PHILADELPHIA
お医者さんと患者さん。
「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。

手紙227 日本のHIV
HIV患者さんの就労についての日本の制度



こんにちは。

今日は少しいつもと違ったところから
HIV感染症と社会の関わりについて
考えてみようと思います。

HIVに感染していても、
早めに見つけて
しっかり治療を続けることができれば、
糖尿病や高血圧と同じように
「完全に治るわけではないけれど、
病気と折り合いをつけて一生つきあっていく」
病気となっていることを、これまでご紹介してきました。

つまり、これは
HIVに感染していても
ごくごく普通の社会人としての生活が続く、
ということを意味していて、
“ごくごく普通の社会人としての生活”には
もちろん、仕事をする、ということが含まれます。

実際のところ、
わたしの外来に通う患者さんのほとんどは
忙しく社会で活躍する方々です。

大学の先生、会社員、医師、看護師、経営者、
主婦、公務員、アルバイト、学生など
その分野は多岐にわたっています。

それぞれの患者さんには
一緒にすごす家族や同僚がいますが、
病気のことを知っている場合も
知らない場合もあります。

最近、企業の採用担当の方から
HIVに感染している人を採用する場合に
どんなことを注意すればいいでしょうか? と
訪問を受けました。

もちろん、就職に際して
HIVに感染していることを明らかにする必要は
まったくありません。

この企業の方が考えていたのは
企業の身体障害者雇用枠で
HIVに感染している人を採用する場合、
どのようなことに気を配ればよいか、
ということでした。

身体障害者雇用枠を利用する場合は、
患者さんは自分がHIVに感染していることを
明らかにした上で応募することになります。

日本はHIVに感染している人に対して
非常に手厚い補助制度を有しています。
これについては
今後ゆっくりご紹介しようと思っていますが、
「HIV感染を原因とする免疫機能障害による
身体障害者手帳」の交付はその制度のひとつです。
病気の状態に合わせて4級から1級まで分かれています。

障害者雇用促進法では
企業には全従業員数の1.8%にあたる人数の
障害者の雇用を義務付けていますが、
わたしを訪ねてくださった会社では
HIVに感染している人をこの枠内で採用することについて
検討しているようでした。

HIV感染が起こる場合、というのは
1)粘膜と粘膜の濃厚な接触
2)血液・体液と粘膜の接触
3)感染している血液・体液や血液製剤の体内への流入
などがあるのですが、
日常の社会生活において、
職場でこのような事態が起こることは
ほとんどない、と考えてよいと思います。

わたしがその会社の方々に申し上げたのは、
治療を始めて間もないころは1ヶ月に一度、
症状が落ち着いている場合には3ヶ月に一度、
病院を受診できるよう配慮してもらえれば
そのほか特別なことはないと思う、ということでした。

わたしの外来の患者さんには
この障害者枠で採用されている方もいらっしゃいますが、
大多数は、一般採用です。

すでに「特別な人がかかる、特別な病気」では
なくなってしまっているHIV感染症ですが、
このような制度を利用することで
さらに多くの方々が社会的に活躍できるのは
本当にすばらしいことだと思います。

では、今日はこの辺で。
次回は
HIV感染症に関するわたしの話を聞いて、
製造業の品質管理の立場から
感想を寄せてくださった方のメールをご紹介します。

みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子

2007-04-13-FRI

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