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第43回 メイ・アイ・テイク・ユア・ピクチャ?


この写真は、アフリカのサバンナの中に暮らす
マサイ族の妊婦さんの写真です。
その時彼女は、大きなおなかを抱えながら、
広いサバンナの中を歩いていました。
とにかく、そのすがたがとてもうつくしかったので、
「メイ・アイ・テイク・ユア・ピクチャ?」
と声をかけて、まっ白なシーツの前で
写真を撮らせてもらいました。
(クリックすると拡大します)


前回は、プリントをしてみよう、
というお話しをしましたが、
結果は、いかがでしたでしょうか。
その中から、何か新しい発見がありましたか。
もしも、まだやってみていない方がいましたら、
ぜひとも試してみてくださいね。

今回は、みなさんがプリントされた写真の中にも
おそらくたくさんあったであろう
“人物写真”についてのお話しをします。


人物のなかにこめられた風景のようなもの。

タイトルは、日本語にすると、
「あなたの写真を撮らせてもらっていいですか?」
という意味です。
ぼくは、いつもこの言葉を話すたびに、
なかなか、英語ってうまいこと言うなあーと
感心するのです。
それというのも、この場合
「あなたの写真」=「ユア・ピクチャ」なわけです。
「あなたが写っている写真」
ということになるのでしょうが、
ぼくは、この言葉の中には、
もっと大きな“人物写真”の秘密が
含まれていると感じています。

それと言いますのも、
ぼくは、仕事でもプライベートでも、
“人物写真”を撮るのが大好きです。
そして、撮影をしているときに具体的に見ているのは、
その人の容姿そのものではあるのですが、
ぼくは、誰を撮っていても、
その人ならではの“景色のようなもの”を
常に感じているのです。

もしかしたら、そんな風にお話しすると、
少しばかり、観念的な話のように
感じてしまうかもしれませんが、
決してそんなことはありません。
それこそ、“十人十色”という言葉があるように、
老若男女にかかわらず、この世のすべての人々が、
おもしろいほどに、それぞれが独自の
“景色のようなもの”を持っているのです。

そして、そんな“景色のようなもの”が写っている
“人物写真”こそが、
いい“人物写真”なのではないかと
ぼくは思っています。


●人を撮る時に、考えてみてほしいこと。

そこでみなさんにも、
ちょっと試してみてもらいたいのは、
次にあなたが、誰かの写真を撮るときに、
「この人は、景色にたとえると、どのような景色なのか」
ということを想像しながら、
じっくりと、撮ってみる、ということ。

たとえば、人は何月に生まれたかによっても
どうやら影響があるようですから、
「その人が何月生まれなのか」などと考えながら
撮ってみるのも、おもしろいかもしれませんね。
どちらにしても、そんな風に人と向かい合っていると、
それだけでも、すごく楽しいですし、
それこそ、ふだんはふつうに感じていたことが
よくわかることだってあります。
そして何よりも、もしもその人ならではの
“景色のようなもの”を見つけることが出来たなら、
いい写真が出来上がるのは、もちろんのこと、
きっと今まで以上に、その人のことだって
もっと大切に思えてくるはずです。
もちろん、そんなことを何も気にしないで撮った
記念写真やスナップ写真の中に、偶然にも、
そんなその人の“景色のようなもの”が
写ることだってあると思うのですが、
時には、そんなことをつよく意識しながら
撮ってみることで生まれてくる
大切な写真だって、たくさんあるのです。

とにかく、そんな風に考えてみると、
この「ユア・ピクチャ」という言葉の中には
そんな“景色のようなもの”もいっしょに
含まれているように感じることが、
出来るのではないでしょうか。
そしてぼくは、そんなものが写っている写真こそが
ほんとうの「あなたの写真」=「ユア・ピクチャ」
なのではないかと思っています。

少しばかり哲学的な話になってしまいますが、
どちらにしても、景色というのは、
けっして風景の中だけに存在するものではありません。
時には、それは単なる想像だっていいのです。
とはいっても、勝手な空想を相手に押しつけてしまうのも
失礼な話になってしまいますから、
出来るだけやさしい気持ちで、相手の立場になって、
想像しながら、シャッターを切ってくださいね。



“人物写真”を撮るときに
もっとも大切なことは、
どんなに親しい間柄であったとしても、
「あなたの写真を撮らせてもらっていいですか?」
という気持ちを忘れないこと。
そして同時に、その人ならではの景色が
少しでも写るように、撮ってみてください。
しかも、それはこちら側が少しだけ意識すれば、
必ず見つけることが出来ますし、
必ずと言っていいほど、それは写真に写るのです。
そしてもしも、すてきな写真が撮れたときには、
その人に、プリントをして
プレゼントしてあげてみてくださいね。
きっと、よろこんでくれると思いますよ。



この写真は、奄美の加計呂麻島の西阿室という
小さな集落の老人の写真です。
ぼくは、木漏れ日の写真を撮りにこの地を訪れて
この人たちに出会いました。
何だか、今までに会ったことのない程に
あたたかい人たちだったので、
こんな写真を、撮らせてもらったのです。
(クリックすると拡大します)


次回は、“写真を観る”編 第6回
「フェリックス・ナダール」
のお話しをします。お楽しみに。


2006-12-01-FRI
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