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第38回 すべてのものごとは、
写真と共につながっていく。


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前回は、ちょっと長くなってしまいましたが、
やはり知っておいて欲しいことだったので、
ちょっと難しい“露出”の話をしました。
もちろん、そんな写真の仕組みを知ることも
時には大切だったりするのですが、
今回は、そのあたりのことは横に置いておいて、
“すべてのものごとはつながっている”
というお話をします。
(このお話は、じつは、
 「ほぼ日手帳」の
 「カバー・オン・カバーダウンロード」でも
 ちょこっと喋っていますので
 よかったらごらんくださいね。)

個人的な思いを、つなげていく。

ぼくは昨年、1枚目の写真のように
すべての写真を、地平線と水平線でつなげて展示する
写真展を開催しました。
もともとは旅のエッセイと共に
月刊誌に毎月1枚ずつ掲載してきた写真を、
一堂に会したものでした。

おそらく皆さんも、広い空を見上げて、
「この空は、ずっと遠いところまで
 つながっているんよなー」と、
思ったことがあるのではないでしょうか。
もちろん物理的に、だけではなく、
もっと別な意味での大きさみたいなものを感じながら。


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この写真の撮影地は、イギリスのハワードという
小さな街の近所に拡がる草原です。
そしてこのような荒涼とした草原の中に、
ポツンと一軒、家が建っています。
この家は、かの有名なブロンテ姉妹の家。
エミリー・ブロンテは、この家で、この場所を舞台として、
あの『嵐が丘』を書き上げたのです。
そして、何よりもぼくが驚いたのは、
『嵐が丘』というかなり強烈な愛憎劇が、
こんなにも、ひと気のない場所で
書かれたということでした。

今でこそ、多くの観光客が訪れますが、
おそらく彼女たちが暮らしていた当時は、
かなり寂しい場所だったのではないでしょうか。
それでも、その場所からあのような
世界的な小説が生まれたのです。
しかも、その場所に実際に立ってみると、
視覚的には、とても広々とした場所なのですが、
感覚的には、広さをあまり感じることが出来ませんでした。

ところが、こうやって地平線で
ほかの(まったく縁もゆかりもないはずの)風景と
つなげてみたら、むしろ、何の違和感もなく、
“本当の大きさ”のようなものを
感じることが出来たのです。
その大きさというのは、とても感覚的なものです。
よく「イメージが拡がる」などという言い方をしますが、
大雑把に言うと、そんなことなのかもしれません。

写真というのは
あくまでも“切り取られた世界”なわけですから、
そういった大きさを感じることが出来ると、
その“切り取られた世界”が、
自由自在につながっていくことが出来るのです。

今回は、地平線と水平線で結んだ写真で
そんなお話をしていますが、
それはきっと、具体的に線でなかったとしても、
つながっていくのではないかと、
ぼくはいつも、写真を見ながら感じています。
一枚一枚の写真の中には、
必ず、とても具体的な何かが写っていて、
たとえそれが上手く写っていなかったとしても、
必ずそこに、その時にあなたが感じたことが、
あなたの眼差しとして、一緒に写っているわけです。

想像力を加味した写真からは、
とても大きな印象を感じることが出来る。


そこで。
そんな目には見えない“思い”を見つけるために、
ちょっと試してみて欲しいことがあるのです。
まず最初に、あなたが自分で撮影した
お気に入りの写真を、最低でも5枚用意してください。
(あまり多すぎても意味がありませんが、
 おそらく10枚ぐらいがいいかもしれません。)
そして次に、その写真を単純に
横一列に並べてみてください。
そしてその状態で、とにかくゆっくりと、
何も考えないで、そこにある写真を眺めてみてください。
すると、不思議なことに、
1枚の時には気付くことが出来なかった、
あなた自身の“眼差し”が浮かび上がってくるはずです。
そして次には、おそらく次から次へと、
各々の写真を撮ったときのことを
思い出したりするのではないでしょうか。
そうなのです。
そこにあるすべての写真は、
たとえ異なった場所の異なった時間の写真だったとしても、
あなたの眼差しによって、確実につながっています。

そのことを実感することが出来たなら、
きっと、あなたがこれから
何を見てみたいと思っているのかが、
はっきりしてくるのではないでしょうか。
それを知ることは、写真を撮る上で、
とても大切なことのひとつです。
なぜならば、「見たいものを見て、楽しく写真を撮る」
ということが、一番楽しい写真の撮り方なのではないかと
ぼくは思っているからです。

もちろん時には、予想外の発見があることも
写真の楽しみのひとつではあるのですが、
まずは、これを機に一度、
皆さんにも、本当に見たいものを
見つけて欲しいと思っています。
それさえ知ることが出来たなら、
必ず、次から次へと新しい発見だって生まれてきます。
何度もお話ししているように、
すべてのものごとは、どこかでつながっているのですから。

もしも、どうやっても見たいものが
わからなかったとしても、
心配することはありません。
そんな時は、それを探しに、出かけてみて下さい。
きっとそんなはじまりも、
写真の楽しみ方のひとつだったりするはずです。
そして、もしかしたら旅というのも、
同じようなことを、探すことなのではないでしょうか。
だからこそ、旅と写真は相性がいいのかもしれませんね。


いずれにしても、とにかく散歩が
心地よい季節になってきました。
まずは、カメラを持って歩いてみませんか。
そしてあなたが見たいと思っている、
目に写るものに対してシャッターを切ってみましょう。
すると、必ず何かが見つかるはずですよ。



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この写真は、見ての通り
アフリカのサバンナの朝の写真です。
一見すると、とにかく広大で、
その広さに圧倒されて、
そこには何もないかのように感じるのですが、
実際には、このサバンナの中には、
動物たちはもちろんのこと、
本当に様々な、たくさんのことが詰まっているのです。

次回は、
「紅葉の色は、光の色」
というお話をします。お楽しみに。


2006-10-20-FRI
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