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第2回 ゆっくりものを観てみよう。


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時には、何も考えないで、
ボーッと空に流れる雲を追いかけてみたり、
ただひたすらに、好きな音楽でも聴きながら、
好きな本を読み耽ってみたり、
それこそ前回の話ではないけれど、
目的もなく散歩をしてみたりしている時、
その時間は、とてもゆっくり
流れているように感じるものです。

しかし残念ながら、慌ただしい毎日の中で、
なかなかそういった時間は訪れません。
だから余計に、この「ゆっくりものを観る」という時間が、
今となっては、もっとも贅沢な時間なのかもしれません。

瞬間を切り取ったはずなのに、
そこに写り込む「前後の時間」がある。


ぼくはそんなゆったりとした時間の中で
感じることが出来る“いろいろ”と、
「一枚の写真」が成立するために必要な“いろいろ”は、
実は、とても深い関係があるのでは、
と、常日頃より感じています。

それというのも、本来ならば「写真」というのは、
具体的には、「瞬間」という時間を
切り取る方法論のひとつです。
しかし同時に、不思議とその「瞬間」が
生まれるまでに含まれている、
多くの時間を写し込むという特徴を、
写真は、併せ持っています。

そこで今回は、「ゆっくりものを観る」ことによって
生まれる「瞬間」について、
ちょっと考えてみたいと思います。
多くの場合は、それはあくまでも気の持ちよう、
みたいなところもあるのですが、
時には、物理的にもゆっくりものを観ないと
見えないものもあるのです。

冒頭の写真は、昨年現在放映中のアニメ『蟲師』の
オープニングの制作を依頼された際に、
原作の印象を頼りに、緑と水を探して、
秋田県と山形県の県境に位置する鳥海山という
山の麓に流れる小川で、撮影したものです。
その小川には、「鳥海マリモ」と呼ばれる、
青々と苔生した大きな丸い石がいくつも転がっています。
そしてその川面には、木漏れ日がキラキラと
写り込んでいました。

ぼくは、その様子があまりにもきれいだったので、
最初は、何も考えずに
その川面に向けてシャッターを切りました。
これがその最初の写真です。


撮影データ 絞り f4
シャッタースピード 1/60s.
フイルム Fuji PRO400
カメラ Konika HEXAR

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しかしその川面を、ゆっくり観ていると、
あることに気が付きました。
それは、この川面に映り込んでいる木漏れ日の影は、
川面が動いているからこそ、見えるという事実でした。

こちらの動画をごらんください。
動いているときには、川面に映っている木々が
よく認識できますよね?
しかし、パソコンの画面でこの動画を
「一時停止」してみてください。
水面がストップモーションとして、
止まってしまうと、
その川面に映り込んでいる像も、
当然のことながら乱れてしまうのがわかりますか?

では実際に、これを写真にしてみましょう。
水の流れよりも遅いであろう
シャッタースピードで撮影してみると、
その写真の中には、
「印象としての瞬間」が写し出されました。


撮影データ 絞り f11
シャッタースピード 1/8s.
フイルム Fuji PRO400
カメラ Konica HEXAR

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この2枚の写真は、物理的にカメラの観ている
「時間」が違うだけなのですが、
全く違うものになってしまいます。
具体的にはシャッタースピードの
「1/60s.」と「1/8s.」という違いです。
60分の1秒、と、8分の1秒、です。

もしかしたら、マニュアルのカメラに
精通していない方にとっては、
突然、専門用語が出てきて、いったいなんのことか、
おわかりにならないかもしれません。
たしかにこれは一見小さな違いではあるのですが、
実はそこには、8倍の時間の差があります。
確かにぼくらが生きている世界では、
1/60s.と1/8s.は小さな時間の差に過ぎないのですが、
カメラにとってみると、とても大きな違いになります。
それは、例えば1時間という時間に対して、
8時間、というくらいの違いを思い描いていただくと
ちょうどよいかもしれませんね。

「流れている時間」を意識するだけで
あなたの写真は変わってくる。


だからと言って、「シャッタースピードを変えてみよう」
という話では、ありません。
ここで最初にお話しした
「ゆっくりものを観てみよう」というところに、戻ります。

たとえ写真を撮るためのゆったりとした時間を
作ることが出来なかったとしても、
あなたがカメラを構えるとき、
あなたが写そうとしているものや人のまわりにある
「ゆっくりと流れている時間」を意識してみてください。
意識しながら、今までよりも少しだけ、
ゆっくりものを観ながら、シャッターを押してみてください。

その「ゆっくり」の気持ちは、かならず写ります。

ほんとうに「意識するだけ」で、いいのです。
きっとそれだけでも、その小さな違いが、
大きな違いに変わっていくはずなのです。



カメラは瞬間という時間を切り取る機械だけれど、
その瞬間は、永遠の時間の流れのなかの1コマ。
あなたがその時間の流れを感じているかどうかは、
ちゃんと画面に写ります。
だから、カメラを構えるときは、
対象を「ゆっくり」観てみてくださいね。


次回、第3回は
「びくびくしながらも、真正面。」
ということについてお話しします。
(次の金曜日に更新します。お楽しみに。)


2005-12-23-FRI
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