PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙35 運の悪いひと(2)

こんにちは。

今日も運の悪いひとの話です。

ある晩、真夜中に高校時代の友達から電話がありました。
「久しぶりー」
などと、寝ぼけて気楽に話していましたが、
相手は、なんだか切羽詰っています。

彼女は東京で働いているのですが、
九州からいとこが修学旅行で東京に来てると
電話口で慌てています。

それがどうした、と、よくよく話をきいてみると
その男の子が、泊まっていた旅館から
救急病院に搬送されて
緊急手術を受けているというのです。

「虫垂炎だったの?」
とくに持病もない元気な若い男の子なら、
そのくらいかな、と聞いてみたのですが
その理由を聞いてわたしも眠気がとびました。

高校生達は旅館の和室で布団をしいて寝ていたのですが、
そのうちのひとりが
トイレから勢いよく飛び込むように部屋に戻ってきて
一番入り口に近いところに寝ていた
その子を思いっきり踏んづけてしまったんだそうです。

その直後から
激しい腹痛と、冷や汗がひどくなる一方で
救急車が呼ばれ、その子は救急病院へ搬送されました。

到着時には、血圧が下がっていて
緊急で撮ったCTでは
脾臓破裂と周囲の大出血が確認されました。

脾臓ってわりと地味な臓器ですが、
お腹の左側奥にあって血管がとても豊富です。
交通事故や転落などの外傷時に傷ついて、
出血が止まらないときには
やむなく脾臓を摘出する手術を行なうことがあります。

その子の場合も
出血性のショックを起こすほどの大出血で
CTの部屋からそのまま手術室へ連れて行かれたそうです。

いきなり電話で呼び出され
「これから緊急手術で脾臓を取り出す」
と告げられた、いとこのお姉さんである友達は
それはもうびっくりして、
わたしに連絡をくれたというわけです。

脾臓というのは
以前薬の副作用のところで少し触れた
体を守る兵隊の養成所というか
免疫に関する働きをしていたり、
寿命を終えた、または不良品の赤血球を
とり除く仕事をしています。

特に年齢の低いこどもの場合は、
その後の免疫状態の悪化を考えると
できるだけ体の中に残しておいたほうがいいのですが、
出血を止めることができないのであれば
摘出も止むを得ません。

結局その子は脾臓を取り除く手術を受け、
元気になって友達よりもだいぶ遅くなりましたが
おうちに帰りました。

こういった人には、肺炎球菌の予防接種をしたりして
事前に外敵から身を守ることが必要になってきます。

その後風邪を引きやすくなってないか、
その友達と連絡がとってないのでわからないのが
ちょっと気がかりです。

修学旅行で、おとなしく寝ていただけなのに
こんな災難に降りかかられるなんて、
ほんとうにお気の毒な男の子でした。

では、今日はこの辺で。
みなさまもくれぐれもお元気で。

本田美和子

2000-01-23-SUN

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