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第6回 何が何でも、失敗は成功のもと。


at HongKong
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今回は、いきなりちょっと強引なタイトルではありますが、
まず最初に、写真の原則をひとつ。
「目の前にある被写体の明るさによって
 その露光量が決まる」というものがあります。
いわゆるこれが、よく言うところの
「露出」というものです。
要はその光に合わせて、
カメラ側の「シャッタースピード」だとか
「絞り」だとかを設定して、シャッターを切るわけです。

といっても、むずかしい事はなくて、
特に最近のカメラは、そういった一連の作業を
全てオート化してくれています。
よって常に、それもまた自動的に
適正な明るさの写真が撮れるわけです。

もちろんそんな便利なオートにも、
それなりの欠点があります。
例えばカメラが「暗い」と判断したときには
自動的にストロボが光ってしまったりする。
あなたがその「暗さ」を撮りたいなあと
思い描いていたにもかかわらず、
まるで違う写真になってしまう。
また、きちんと撮ったつもりが、
予想以上にブレていたりする。
そんなふうに仕上がった写真を見て
ガッカリしたことが、
きっと皆さんにもあると思います。

そこで今回の話になります。
だからといって、「失敗しないための方法」を
お話しするのかと言えば、
そうではありません。
簡単に言えば、むしろ逆さまに
どんどん失敗しましょう! というお話です。
実はこれこそが、写真の方法論の、
基本のひとつだったりするのです。

失敗なんて、それでは意味がないと
思う人もいるかもしれません。
特に写真についてある程度の経験を持っている人たちには、
あまりにも初歩的で無意味な話のように
聞こえるかもしれません。
しかし実はそういう人たちにこそ、
ぼくは「失敗」をすすめたいと思っているのです。

多くの場合、そういった失敗を繰り返していく中で、
失敗をしないために、それなりの技を習得したり、
知識を身につけたりするわけです。
それはもちろん、悪いことではないのですが、
実は技術の向上と同時に、
なくしてしまうものもあります。
残念ながら、そのなくしてしまいがちなもののひとつに、
「思い」という、
写真にとっては何よりも大切なものがあります。
そして、その「思い」こそが、
いい写真を撮るためには不可欠だと、
ぼくは考えています。


あの、ロバート・キャパだって!


あの世界的にも高名な写真家
「ロバート・キャパ」の著作に、
『ちょっとピンぼけ』というタイトルの名著があります。
それこそ彼は、一般的には報道写真家と
捉えられることが多いのですが、
実際に彼の写真そのものに目を向けてみると、
その具体的な戦場であるとか、その状況以上に、
驚くほどに「ロバート・キャパ」という人物の
人柄だったり、思いだったりが、
そこには確実に写っています。
おそらくそれこそが、彼の写真が長くに渡って
人々の心を捕らえて離さない
何よりの要因なのではないかと、ぼくは思っています。

そして実際にも、ぼくは彼以上に、
写真が上手いと感じる写真家は他にいません。
それ程に上手いと思わせる写真家の本のタイトルが
『ちょっとピンぼけ』。
だからというわけではありませんが、
ブレていてもいいのです。
それこそ、ピンぼけだっていいし、
「上手く」写らなくたっていいのです。
そんなことよりも、大切なことが写真にはあります。
それはその写真が、撮影者にとって
「本当のことであるのかないのか」
あるいは
「そこには、そのときの気分が写っているのか」
ということではないかと、ぼくは思っています。


上手く写らないからこそ、写るもの。


昨今のトイカメラ・ブームなどは、
むしろ、その「上手く写らない」部分があるからこそ、
「いい写真」が生まれるという部分もあると思われます。
要は、様々な「思い」を写していくためには
手段を選ばず、たとえ失敗を繰り返したとしても
気にすることはありません。

もちろん、時には技術的に
高いクオリティが必要とされることもあると思います。
そして、長く見ていることのできる写真の多くには、
様々な工夫が為されているのも事実です。
しかし物事には順序というものがあって、
ぼくは、せっかくカメラという素敵な道具を手にして
写真を撮るのであれば、
失敗を恐れて、失敗しないために写真を撮るよりも、
失敗など気にしないで、
とにかく自分自身の気分に正直に
写していくことから始めて欲しいと思います。

カメラを手にして被写体と向かい合った時に、
誰でも必ず何かを感じたり、
思ったりするはずです。
そして、それこそ何も感じないなどと
いう人はいないのではないでしょうか。
だから、そのときに思ったこと、感じたことと
まずは正直に向かい合ってみましょう。

例えばある朝、目覚めた時に
きれいな青い空が拡がっていたとします。
そして写真でも撮ろうかなぁ〜と思って、
あなたは、カメラを手にして外に出てみました。
しかし外はまだまだ寒くて、
写真を撮ることよりも
「寒い!」ということの方を、
あなたは強く感じています。

さて、そのとき、あなたはどんな写真を
撮ろうとするのでしょうか?

おそらくその時のあなたの気持ちは、
すでに「今日は寒いなぁ」というものに
なっているのではないでしょうか。
そんな時は、最初に思った、
その日の青い空を窓越しから見て感じたいろいろを
写真に納めようとするよりも、
「この寒さが少しでも写っていればいい」
と思って、シャッターを押してみて下さい。

同じように、寂しかった時には、その寂しさが。
楽しかった時には、その楽しさが。
暖かいなぁ〜と感じた時には、
その暖かさが写っている写真が、
何よりもいい写真なのだと、ぼくは思います。
そしてその「感じ」は、
嬉しいことに誰にでも伝わるものです。

とにかく思い描いたイメージも大事なのですが、
まずはとにかく、その時の気持ちに出来るだけ正直に
写真を撮ってみて下さい。

少しでもその気持ちを写すためだったら、
いくらだって失敗したっていいのです。
というか、失敗を恐れる必要はないということです。

だからといって、実際にやってみると
よく解ると思うのですが、
カメラを手にした時に、
自分に正直になるというのも、
実はそれ程容易いことでもありません。
どうしても写真を撮る場合は、被写体との間に
「カメラ」という異物が入り込むわけですから、
何かと面倒なのも事実です。
それでも、たとえ偶然でも
その「自分が思った感じ」が写ったりすると、
ほんとうに嬉しいものです。
そしてそれこそが、
写真の最大の楽しみなのではないかと、
ぼくは思うのです。

とにかく続けていれば、
自ずと単純な失敗は減っていきます。
そしておそらく、
今度はこうやってみたらどうかなぁ〜、などと、
自分なりのアイデアだって、どんどん出てくるはず。
そうしたら、今度はそれを試してみればいいのです。
しかもそれはそれで、結構ゲームのようでもあり、
なかなか楽しいものです。
その上、そういった試行錯誤を繰り返す中で
驚くほどに多くの発見があったり、
多くの偶然が生まれるはずです。


ぼくの大失敗を、ごらんください。


もちろんそれと同じぐらいの失敗もあります。
現にぼくだって、
未だに様々な失敗を繰り返しています。
現在本当に眩しいと思える光を
写したいがために始めた湿板写真にしても、
最初はこのように「何も写らない」という
衝撃的な結果からのスタートでした。


(クリックすると拡大します)

しかし何とか写したいと、
試行錯誤‥‥というか「失敗」を繰り返してみました。
その過程で、偶然ある薬品を少し変えてみたところ、
明らかに今までと違う描写をしてくれました。
しかもそこには、ぼくが思い描いていた
「光の感じ」が写っていました。
それ以来、ぼくはその調合方法で湿板写真を続けています。
(くわしいことは、またいずれお話ししますね。)
そして現に、こうやって失敗の中から
偶然生まれた湿板写真は、
実は驚くことに、古典技法にもかかわらず、
結果としては、他には存在しない
世界初の「新しい写真」となったのです。


at Kakeroma Island, Amami
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だからどうした、というわけではありませんが、
時にはこんなことが、
失敗から生まれる場合もあるということです。
こうやって自分自身が経験したこともあって、
写真というのは、様々な光学技術に支配されながらも
つくづく何よりも大切なのは,
その「思い」なのだと感じています。
そうなのです。
とにかく「失敗は成功のもと」と信じて
失敗を恐れずに、多くの写真を撮ってみて下さい。
すると必ず、成功が生まれるはずです。



失敗だとか、上手く撮ろうだとか思わずに、
じぶんの「そのときの、思い」をこめて、
シャッターを押してみよう。
写真ができたら「そのときの気持ち」を
思い出しながら見てみよう。
それが写っていたら‥‥、
最高に、うれしいことだから!


次回は「上を向いて歩こう。」
というお話です。お楽しみに。


2006-01-20-FRI
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