
運動不足になりがちなのでちょうどいいぐらいでしょう。
2階のベッドルームには水槽が設置されています。
サラダや魚の味付けにはベッドサイドに
サルタンの涙壺ことクットロルフを置いておきました。
ベネツィアのセグーゾ工房で作られた代物です。
どうぞかなしい時にはお使いください。
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