社長に学べ! おとなの勉強は終わらない。 シリーズ第9弾 「博多 一風堂」店主 河原成美×糸井重里  一風堂のラーメン進化論
 

第9回 年をとっても、わからない。
河原 ラーメンとは関係ないんですけど、
もうすぐ60歳を迎えようとしているんですね。
で、人生っていうのは簡単にいかないというか、
迎える年ごとにいろんなことが起こって、
常にわからんもんだと思うんですよ。
糸井 そうですねぇ。
河原 若いころは、60代なんて、
もうすごい大人だろうなって思ってました。
ところが、まったく変わらないんです。
いろんなことも、わかんないままで。
糸井 はい。
河原 ところが世の中の人は、
「あの人はもう、
 いろんなことわかってるから」っていうの。
しょうがないから、俺も
わかってるような顔しとこっかって、
知ってるような顔するときあるんですよ。
でも、ほんとはぜんぜんわかってないもんだから、
やっぱり居心地が悪いんですよ。
「ほんとかよ、河原、それでいいのか」って。
糸井 あのーー‥‥、
ものすごーーーく、よくわかる(笑)。
一同 (笑)
糸井 いや、やっぱり年をとったって同じですよ。
わかんないことをわかんないって
いえるようになるのに時間かかっただけで。
むしろ、若いころの方が
わかったような顔してましたからね。
今の方がわかんないです(笑)。
河原 ははははは。
糸井 いやぁ、年とるのはおもしろいですよ。
河原 うん、おもしろいですよねぇ。
糸井 ほんとに、加速的におもしろくなりますね。
こんなにおもしろいんだったら、
もっと早くとればよかった!
ってわけにはいかないし(笑)。
河原 当たり前な話だけど、若さっていいよなって。
若い人たちが
ほんとに、ほんとに素直に100パーセント、
今、自分が若いことのすごさを理解できたら、
もっといろんな仕事ができるのにって思うんです。
でも、それがむずかしいんですよね。
糸井 むずかしいですね。
河原 でも待てよと。
ということは、今年60歳になるけど、
80歳に比べれば、俺、若いなって。
糸井 そうですよ、80歳と比べたら60歳は若い。
あと、若いうちに憧れのリーダーとかを
見つけた人は、やっぱり強いですよね。
河原 ああー、強いですね。
ぼくはこの仕事を長くやってきたけど、
いい先輩にはあんまり恵まれなかったんですね。
糸井 うんうん。
河原 だから、自分の身の丈以上でもなんでもいいから、
いい先輩でいたいなとは思うんです。
「おお、お前、がんばっとるね」とか
「その顔、その目つきだったら、お前、
 俺なんかよりよっぽどすごくなるから」とか、
若い人には、よくいうようにしてますね。
そのひとつだけでもね、
若い人にとっては影響力が違うはずなんです。
糸井 うん、そうですね。若いときに、
年上の人からいい意味で
声かけられたっていうのは、
ちっちゃいことでもうれしかったですよねぇー。
河原 いいですよね。
あ、そうだ、
この間、おみくじひいたら、
すごくいい言葉があって。
中吉なんですけどね、言葉がいいんです。
えーと、どこやったかな。
(財布の中を探す)
糸井 奇遇だ、ぼくも中吉でした(笑)。
河原 ははは、奇遇ですね。
あ、あった。
これ、待ち人とか旅行とかは置いておいて、
この裏側の言葉が、なかなかよかったんです。
(おみくじを裏側にめくる)
糸井 ちょっと拝見します。
河原 今年のですね、自分の戒めにと思って。

▲「 声は消えても、こころの底にきいた言葉が生き残る
  強く打てば大きく響き、弱く打てば小さくひゞく。
  した事、いうた事、思った事、よいも、悪いも悉く皆、
  何者かに影響して、永遠にあとを残す。慎しむべきは、
  其思い、其行い、其言葉、恐るべきは其影響、
  其反発である。」と書かれている。
糸井 (読み終えてから)
いいですね。
河原 ね。まぁ、慎めっていうことなんですけど。
あるいは、よく考えよっていうこと。
俺はおっちょこちょいで慌てもんで、
かーるいから(笑)。
糸井 (笑)
あの、さっきお話した、
直接の体験することがすごい大切だっていう話と、
この言葉は、つながる気がしますね。
つまり、言葉のやり取りだけが
情報のやり取りだと思われてるけど、
そうじゃないですよね。
河原 そうじゃないですね。
糸井 余韻も含めて、全部が情報。
ぼくは、言葉を扱う商売をしているんですけど、
やっぱり気になるのは沈黙なんです。
河原 沈黙、ですか。
糸井 その言葉が出る前に、
言葉になりようのない思いがあったり、
考えとしてもまだまとまってない何かがあったり。
それさえあれば、言葉になってないものでも
貴重なんだって思うんですね。
河原 ええ、ええ。
糸井 そのことについてばかり考えていると、
うまくいえない人が
どのくらい大事かっていうのが、逆にわかるんです。
河原 大事ですね。
糸井 2月29日に動物園に行ったんですよ。
そのときに、
猿とチンパンジーとゴリラに話しかけてみたら、
こっちに来たんです。
で、しゃべってると、
ほんとに会話しているかのようなんです。
河原 へぇー、来るんですね。
糸井 それはたぶん、いつも飼育係と
しゃべってるからなんじゃないかと。
意味内容じゃなくって、
人間がこういう温度で話しかけたときは
悪いことじゃないってことを知ってるんでしょう。
河原 うん、言葉の温度でわかっていそうですね。
糸井 あと、うちの子どもが小さいときに、
外国の子どもと遊んでるのを
よく見てたんだけど、
その国の言葉を知らないのに、
やっぱり、やり取りできるんですよね。
河原 子どももそうですね。
糸井 あの部分ていうのは、
何かものすごく気になるんですよ。
食べ物を前にして
人と人が対峙しているのも、
たぶん、同じなんでしょうね。
河原 そうですね。
「いらっしゃいませ」の瞬間から、
おいしさのやり取りは始まっていますから。
(河原さんとの対談は、これでおわりです。
 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。)
2012-05-11-FRI
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