第36回 |
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視点を写す、“望遠レンズ”。 |
at Kenya,Africa
使用レンズ 300mm
(クリックすると拡大します)
これまで2回にわたって、
レンズの画角のお話をしてきましたが、
今回が、その最終回。
“望遠レンズ”のお話です。
人類にとって、
「遠くにあるものを、詳細に見たい」という願望は、
どうやら、かなり昔からあるようで、
その願望を叶えるための
“望遠鏡”と呼ばれるものの歴史は、
実は、写真の歴史よりも、長い歴史を持っています。
そういった願望を
そのまま写真で表現できればいいのですが、
天体写真のような、
極度の望遠効果を写真に撮る場合は別にして、
普通に写真を撮る上で、
“望遠レンズ”を使おうとした場合、
これが、なかなかやっかいなレンズなのです。
“ものを見る”そして“切り取って撮る”。
その最大の理由が、
そもそも写真の場合は、同じ“見る”でも、
“ただ見る”ではなくて、
レンズを等して“切り取って見る”なわけです。
おそらく皆さんも、そんな経験があるかと思うのですが、
この“望遠レンズ”を使って、
ただ画面上で、被写体に寄ってみたり、
単純に拡大してみたところで、
気を付けないと、ブレてしまうことも多いでしょうし、
なかなか、いい写真というのは生まれてきません。
だからこそ、いかなる場合においても、
まずは最初に、“見る”というところから始まって、
そして、次にそれを“切り取って撮る”、
ということを、少しだけ意識をしながら
ゆっくりと、写真を撮ってみて欲しいと思っています。
とはいうものの、だからといって
写真を撮る度に、そんなことを考えていたら、
それこそ、決定的な瞬間を逃してしまいますよね。
今回お話しする“望遠レンズ”というのは、
数あるレンズの中でも、
今までお話ししたレンズに比べると
写真を撮るということにおいては、
どちらかというと、特殊なレンズなのかもしれません。
考えてみたら、ぼく自身も、
特にポートレイトを撮る時など、
人の表情を追いかけるのには、とてもいいレンズなので、
もちろん使ってはいるのですが、
この“望遠レンズ”を、日常的に使うことは
あまりないかもしれません。
しかし、ポートレイトに限らずとも、
“望遠レンズ”ならではのいい写真だって、
もちろん、たくさんあるのです。
ただ、注意しなくてはいけないのは、
この“望遠レンズ”を使うことで、
その“眼差し”だったり、“視点”のようなものが、
他のレンズに比べると、より一層はっきりとしたかたちで、
写真の中に現れてくるということです。
そんな“望遠レンズ”をきちんと使いこなすためにも
ちょっと試してみて欲しいことがあります。
第34回「“標準レンズ”で見える、
大切な“ふつう”。」の時に、
35mmカメラにおける、標準レンズの50mmというのは、
実際に肉眼で見たときの印象に、
最も近い写真を撮ることが出来ますが、
実際にファインダに見える像は、
そこに見える対象物の大きさも、
想像以上に小さく見える、というお話をしました。
では、実際に肉眼で見たときの大きさと、距離感を、
そのままファインダーの中に再現しようとした場合、
(若干の個人差はあるのですが、)
その時の焦点距離は、
35mmカメラにおいては、100mm前後です。
(だから、どのメーカーでも、
必ず100mm前後のレンズは作っていますし、
この優れた人間の目に近づくためにも、
マクロレンズという、より近づいて撮るためのレンズも
そのほとんどが100mm前後です。)
しかも、この画角で写真を撮るということは、
結果的に、もっとも“ものを見る”練習にもなりますので、
それこそ、先程お話ししたように、
まずは、この100mmレンズを使って、
“ものを見る”〜“切り取って撮る”
を繰り返してみて欲しいと思っています。
自分の眼差しを、写真に置き換えるのが
「望遠」です。
ただ、特に一眼レフカメラにおいては、
最近では、単焦点のレンズよりも、
ズームレンズが主流です。
たとえば、あなたがお持ちのレンズが
仮に100mm以上ズームできるものだとしても、
まずはズーム機能を使わずに、
100mmあたりに固定して、
とにかく、自分自身の眼差しを写すつもりで
練習してみて下さいね。
そして、それを繰り返していると
必ず、その中に“自分の視点”のようなものが
写ってきます。
それが何となく写ってきたなーと感じてきたら、
それこそ、そこからグッとズームして、
被写体の表情を追いかけながら、
望遠的な写真を撮ってみたらどうでしょうか。
よく、「お母さんが撮る写真の、子供の表情がいい。」
という話をよく耳にしますが、
それだって、子供がお母さんだから安心している、
というだけではなくて、
きっと、ほかの誰よりも、
お母さんが子供の表情をたくさん見ているということの
証明なのではないかと思うのです。
とにかく、“望遠レンズ”を使って写真を撮る場合は、
“写真を撮る”以上に、“ものを見る”を大切にしながら
写真を撮ってみて欲しいと思っています。
おそらく、それを繰り返すことで、
しっかりと自分自身の眼差しが
写真に置き換えた時の感じを知ることが出来るはずです。
そしてその上で、その延長線上に存在する
ものごとの詳細な表情が写し出された時に、
初めて”手に取るように”というような
印象を持った写真が、撮れるのではないでしょうか。
そして、そのことさえ忘れなければ、
きっと、子供や動物のかわいい表情などにしたって、
時には“望遠レンズ”を使うことで、
その表情も、そのかわいらしさも、
しっかりと写ってくるはずです。
だからぼくは、単純に
「遠くにあるものを、近くに見る」ためよりも、
「自分自身の視点を、写真にする」ために、
使ってみるというのが、
“望遠レンズ”の正しい使い方なのではないかと
思っています。
よく望遠レンズの失敗として
「ただ寄っただけの写真」をよく目にしますが、
いくら近づいて見ることが面白いからといって、
闇雲に“望遠レンズ”を使って写真を撮ったりしないで、
まずは最初に、自分自身の“眼差し”を写すつもりで、
この“望遠レンズ”を使ってみてくださいね。
すると、そのことを意識するだけでも、
必ずそこには、“やさしくて、丁寧な眼差し”が
写ってくるはずです。
at Barcelona,Spain
この写真は一見、月面写真のようにも見えますが、
実は、あのガウディが造った「グエル公園」の中にあった、
庭石のようなものなのです。
それこそ、レンズは105mmです。
(クリックすると拡大します)
次回は、“写真を観る”編 第4回
ウイリアム・エグルストンについてお話しします。
お楽しみに。 |