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第25回 写真と水の親密な関係。


at Borneo, Malaysia
(クリックすると拡大します)


相変わらず、スッキリしない空模様が続いていますね。
しかも、今のような梅雨空のもとでは
時折雲の合間から顔を出す光さえも、
何となくモワンとしていて、
途中で吸い取られているようで、
その光も、なかなか地上にまで
降りてこないような感じがします。

こんな空の下では、何となく気持ちまでドンヨリしてきて、
なかなか気持ちよく過ごすのは、難しいですよね。
ましてや、写真を撮ろうという気分にも
なかなかなれないかもしれません。

そこで今回は、そんな時だからこそ、
少し見方を変えて、写真を撮ってみようというお話しです。

一枚目の写真は、数年前にマレーシアの
ジャングルを訪れたときの写真です。

それこそジャングルという場所は、
究極の高温多湿地帯です。
不快指数を表すならまさに100%!
というところかもしれません。
じっとしていても、汗は出てくるし、
体感的には、かなりきついのにもかかわらず、
そんな時には想像以上に、
いい写真が撮れたりするものです。
ぼく自身、そのことをとても不思議に感じていたのですが、
それはどうやら、いわゆる湿度という水分に
原因があるようです。
第22回のデジカメの話の時にも少し触れたように、
特にフイルムカメラにおいて、
水分は、写真に空気感を定着する上で、
切っても切れない関係を持っているのです。

霧の中で撮った写真に写っていたもの。

空気感──。これまでにもぼくは
「そこに写っているものが、
 本当のことであるのか、
 そうではないのか、ということが
 とても大切だ」
と、くりかえし、お伝えしてきました。
その時に、そこにある「空気」が
写っているのかどうかというのは、
かなり重要な要素になってきます。

つまり、例えば、この時のように、
ジャングルの中で、
突然立ち現れた霧の中に包まれたとき、
その水の中にいるかのような印象が
写るか、写らないかで、
写真の印象は、大きく変わります。

ぼくはこの時、深い霧の中で、
見えるものを見つめながら、
同時に、その霧が晴れた後の景色を想像しながら
シャッターを切りました。
そんな風に思っただけで、
先程までの、ドンヨリとした気分とは
少し違った気分でジャングルを撮影することが出来ました。
具体的にどういうことかというと、
ただドンヨリと暗いだけではなくて、
霧の中で拡散する光を見つけることも出来たし、
しかもその水分が、植物たちにとっても、
とても大切なもののひとつなのだということが、
本当のこととして、よくわかったのです。

その結果として、(この画面上で、
それをお伝えするのは
とても難しいかもしれませんが、)
出来上がった写真を見ていると、
そこには、水の粒子と、光の粒子の両方が、
しっかりと写っているように感じることが出来ました。

あえて、梅雨空に、カメラを持ちだしてみよう。

これはあくまでも、
ぼく個人の体験ではあるのですが、
うっとうしい天気が続くなぁ、と思っているときに、
この写真を、そして、その時の体験を思い出しました。
しかも、この写真を見ていると、
その時の匂いも含めた、空気みたいなものさえも、
しっかりと思い出すことが出来ました。
それをたしかめることで、この写真は
ぼくにとって「大切な写真」になりました。
そして、この“湿度”というものが、
写真に空気感を定着するにあたって、
相当に大切な要素だと再認識したという訳なんです。

この霧が晴れた後のジャングルの光景が、
瑞々しく美しかったこと!
その時のぼくの目には、
先程まで霧の中だったからこそ、
それがすべて、とても新鮮に目に映りました。

確かにこの梅雨時というのは、
写真にとって、最も大切な要素のひとつでもある
「光」が少ないわけですから、
なかなかスッキリとは
写ってはくれないかもしれません。
それでも、もしかしたらそのことで、
次なる光景が新鮮に見えることもありますので、
そんなことを期待しつつ、
あえてこの梅雨時に、
写真を撮ってみて欲しいと思っています。

とは言っても、なかなかイメージしづらいでしょうから、
だったら、そんな時には何を撮るか
というお話しをしますね。
まず、もう一度あたりをよく目を凝らして見てみて下さい。
するとそこには、特に植物たちは、
次なる季節に向けて、むくむくと確実に
成長している姿も見つかるはずです。
しかも、ついこの間までつぼみだった木々の枝にも、
もうしっかりと、開きながら次なる光合成に
準備万端ですよね。
ぼくは、そんな姿を見ているだけで、
少しは元気が出ますし、
窓から見える空だって、
一見どんよりとして、さえないように見えますが、
そんな時は、モノクロフイルムを使ってみたり、
デジカメのモノクロモードを使って、
その空に向かって、シャッターを切ってみて下さい。
すると、おそらく出来上がった写真は、
ちょっと水墨画のようで、
それはそれで、いい感じですので、
試してみて下さいね。

それと、こんな時にもうひとつ心配なのが、
大切なカメラが、濡れてしまうことだったりしますよね。
中には、防水なんていうものもありますが、
はっきり言って、ほとんどのカメラは、
濡れることを、とても嫌がります。
しかし、少しぐらいだったら大丈夫。
そのかわりに、もしも少しでも濡れてしまったときは、
すぐに拭いてあげて下さいね。
(ただし、レンズが温度差などで曇ってしまったときは、
慌てて拭かないで下さいね。慌てて拭くと、
大切なレンズを傷つけてしまいます。)
とにかく、こんな季節にカメラを持ち歩くときは、
そのすぐに拭いてあげることの出来る準備をして、
出かけてみましょう。
すると、そこには必ず新しい発見があるはずですよ。

それに何と言っても、あの雨上がりの緑の感じは、
とてもきれいですよね。
そうです、あの感じです。

そして、それはきっと緑に限ったことではなくて、
他のすべてにも、当てはまるはずです。


今の時期ならではの、
湿度という水分を確かめるように
写真を撮ってみて下さい。
すると、たまには、ドンヨリとした梅雨空の下でも、
梅雨空ならではの、いい写真が撮れることだって
必ずあるはずです。
しかも、きっとそんな写真を撮っているうちに
そんな梅雨も明けていくことでしょうし、
だからこそ、その後に降り注がれる光は、
より一層美しく見えるはずですよ。



at Akita, Japan
(クリックすると拡大します)

そんな梅雨が明けた、ある日の光景です。
この場所は、湧き水が豊富な場所ということもあって、
そこに流れる水も、一年で一番きれいでした。

次回は
「黒にもいろんな黒がある。」
というお話をします。お楽しみに。
(前回からスタートした写真家についてのシリーズは、
 月1回更新の予定です。)

2006-06-23-FRI
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