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第49回 最後のコダクローム。



赤く染まった夕暮れのサバンナの中で、
ロッジに戻るぼくの車の横を、同じように家路を急ぐかのような
キリンの家族に出会いました。
遠くの夕日が、空の青と混じり合いながら、
一瞬、紫につつまれた瞬間に、ぼくはシャッターを切りました。
その光が、空気が、すべて写ってくれたような気がしました。
(クリックすると拡大します)


前回は、「モノクロフイルムで撮ってみよう」
というお話しをしました。
そして今回は、そんなモノクロームで始まった
写真の歴史の中で、画期的な存在として誕生した
世界初の一般用カラーフイルム
「コダクローム(Kodachrome)」について
お話ししたいと思います。

コダクロームを超えるフイルムは
生まれていない?


1935年コダック社は、
画期的な一般用カラーフイルム「コダクローム」を、
まずは16mmムービー用フイルムとして発売しました。
そして、その翌年1936年に、
その後の写真の歴史を大きく変えていくことになる
35mmスチール用フイルムを発売しました。
とにかく、その頃の一般の人々にとって、
「写真と言えば、モノクロ」だったわけですから、
きっとぼくたちが今、こうやって想像する以上に、
当時としては、かなり画期的なことだったのでしょうね。
まず、この「コダクローム」というフイルムは、
一般的に“ポジフイルム”と呼ばれている
“スライドフイルム”です。
現在の“ポジフイルム”の多くは、
最初からフイルム上に、
カラー発色乳剤が塗布されたもので、
これらを“内式”と呼んでいます。
一方、「コダクローム」は、
もともとフイルムには、カラー発色乳剤は
塗布されてなくて、現像の段階で染色するために
“外式”と呼ばれています。
ぼくも、その乳剤の成分については、
それほど詳しくありませんが、
何よりもこのフイルムは、とても保存性に優れています。

現在でも、アメリカ政府は、
公文書のコピーに「コダクローム」を
使用していると聞いています。
また、以前に“写真を観る”編でもお話しした
かの「ロバート・キャパ」も、
さっそく1938年には、ライフ誌の“日中戦争”において、
「コダクローム」を使用しています。
そして2002年には、ニューヨークマグナムより
キャパの撮った「コダクローム」フイルムが
大量に発見されて、
2005年2月には、東京でも
「キャパ・イン・カラー」という展覧会が
開催されました。

その展覧会の時に知ったことでもあるのですが、
キャパは、その後に発売された
“内式”のポジフイルムでも写真を撮っているのですが、
それらのフイルムの画像は、そのほとんどが、
残念ながら退色してしまっていたとのことでした。
そう考えると、たしかに現像時間が短くなったり、
発色が良くなったりと、
進化しているところもたくさんあるのかもしれませんが、
未だに、この世界初の「コダクローム」を
越えるようなフイルムは、
生まれていないのかもしれませんね。
(そして、これは余談ではあるのですが、
 一般的に知られている、あの地雷を踏む前の
 「ロバート・キャパ最後の写真」は、
 コンタックスで撮影されたモノクロ写真ですが、
 ぼくは、本当にキャパが撮った
 「最後の写真」は、
 「コダクローム」で撮影した
 カラー写真ではないかと思っています。)
ところが、残念ながら、
そんな「コダクローム」なのですが、
現在の「カメラといえば、デジカメ」という
時代の流れには逆らえず、
ついに、この3月で、
日本国内における販売が、終了します。
(現像は、12月いっぱい大丈夫です。)

ぼくも今まで、写真を始めた頃からずっと、
この「コダクローム」を使って、
たくさんの写真を撮ってきました。
特に、どこかへ旅に出かけるときは、
必ずと言っていいほど、
「コダクローム」を持って行きます。
その理由は、何といっても、
その写真の厚みのようなものが、魅力ですし、
そして、とにかく他のどのフイルムよりも
その具体的な厚みによるものなのか、
(現に乳剤面は、後で着色していることもあって、
 はっきりとした、凹凸のマチュールがあります。)
その湿度を含めた“空気が写る”のです。
もちろん、その時の光の状態によって、
大きく左右されたりはしますが、
全体的に、とても落ち着いた描写をします。
たしかに、けっして派手な描写はしませんが、
それでも、特に赤であったり、空の青さなどは、
このフイルムでなければ、決して写すことが出来ない
とても自然でいながらも、独特の発色をします。
少なくともぼくは、その感じが大好きです。


空気を写す、貴重なフイルム。

このような、写真の歴史の一コマでもある
フイルムが、そのすがたを消してしまうのは、
少しさびしかったりもするのですが、
今回、こうやってお話しするのには、
もちろん、理由があるのです。
よく、当たり前のような言葉として、
“写真的”という言葉を耳にすることがありますが、
では、この“写真的”というのは、
どういうことなのでしょうか。
これは、ぼくの個人的な意見かもしれませんが、
ぼくにとって、“写真的”ということは、
何よりも、何度かお話ししていますように、
その場所の“雰囲気のようなもの”が、
その時の“気配のようなもの”が、
写っていることなのではないかと、思っています。
そうなのです。
いつの日も、“いい写真”には、
必ず、目には見えない“空気”が写っているのです。

そして、この「コダクローム」というフイルムは、
そんな“空気”を写し出すのが、とてもうまいですし、
たとえ仮に、思ったように写らなかったとしても、
少なくとも、現在の“デジカメ”の写真とは、
いい意味でも、わるい意味でも、
かなり異なった描写をしますので、
ぜひとも、試してみて欲しいと思っています。
(たとえ、すぐに使わなかったとしても、
 それこそ“外式”ですから、通常のフイルムよりも
 長持ちするはずです。)

とにかく、どちらにしても、半世紀以上もの間、
人々に親しまれ続けてきたフイルムなのですから、
せめて最後に、このフイルムの中から
“写真の楽しさ”を、発見して欲しいと思っています。
しかも、このフイルムの中には、
きっとぼくたちが、今後写真を続けていく上で
大切なヒントがたくさん含まれていると、
ぼくはいつも感じています。

そんなわけで、定期的に撮影会をやっている
“東京観光写真倶楽部”でも、
次回の撮影会は、全員「コダクローム」で、
と考えています。



いずれにしても、写真のひとつの歴史が終わります。
しかしぼくは、その瞬間を、
こうやって経験するからこそ、
“新しい写真”が、また生まれるのだと思っています。
だから、そのためにも、まずは、その瞬間を
しっかりと確かめてみませんか。
そしてまた、これからも、“新しい写真”を
たくさん撮っていきましょうね。



とても、強い日差しが降り注いでいたサバンナに、
数分の間、その太陽を雲が遮りました。
すると、いきなり涼しい風が吹いてきました。
その風の中を、ここぞとばかりに一頭のキリンが、移動し始めたのです。
(クリックすると拡大します)





ちょっといいな、と思った一冊の写真集



『Werner Bishof: Pictures』

それこそ、ロバート・キャパと共に
マグナムで活躍した
「ウィナー・ビショフ」の写真集。
昨年、ご子息の編集によって、出版されました。
彼の代表作の多くは、モノクロなのですが、
この写真集は、表紙もカラーです。
内容もバラエティーに富んでいて、
「日本」を撮影した写真も、
たくさん掲載されています。
多くのモノクロ写真に混ざって、
カラー写真もたくさん載っているのですが、
これぞ、まさに「コダクローム」なのです。
印刷もいいし、おすすめの一冊です。




菅原一剛作品展
「あたたかいところ」
-Made in the shade-

ニューヨークのギャラリーで展示した
大ガラスの作品の日本で初めてのプレビューが、
下記2ヶ所で行われます。

■ "reed space."
 〒107-0062
 東京都港区南青山6-4-6青山アレー1F
 tel.&fax 03-6804-6973
 http://www.thereedspace.com/

 期間:2006/12/16/Sat〜2007/1/30/Tue


■LEVI'S VINTAGE CLOTHING
 〒107-0062
 東京都港区南青山5-2-11
 tel. 03-5774-8083
 http://www.lvc.jp/

 期間:2006/12/12/Tue〜2007/3/12/Mon


2007-02-23-FRI
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