第13回 マジックアワーを知っていますか。
at PM6:23
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映画の世界には、
“マジックアワー”という言葉があります。
太陽が地平線に沈んで、
完全に暗くなるまでの約20分間程の時間の中で、
夜とも昼ともいえない不思議な光があたりを埋め尽くし、
フイルム上で、独特のしっとりした
美しい映像が撮れることから、
MAGIC HOUR──魔法の時間、と言われているのです。
具体的な作例としては
テレンス・マリック監督の『天国の日々』。
彼はその全編を“マジックアワー”で撮影しました。
ある時、ぼくはいつものように
大好きな場所のひとつでもある
那覇市の中心にある希望ヶ丘公園から、
まさに暮れゆく街をぼんやりと眺めていました。
やがて、太陽も地平線に姿を隠し、
そろそろホテルに戻ろうかなあと思った瞬間、
突然、先程まで何もなかった空の中に、
美しい放射状の光が立ち現れました。
ぼく自身も、こんなにも美しい日没の瞬間に
出会ったことがなかったのはもちろんのことですが、
何よりも、その時の、あたりに存在するすべてのものたちの
見え方が一気に変わっていったことに驚きました。
そして、それこそがまさに“マジックアワー”だったのです。
具体的にどういうことかと言いますと、
その日、その丘では、今見ている方向に
太陽が沈んでいきました。
ということは、
日没前は、目の前に太陽があったわけです。
その時点での、光の状態としては
いわゆる“逆光”と呼ばれ、
写真に撮ると、すべてがシルエットに見えるように
手前に、強くて長い影を落としていました。
そして、やがて日が落ちることで、
そこに光そのものがなくなり、
同時にその影もすがたを失います。
しかし、いきなり真っ暗になるわけではありません。
うっすらと、やわらかい光に包まれた状態になるのです。
ぼくも、その時にはじめて気がついたのですが、
そのやわらかい光は、いったん空に反射してから
降り注がれているものだったのです。
これが“マジックアワー”でした。
通常の光には方向性があって、
明るい場所と、暗い場所が出来ます。
そのことで、ものごとのかたちが
はっきりと見えてくるのですが、
この“マジックアワー”という時間帯の光には
そういった強い方向性がありません。
しかもその光は、
空というドームの中に包まれるように
あたりにほぼ均等に回っているわけですから、
ただきれいなだけではなくて、
ぼくたちが暮らすこの星が、
“まあるい”ものであることを、
改めて知ることが出来る、
大切な瞬間であったりします。
すべての時間には、その時間の美しさがある。
長い前置きになりました。
今日のお話ですが、いい写真を撮ることが出来るのは
“美しい太陽の下”や“マジックアワー”に限ったことだ、
なんてことが言いたいわけではありません。
その包み込むようなやわらかい光は
もちろんきれいなのですが、
それを知ることで、改めてこの太陽の位置というのを
意識してもらいたいと思ったからなのです。
ぼくは、「すべての時間」の中で、
「その時間ならでは」の美しい写真が
撮れるのではないかと思っています。
風景であれ、何であれ、
この世に存在するすべてのものたちは、
時間帯や、その時々の光のありようによって
その印象が、かなり異なります。
そのことが、写真にとって、
思いの外、大きく影響してきます。
例えば、特に晴れの日などは、
朝の光と、昼間の光と、夕方の光は、
誰が見ても、明らかに違いますよね。
この印象の違いは、まさに太陽の位置の違いによるものです。
太陽は当たり前のように、毎朝、
東側より昇って、西側に沈んでいきますが、
季節によって、その場所も高さも異なります。
たとえ毎日、同じ場所で、同じ時間に
同じものを見ていたとしても、
常に変化していくわけです。
つまり、今日の、いまあなたが見ている光は、
「ぜったいに、他の日には出会えない」
唯一の光だったりするのです。
そう考えると、たとえ何でもない
きわめて普通の光景と──あなたがそう思う光景と
向かい合っていたとしても、
それもまた大切な、かけがえのない瞬間であるわけです。
写真を撮るとき、
太陽の位置をすこしだけ意識しよう。
でも。
特に、実際に写真を撮る前に
そのまだ出会っていない光景に対して、
「こういうふうにちがいない」なんて、
勝手なイメージを強く持ちすぎてしまうと
じっさいに目の前にした光が想像とちがった場合、
シャッターを切れなくなってしまったりするものです。
ぼく自身も、特に外で写真を撮る場合、
思い描いていた光の状態とは
違う光の中で、写真を撮る機会が多くあります。
では、そんな時はいい写真が撮れないのかというと
実はそうでもないのです。
むしろそのことで、いつも新しい何かを
見つけることが出来る、
というチャンスだと思うようにしています。
なので、今日はひとつだけ。
「同じ時間、同じ光は二度とない」と思って、
今までよりも、太陽の位置を意識して、
写真を撮ってみましょう。
できれば、いつも見ている好きな風景を、
時間をかえて、何度か撮ってみるのもよいかもしれません。
すると、それぞれの時間帯によって、
「いいなあ!」「きれいだなあ‥‥」というものが
変わっていくことに気がつくはずです。
そして、常に様々な光の状態が、
そこにあるということを、
知ることが出来ると思います。
すると、すべての時間帯が、瞬間が
少しだけ大切なものに思えるかもしれません。
そんなふうに、目に映る景色を見る習慣がつくと、
どんな光の状況においてでも、
楽しく写真を撮ることが、
出来るようになるはずです。
同じ風景でも、ぜったいに「同じ時間」はない。
つまり「同じ光」はない。そのことを意識して、
いつもの風景を見てみよう。
写真におさめてみよう。
そのなかで「いいなあ!」と思う、
光の状態を探してみよう。
すると、すべての時間帯がいとおしくなる。
すべての景色を、楽しく写真におさめることが
できるようになるはずだから。
at PM6:45
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次回は、
「写真のために、まわり道をしてみよう」
というお話です。お楽しみに。
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