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第33回 海に映る光は、半分の光。



at Enoshima
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もうすぐ秋がやってきます。
こんな季節に海を訪れると、
夏には多くの人々で賑わったであろう
海の家もすっかり片付けられたりしていて、
まだ陽射しは強いのに、どこかさびしい、
そんな光景を観ているだけで、
季節が移りゆくのを感じるものですよね。
不思議なもので、そんな時に限って
大きな夕陽が、海に沈んでいく瞬間に出会ったりします。
海面をキラキラと黄金色に染めていくその姿は
もしかしたら、一年の中で
一番美しいときなのかもしれません。
そして、そのキラキラと輝く海上の光は、
それを観た誰もが、大きく輝く太陽の光のすべてが
海に映って反射しているような
錯覚を覚えるのではないでしょうか。

しかし実際は、その半分の光は海の中に入っているのです。
光が海に染み込んでいるんですね。
ぼくはいつも、そんな瞬間に出会う度に、
改めて、この世界にあるすべてのものごとは、
こうやって太陽の光が染み込むことで
生まれているのかもしれないなーと思うのです。

そんな生命の源となっている光を
どのようにしてとらえたらいいのか、
今回は、そんなお話をしたいと思います。


at Nara
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光は反射するものではなく、染み込むもの。

ぼく自身も、以前はただ何の気なしに
好き勝手に写真を撮っていたのですが、
ある時、夕陽が水面に映り込む瞬間の写真を撮りました。
ところが、目で見ていると、眩しいこともあって
その具体的な光量がわからなかったのですが、
実際にプリントをしてみると、
どこからどう見ても、水面上の光量は半分なのです。
冷静に考えれば、水中にも光が届いているわけですから
当たり前といえば、当たり前のことなのですが、
感覚的には
「太陽がそのまま映っている」と思っていたので、
それは大きな発見でした。
そのときに思ったのが、冒頭に書いたように、
「もしかしらこの光が映り込む世界から、
 すべてのものごとは生まれているのかもしれない」
ということだったものですから、
一時は、そのことばかりが気になって、
そんな写真をやたらと撮っていました。

何が解ったというわけではないのですが、
少なくとも、そのような撮影を繰り返していると、
つくづく光は反射するものではなくて
染み込むものなのだということだけはわかってきました。

それは水面に限ったことではなくて、
野菜などの植物にしても、
ぼくたちのような動物にしても、
太陽光はエネルギーの源なわけですから、
考えようによっては、“写真を撮る”というのは
そのおこぼれをもらっている
ようなものなのかもしれませんね。
とはいうものの、光が染み込む瞬間というのは、
いざそれを写真に写そうとすると、
なかなか上手く写りません。
現にぼくだって、その時は撮れたような
気になっていたとしても、
実は、単純な失敗だって多いのです。
中でも、一番多かった失敗は
ブレていたり、露出不足だったりと、
「とにかく、光を受け止めることが
 出来ていない」ということでした。

そのひとつの原因として考えられるのは、
この世界は、光を含めて
「常に動いている」ということです。
特に、今回お話ししているような
光が染み込む様子を写してみようとした時、
いつものような写し方で、
“瞬間”という短い時間を写しているだけでは、
写真にも写りませんし、実際に観ていても、
なかなかその姿は見えてきません。

だったらどうするかといいますと、
そんな場合は、三脚を使って撮影してみることで
簡単に解決するのです。
少なくとも、ぼくはそうすることで、
多くの失敗を回避することが出来ましたので、
ちょっと試してみてはいかがでしょうか。


三脚を使うことで、
いい意味の受け身が生まれる。


一般的には、三脚というと、
暗い時などに“ブレないために使う”と思われていますが、
時には、たとえそれ程暗くなかったとしても、
カメラを固定して、絞りもぐっと絞り込んで、
スローシャッターも気にしないで撮影してみることで、
“写る”、“写らない”以前に、
何よりもこちらの気持ちというか、
立場みたいなものが変わっていくのです。
言葉で言うと、「いい意味で、より一層受け身になる」
ということなのかもしれません。
とにかく、少なくとも目の前にある世界に対して、
とてもゆったりとした眼差しを向けられることは確かです。
とはいっても、三脚を使って写真を撮るというのは
それなりに大ごとですので、
まずは、何かの台の上にカメラを乗せて、
撮ってみてもいいかもしれませんね。

そうすることで、きっと光が染み込む瞬間を
写すことも出来るでしょうし、
もしかしたら、そうやってゆっくりと
シャッターを切った時間の中に、
偶然のように、季節が移り変わる瞬間も
写るかもしれません。
そして、きっと写しているあなた自身にも
光は当たっていて、
そのことを感じることで、
面白いように、生き生きとした写真になるはずです。


本格的な秋が来る前に、
太陽が海に沈むところを撮影してみよう。
ただ写すのではなく、
台の上や三脚に固定して、
ゆっくりシャッターを切ってみよう。
そうすることで、太陽が海に染み込むところや、
季節そのものが変化するようすを、
写すことができるかもしれないから。



at Ireland
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次回は、
「標準レンズという、標準について」
というお話をします。お楽しみに。


2006-09-08-FRI
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