第九回 「まったくなかったモノの強さ!」
ほぼにちは。高田馬場サガコです。
6つの企画(前回参照)を携えて、
いよいよ日清食品さんにプレゼンする日を迎えた私たち。
最初に「ほぼ日ラーメン開発しませんか?」の
メールをいただいてから、
既に三ヶ月近くが経過していました。
ここまでの道のりは長かった…。
さあ、一体どのラーメンをつくることになるのでしょう。
ドキドキのプレゼン会議に突入です。
■会議もインスタント!?
プレゼン会議は、引っ越し前のネズアナの二階に、
日清食品の方をお招きして行われました。
先方からは
(開発担当の)広域営業部・次長の小山さん
(ラーメン開発マシーンの異名をとる方。
ラーメンが人生で、人生がラーメンというくらい)
広報部・部長の笹原さん
(筒井さんの片腕として仕切るところを仕切る方。
物腰やわらかく、目は鋭くという大人な方)
同じく広報部の松尾さん
(今回の企画で中心になって動いてくださってる
若いけど頼りになるシャキッとした方です)
以上、三名が参加。
「ほぼ日」サイドからは、
糸井、西本、サガコ、アッキィさんの4名。
計7名での会議となりました。
プレゼンとか、会議とか、
そういったものに場慣れしてない私は、
一人、カチンコチンに緊張して席にかたまってました。
「じゃあ、説明をしますね」
と軽い感じで進行するdarlingの説明に耳を傾け、
アッキィさんのデザイン画を目で追いかける。
それだけで精一杯でした。
「何をお前がそんなに緊張する必要があったんだ!?」
と、後からdarlingに笑われちゃいましたけども、
だって、
新しい商品が1つ生まれちゃうかも知れないっていう
現場なんですよ?
その瞬間に立ち会ってるってだけで、
私はもうドキドキで、ハラハラで、フガフガで、
その場に居るだけで
いっぱいいっぱいだったんです。
darlingから各プランについて説明された後は、
日清食品の笹原さん、小山さん、松尾さんらが
じっくりと企画書に目を通されます。
しばしの沈黙、無言の時間。
ああ、もう、私は心臓が保たない…。
空調しっかり効いているのに、
一人、変な汗がダラダラ出ていました。
しばらくすると、笹原さんと小山さんの間で
ぼそぼそと小さな声での打ち合わせ。
わわっ、何か言われるんだ。
何を言われるんだろうっ?
「ええっと、結論から申し上げますと…」
と、笹原さん。
ええっ?企画書を見て、まだ10分も経ってないよ?
小さな打ち合わせをしただけで、もう、結論なのっ!?
■結論。
いきなり一言、どん!
「【気ラーメン】がいいと思いますね」
………びっくりです。
もう少し検討してから、とか、
あれもいいですね、これも作ってみたいですね〜、っていう
会議の展開を想像していたからです。
または「会社に持ち帰って検討します」とか。
ところがどっこい、現実はスパッと現場で、
少人数で、ほぼ即断。
6つもあった企画案の中から、
どうしてたった1つ、【気ラーメン】っていう結論が
こうもいきなり出てきてしまったのだろう?
小山さんがにこにこしながら言いました。
「開発技術の面からいくと、
【気ラーメン】が一番スムーズです。
では、これから順に他の企画がどうして難しいか、
ということを具体的にご説明しますね」
なんだか、うれしそうに語りはじめるんです。
小山さんはインスタントラーメンを
年に数十種類は開発されるという、
まさにラーメン作り続けて二十六年のプロフェッショナル。
そのプロの視点からの「作れない理由」は、
何とも的確で、納得できるものばかりでした。
【ポップラーメン・アートラーメン→×】
●カラー印刷コストと版権の問題が、
何よりも先にまず一つ。
また、何種類もの異なる商品を
アトランダムにダンボールに詰める技術が
工場の生産ライン的に無い、とのこと。
→つまり、ものすごくコストがかかる
うーん…つまり現実的ではないらしい。
例えば、パートの人を雇って、
いろんなラーメンを一個ずつダンボールに詰めて…っていう
作業をすると、それだけで「箱詰め人件費」がかかって、
ひとつひとつのラーメンの値段、
つまり単価が高くなってしまうことに。
「あのー、その分別してから箱詰めっていうの、
私がタダ働きでやってもいいんですけど」
と発言すると、
「何万食ですよ?
サガコさんと発送隊でやったとしても、
発売までに数ヶ月かかって、賞味期限切れますよ?」
と苦笑いされまくりのすけ。
そりゃそうだ…納得。
【スターヌードル→×】
●丸く球状に麺を固め、且つそれを輸送する技術が
とても生産ラインに乗るような簡単なものではない。
量産して繰り返し食してもらえる商品ではない。
→刺激のある宣伝にはなっても、
スタンダードな商品になれない
NHKで放送された『プロジェクトX』をご覧になった方なら
お分かりかと思うのですが、
日清カップヌードルの麺って、
ものすごい工夫の結晶なんです。
カップの真ん中に麺が浮かんだ状態で
パッケージされていて、
これ「宙づり構造」と言うんだそうです。
1. 宙づりのめんが補強材の役目をはたし、
容器をじょうぶにする。
運送中に少々乱暴にあつかわれても
カップがこわれない。
2. めんのかたまりが容器で固定されているから、
ゆれでめん塊がこわれない。
3. めんをもどすとき湯が全体にまわり、
めんのもどりにムラがない。
などのメリットがあります。
(宙づり構造などについて、
もっと詳しくは日清食品のサイト
『なぜなぜタウン』
をご覧いただければ分かりやすいです)
つまり、麺をボール状に固めてしまうと、
その「宙づり構造」が使えなくなってしまうので、
輸送の時に麺が砕けて壊れちゃう可能性が高く、
しかも、3分で湯戻しをするという点でも
球型はとても不適切な形なんだそうです。
あと、見た目が派手すぎる物って
インパクトだけで後が続いていかなかったりする。
二度も三度も買うかって言われると、
うーん、確かに買わないかも知れないなぁ…。
自分の身に置き換えて考えてみると、
よく分かることでした。
「ほぼ日ラーメン」は、頑張ってる人達に
スタンダードに、末永く、普通に食べてもらいたいもの。
残念だけど、これも無理だと納得してしまいました。
見てみたかったけどなー、ラーメンで出来た宇宙…。
【モバイルヌードル→×】
●既存のカップラーメンのサイズを変えるとなると、
製造ラインそのものをそっくり変えなければならず、
それだけで工事費が何億円もかかってしまう。
また、カップの高さを高くすると安定感が無くなって、
安全性の問題をクリアできないかも知れない。
つまり熱湯を入れるカップが倒れやすいということは、
相当に大変な問題だということです。
→お金と時間とリスクが、鬼のようにかかる
ひょえぇぇっ!何億円!?
そいつはちょっと無理かもっ。
すごくすごーく残念だけど、無念だけど…。
この手に持ってみたかったなぁ、
背の高いカップとおさるフォーク。
【コミックヌードル→×】
●いざ実現してしまうと
延々と続くネタ集めに、「ほぼ日」側が
ものすごく四苦八苦するはめになる。
→ほぼ日スタッフが死にかける。
そりゃそうだ……。
漫画家さんを探して、お願いして、描いてもらうにしても
漫画ってそんなにざくざく量産できる物じゃない。
(サガコは、漫画家さんのアシスタントのバイト経験あり。
大変なのだ、全部手作業だし)
これまた納得。
このような理由で、
既存のラーメンを活かしながら、且つ、
「気」という目に見えない付加価値を盛り込んだ
「気ラーメン」が、日清食品さんの手応えとして
強く強く印象に残ったようです。
「やってみたいですね、気ラーメン。
発想がおもしろいし、
目に見えないモノを入れる商品なんて、
この世界に今までなかったですから!
おいしさが同じラーメンがあったとして、
元気になるかも知れないんだったら、
気の入ってる方を買って食べてみたいと思いますよね」
(松尾さん)
『こんがりガーリックしょうゆ味』の
【ほぼ日公式ラーメン・気ラーメン】。
うーん、元気出そうだ!!
にんにくも、気も、たっぷり入れて、
みんなに元気を届けよう!
「味の方は任せてください。
絶対香ばしいスープを作ってみせますから!」
と小山さんも大はりきり。
これは期待が持てそうだ〜っ。
「じゃ、【気ラーメン】ということでいきましょうっ」
(darling)
もともとdarlingは、この「気ラーメンで決定される」と、
言っていたんです。
他の5つには、どれも決定に至るまで走り続ける力が、
欠けているのだということです。
わかっていて企画に出したのか?
「だって、つまんないじゃない、気をひとつ出したって。
見たいだろ、いろいろたのしいし」
つまり、ボツは「織り込み済み」ってか?
いやだなぁ、大人って。
「ちがうよ、ここに至るまでの、
プロセスに、副産物みたいにいろんなデザインや企画が、
ぽんぽんと置かれていくわけでさ。
それは、道順をちゃんと通ってきたという大事なことさ。
あと、まったくなかったもの、ってのは、
とにかく力があるんだよ!」
でも、その考えが、日清食品の人たちの考えと、
ぴたっと重なるってところが、コワイです!
遂に遂に遂にっ(会議自体は猛スピードで)、
「気ラーメン」に決定!!だ〜〜っ。
思わずサガコも緊張が解けて、ホッと一息。
やったぞぉぉ。
これでやっと、本当に、
「ほぼ日ラーメン」が出来上がるんだ、動き出すんだ!
今回の企画のきっかけを作ってくださった、
日清食品広報部長・筒井さんは、
お仕事の都合で会議には参加されませんでしたが、
翌日、プレゼンの報告を聞いて
「気ラーメン、とてもいいと思います!
今までになかった発想で、作って食べるのが楽しみです」
と、とても乗り気なお返事をくださったのでした。
■秦先生も大はりきりさっ。
さて、このプレゼンが終わった翌日、
私と西本は、秦先生にお話を持っていきました。
「ラーメンに気を入れたいんですけど、
そんなことってできるんでしょうか?」
と単刀直入に尋ねたら、
「出来ます!」と頼もしい返事。
しかも、
「是非やらせてください!
無料でもいいですよっ」
と、これまたノリノリで言ってくださったのです。
「たくさんの人に気が届く。みんなが元気になる。
それが私は一番ウレシイデス!」
そんなピュアな秦先生のお気持ちが、
サガコには嬉しかったなぁ。
さあ、これで準備は整いました。
日清食品も、私たち「ほぼ日」も、
気を入れてくれる秦先生までも大乗り気で
「気ラーメン」制作、いよいよスタート!
……が、しかし。
「好事魔多し」
予想をもしていなかったのですが、
とんでもない出来事が起こってしまったのであります。
「山あれば谷あり」
「100里の道を往く者は99里をもってその半ばとすべし」
だから仕事って、コワイ、スゴイ、恐ろしい。
「そういう時は、<おもしろい>も付け加えるのさ」
ってdarlingは言いますけど、
あたしゃ、おもしろくなんかなかったです、ちっとも!
次回は、ちょっと緊急に、そのお話になります。
(気を持たせつつ、つづく)
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