「ほぼ日公式ラーメン」を
作ったぞー。

今度のコラボレーションは日清食品と、だよ。

第三回 本当につくることの難しさ。

■まず、とにかくテーブルの上に!

最初の全員ミーティングは
「アイデアが無いままに読者に頼っては恥ずかしい。
 クリエイティブをさぼっちゃダメですよ!」
という結論でした。
たしかにそうなんでした。
自前の考えがないままで仕事を進めるって、
いちばんやっちゃいけないことだと反省もしました。

で、どうしたかと言うと。
これからしばらくは
お昼ごはんの時間を活用して、
新しいインスタントラーメンのアイデアを
出し合おう、ということになりました。

次の日からは通常ミーティングの時はもちろん、
お昼や休憩時間の間にも、
いろんなラーメンのアイデアがどんどん話題に上りました。
サガコが当時とっていたメモ帳から、
いくつかご紹介しますね。

でも、あらためて読んでみると、
これがねぇ、一生懸命なんだか、アホなんだか…。

・替え玉
「インスタントラーメンは量が少ない!
 だったら、お店みたいに替え玉ってどう?」
「……カップにおまけみたいに、もうひとつ
 ぶらさがっているのかなぁ?」


・一本うどん
「麺がね〜、なっがーいのよ。
 一本だけで"ごんぶと"みたいなのが、ずるるる〜っとね」
「あー、ぐりぐりぐりぐり〜って渦を巻いて入ってるんだ」
「蚊取り線香の原理。わかる?」
「わかるけど。肺活量が勝負よっ」
「でも、一度は長ーくのばして食べてみたいね」


・カスタマイズラーメン
「トッピングが小分けの袋にちまちま入ってて、
自分で入れたいのを選べたら楽しいよね」
┌──────┬───────┬───────┐
│      │       │       │
│  油   │  スパイス │  ドライ  │
│      │       │  フード  │
│      │       │ (ネギ)  │
│      │       │       │
├──────┼───────┼───────┤
│      │       │       │
│      │       │       │
│  醤油  │  ダシ1  │  ダシ2   │
│      │       │       │
│      │       │       │
└──────┴───────┴───────┘
 (↑こんなの)
「ちまちまラーメンとか、小商いラーメンとか、
 そういうイメージがあるね」


・どんぶり付きラーメン
「セット売りの中に、陶器製のどんぶりが入ってて、
それで食べたら自炊感覚、ってのはどうよ」
「あ、だったらどんぶりはおさるが底にプリントされてて、
 スープを飲み干したら現れるのがいい!!
 セフティ・マッチさんの金言が出てきてもいい!」
「勝負どころを間違えているような気もする」
「でも、どんぶりは欲しいような気もする」
「あとで、自分で洗う?」
「洗わなそう」
「そういう人が多いから、カップめんってあるんだよね」


・デザートヌードル
「私はー、甘いのが好きだからー、
 肉まんとあんまんみたいな差別化が、
 ラーメンにもあってもいいかなぁってー、
 おしるこみたいなのがほしいなー」
「・・・・・・・。
 自分であんこでもチョコレートでも入れれば?」
「やだ、おいしくないような気がするから」
「・・・・。じゃ、やめよう」


その他、
二つの味が楽しめる分割ラーメン。
めっちゃくちゃ辛い味のラーメン。
具材にあきれるほどホントに本物を追求しまくった、
リアル系高級ラーメン。
コンロがセットになってて、
水さえあれば煮られるラーメン、などなど…。
もっとあったのですが、
書きだす気力がなくなりました。

きわどーいものから、スタンダードなもの、
味から、形から、麺から、地方ものから、パスタまで。
そりゃもう、書ききれないほどの
アイデアが出ましたとも!
でも、誰も、言ってはみたものの、
「これが食べたいんだ!」と主張もしてないんです。


■動物園の動物は飼えないんだぞっ

そうしてあふれ出たアイデア達をひっさげて、
「いまのところ、いろんなアイディアが出てまして。
 ま、こんな感じかなぁと盛り上がってます」と
にこにこしながらdarlingに持っていきましたらば、
いきなり一言、ばすっと言われました。

「ときどき耳に入ってくるから、想像はついてるよ。
 どうも、まだ本気じゃないだろ?」
 (と、ニヤリ)」
「どっ、どうしてですか!?
 みんなでたくさん考えたんですよっ」

darlingは続けて言いました。
「あのね、動物園に行くだろ?
 いろんな変わった動物がいて、女の子とかが
 『いやーん、かわいい〜。家で飼ってみたい〜』
 とか言うじゃない。
 『バカ言うなよ、飼えるわけないじゃん』
 って言いたくなるよね。それと一緒だよ。

 ゾウとかキリンとかコアラとか、家で飼えないだろ?
 『いいなぁ、かわいいなぁ〜』ってのは
 遠くにいるから言えるんだよ。
 君たちが出してきてるアイデアは、
 コアラやキリンを目の前にして
 『かわいいでしょ?飼いませんか』って
 言ってきてるのと一緒なのさ。
 お客さんにしてみたら、
 『うん、かわいいね。
  でも、ウチじゃ飼えないよ。
  見せてくれてありがとう』で終わっちゃうよ。
 たぶん、インスタントラーメンってのは、
 そういうものじゃないと思うんだよ。
 繰り返し食べられる、身近な食べ物なんだよ?」

普段はいっちょまえに批評家みたいな顔して、
「うまい」「まずい」「もっとこうすりゃいいのに」と
外側から言っていた私たちです。
だけど、
いざ自分たちがモノを作る側に立って
皆さんにお出しするって、話しあいが目的じゃない。
「ホントに作る」ことなんでした!
キリンやらゾウやらパンダやらのいる景色ばかりを、
わたしたちは話しあっていたような気がします。

そうなんだよなぁ。
お笑いについてもスポーツについても、
プロの人たちは、わたしたちが小うるさいこと言っても
「じゃぁ、おまえがやってみろよ!」とは、
けっして言わないんですよね。
言われたら、どうしようっていう危機感も、
客席の自称批評家やファンにはありませんから。
作る、ホントに作る、見ず知らずの人に食べてもらう。
そういうことの怖さと、よろこび・・・・?

「そうだなー、うーん、
 ヒョウ柄みたいなラーメンだって思うといいよ。
 唐突に言うと、なんか変なんだけど、
 ヒョウ柄ってさ、洋服でもケータイでも、
 いつの間にか馴染んじゃった感があるじゃない?
 違和感あるんだけど、どこか目立っちゃう。
 実は俺もなーんか好きなんだよね、ヒョウ柄。
 つまり、ヒョウのラーメンは要らないから、
 ヒョウ柄みたいなラーメンを、考えたいなぁ」
 (darling発言)

ヒョウ柄みたいなラーメン、かぁ……。
確かに、いまや豹柄って定番のひとつとさえ言える。
でも、そんなラーメンって、具体的にできるんだろうか?

■手帳とラーメンは違うんだぞ

更にdarlingはツッコミを入れます。
「あー、あと、"ほぼ日手帳"と同じように
考えちゃダメだよ。
手帳にはたくさんページがあったから、
お馬鹿でナイスなアイデアがあったら、
これとこれはやっちゃおうって
組み込むこともできたんだけど、
ラーメンはそうはいかない!」

そうだ、そうだった。
この時期、ちょうど「ほぼ日手帳」も
同時進行で進んでいて、
交互にミーティングが繰り返されているような状況でした。
どうも、切り替えが出来ていなかったんですね。

「煮詰まってる?」
と笑うdarling。
思わずドキッとするわたくし。
「煮詰まってます」正直に言うと。

「サガコさぁ、頭動いてないだろう?」
「ええ…」
「何から考えていいか、分からなくなってるだろう?」
「はいぃ…」
ずっと毎日ラーメンについて考えて、
大仕事をしているみたいなつもりで、
険しい顔して会議し続けていたのでしたが・・・。

「頭が動かない時は、足だ」
おお、刑事ドラマのようなセリフです。
「刑事ドラマみたいですね」
「そう、言ってみたかったんだ。
 でも、けっこう本気で言ったんだよ」


■足を使ってラーメンを知る

「こないだ、日清食品さんがメールくれてただろう。
 チキンラーメンの手作りが出来るっていう、
 大阪の、記念館だったかなんだったか。
 そこへ出張して、ラーメンつくってこいよ!」
「ええええっ? でも、たのしそう」
いきなり言われたもんで、びっくりです。

「まだ、ちゃんと作り手の立場になってないから、
 会議の時間を埋めるだけみたいなアイデアしか
 出てこないんだよ。
 実際に作ってみたら
 ラーメンって何だろう、ってことが
 わかるかもしれないぜ」
「な、なるほど…」



大阪・池田市にある
『インスタントラーメン発明記念館』。
ここではチキンラーメンの手作り体験ができるのです。
他にもインスタントラーメンの歴史やら、
様々な展示物があるといいます。

体験してはじめて身体で分かること、感じることって
すごくあるのかも知れない。
そう思ったら、ちょっと元気になってきました。

「糸井さん、私、行ってきます!」
気合一発、前向きに、足で身体で体験だ!

「まあまあ。そんな大げさに言わなくても。
 とりあえず、行っといでよ。
 ちょっとした小旅行気分も味わってくるといいさ。
 見知らぬ大阪の青年と恋におちたりして」
「おちません」
「おちろよー。帰ってこなくてもいいから」
「いえ、あの方角は恋とかに向いてないです」
「そんなことには本気になるのが早いなぁ」
ほんの少し、煮詰まっていた気持ちが
ほどけたように思えてきました。

というわけで、サガコ大阪出張決定(恋は無しよ)!
チキンラーメンの手作り体験一人旅。
実はこういうの、理由もなくたのしい。
でも、仕事です。
いずれは、なにか素晴らしいアイディアのもとに
なるはずなのです。
なるのかなぁ?

(つづかせていただきます)

2001-11-20-MON

BACk
戻る