PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙36 運の悪いひと(3)

こんにちは。

前回に続いて、運の悪いひとの話です。

就職して間もない頃、
救急車でひとりの若い男性が運ばれてきました。
彼は恰幅のいい植木職人で、
脚立にのぼって高枝を植木鋏で刈り込んでいたときに
足が滑って鋏を落としながら地面へ転落してしまいました。

先に地面に落下した彼の上に
刃を大きく開いたその植木バサミが落ちてきて
避ける間もなく、彼のお腹につき刺さりました。

ここで、
彼と一緒に働いていた年配の職人さんの判断は
素晴らしかった。

彼らは刺さった鋏を引き抜くことなく、
そのまま救急車を呼んで
病院へと担ぎ込んだのです。

刃物での怪我の場合、
体に刺さった刃物は
もちろん体の中の組織を傷つけているのですが
それと同時に、傷に密着して
出血をおさえている可能性があります。

ですから、思わず刃物を引き抜いたとたんに
大出血になってしまうことがあるんです。

それを知っていた植木屋のおじさんは
鋏を引き抜かずに、その若い職人を病院へ送りました。

病院では、すぐに緊急のCT撮影。
体の中のどの臓器が傷ついていて、
どの程度の出血があるのかを確かめました。

で、これがそのときのCTです。
こんなかんじでした。



このように、体を厚く取り巻いていた脂肪が
大きく開いた植木鋏から彼を守ったのです。

恰幅のいい植木職人さんは
その恰幅の良さゆえに命拾いをして
手術も受けず、
小さな判創膏をお腹に貼るだけで帰っていきました。

と、いうわけで
今日は運がいいのか悪いのかわからないけど、
相対的には運が良かったと思われた方のお話でした。

みなさまも、刃物で怪我をしたときには
できればそのまま引き抜かずに
病院へお越し下さい。

あと、刃物が刺さってるときはだめですけど
傷口からの出血が止まらないときには
タオルなどを当てて、上から強く押しつけてみてください。

圧迫止血法って、効きます。

では、また。
みなさまどうぞお元気で。
本田美和子

2000-01-30-SUN

 
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