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第4回 光を観るために、空を撮る。


December,21 2005 06:50
at Higashikitazawa,Tokyo
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まず「観光」という字をよく見て下さい。
「光」を「観る」と書きます。
昨今では、観光というと、
時にイベントのひとつのようになってしまい、
それでもみんな好きなのに、
なかなか格好いいことのひとつにはなっていません。
しかし、おそらく元々は、
まさに「光を観る」ということだったのではないでしょうか。
よく地方に出かけると、
「景勝地」と呼ばれる場所がありますが、
そこでは、きっと時間帯及びに季節によっては、
美しい「光景」が、観られるのでしょうね。

写真と長い間向かい合っていると、
そこには常に光の問題が介在します。
もっと言うと、
光がないと写真そのものは存在しない、
といっても過言ではありません。
それ程に、写真と光は密接な関係によって成立しています。

本当の「観光」の話は、また改めてお話ししますが、
今回は「日常を観光する」ということは、
どういうことかというお話をしたいと思います。

ぼくは今から4年前、忙しい毎日を繰り返している中で、
時折、昨日の天気さえも
思い出せない自分がいることに気が付きました。
そしてそのことは、日々の日常の中にある
光のことを忘れてしまっているということにもなります。
これはもしかしたら、
特に写真家であるぼくにとっては
大いなる致命傷なのではと感じました。
その時に、ふと浮かんだ言葉が「観光」でした。
そしてぼくは、その日から
「日常を観光する」という気持ちで、
毎日の空の写真を撮ることにしました。
ただそれは、あくまでも日常の“上”にある
「光としての空」を意識することが
最大の目的のひとつでしたので、
そこには常にこの日常が営まれる
大地の部分を入れ込んで撮ることに決めました。
そしてぼくは、その2001年の元旦から、
一日も欠かすことなく、毎日の空を撮影して、
その写真を、自身のホームページ上で更新し続けています。

http://www.ichigosugawara.com/

そして、もちろんバーチャルではありますが、
その「日常を観光する」として始めた「今日の空」は
ぼくに本当に多くのことを教えてくれました。

それは、日常に存在する光としての空をとらえて、
それをモニターという別の光を利用して、
もう一度光らせる、ということにもなるのです。
そして、何よりも助かっているのが、
「思い出す」という効果です。
何とか一日前ぐらいのことは、
忘れることがなくなったとしても、
数ヶ月経てば、やはり同じく忘れてしまいます。
仮に「ある日」が大切な日だったとします。
もちろん皆さんも、そんな日は手帳に書き記してみたり、
「絶対忘れないようにしよう!」と思ったりしますよね。
そしてそれを、思い出そうとした時、
そこに、その日の
「光を観た」一枚の写真があったとしたら、
その大切な日は、より鮮明なかたちで
甦るのではないでしょうか。
その為にも、そんな日は必ず写真を撮ってみて下さい。
するときっと、その瞬間に
それはちょっと特別な写真になるはずです。


November,16 2005 07:12
at Higashikitazawa,Tokyo
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もちろん、毎日が特別な日の
連続というわけではありませんし、
誰だって、毎日が楽しいわけではないし、
天気だって晴ればかりではありません。
その中には、曇りの日も、雨の日も、
時には吹雪の空だってあったりします。
それでも驚くことに、
「今日は暗いなぁ〜」と感じる空であっても、
昼間であれば、必ずその空は写ります。
そうなのです。
それはそこには、
常に光があるということの大きな証明です。
しかも特にそんなどんよりとした曇り空の下では、
そのことを知るだけで、
それにつられて鬱ぎ込んでいた気持ちも
少しだけ軽くなったように感じるから、不思議です。

逆に、雲ひとつない
どこまでも続いているかのように感じる青い空の下では、
何だか自分自身が、思い悩んでいることが
とても小さく感じて、
とても前向きな気持ちに
移り変わっていったりするものです。
そして時には、空に流れる雲を追いかけているだけで、
その次から次へと姿を変える
その姿を見ているだけで楽しくなります。
しかも有り難いことに、
どんなに嫌な天気が続いたとしても、
そのうち必ず晴れはやってきます。
そう考えるだけで、気持ちも軽くなりませんか。

そう感じた時は、
とにかくその空にカメラを向けてみましょう。
そして、何よりも「特別な日」の空は、何も考えずに
ただその日の光を記録しておく、
というそれだけでもいいですから
シャッターを切ってみましょう。
きっとそこには、自分だけの
大切な観光の記憶が写っているはずです。



いいことがあった日も、
つまらないことがあった日も、
忘れたくないことがあった日には、
空の写真を撮ってみよう。
その写真はかならず、
たいせつな一枚になる。


次回、第5回は
「本当に正しい、カメラの選び方」
ということについてお話しします。


2006-01-06-FRI
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