お店に入る前に、
「この店は評価に値する店なのかどうか?」
を見極める方法があります。
少なくとも不快な気持ちをしなくてすむ店かどうかを
決めるポイントは「やる気があるかどうか」です。
だれも思いつかないような料理を見事な手際で作る。
お客様がして欲しいことを先回りして思いつき
完璧な状態でサービスする。
尊敬に値する商品知識をもっている
(例えばソムリエのように)。
──というようになることが、努力だけで可能か、
というと残念ながらそうじゃありません。
例えばセンスとか環境とか、
あるいは運命的な師との出会い、などが必要になります。
レストランで働く人すべてに
そのような才能と幸運がもれなく付いて来るのか?
というと、そんなことはありません。
他のどんな職業とも同じように、
神様は人に対して不公平です。
残酷です。
けれど「才能と運」には関係なく、
「やる気」があれば
誰にでも実現出来ることがレストランの中にはあります。
幸運なことに。
お客様に喜んでいただくためにレストランが
日々、レベルの向上に努めなくてはならないものが
3つある、と言われています。
それが「QSC」です。
QSCとは、
1)クオリティー(Quality=品質、つまり料理の美味しさ)
2)サービス(Service=サービス)
3)クレンリネス(Cleanliness=清潔さ)
の略称。
この3つの要素の、どれが欠けても
レストランとしては失格!
これは外食産業の定石でもあります。
これらの中でどれが才能に関わりなく
やる気さえあれば誰にでも
一人前の水準でこなせるようになるのか?
というと、それは文句なく、
清潔を保つ行為、つまり「掃除する」という作業です。
時間がなくたって、経験がなくたって、
特別な教育を受けていなくったって、
予算がなくったって、
掃除というものは「やる気」さえあれば誰にでも出来ます。
「やる気」が、レストランの水準に如実に反映されるんです。
ボクの会社のベテランコンサルタントは、
お店に行って
「おやっ、この店、元気がないぞ。レベルが下がってる」
と思ったら、
「おいっ、みんなで掃除をしようよ」
って本当に掃除を始めちゃいます。
まず自分がバケツ持ってトイレに行って
素手でゴシゴシ便器に手を突っ込んで洗い始めるので、
他の人達もびっくりして掃除を始めます。
小一時間も磨いたり、掃いたり、拭いたりしてると
当然、店はきれいになるし、
不思議とその日の料理は美味しいし
サービスにも心がこもってる、というんですね。
だからお店の前に立った時にその周辺に
「きれいの気配」が溢れているかどうか、見てみましょう。
ドアのノブが汚れていたり、
窓のカーテンが斜めになっていたり、
入口前の床にゴミが落ちたままになっていたりしたら
その店の「やる気」の水準は
かなり落ちているってコトです。
そんな店では、どんなに技術のあるシェフでも
どんなに経験のあるウエイターでも、
実力以上の奇跡を起こすことは出来ません。
「やる気」がないんだから‥‥。
「一生懸命掃除をしてるんですけどね、
店も古いし、手が回らないんでしょうがないですヨ」
などと言い訳する小さなビストロの
オーナーシェフがいるけど、
一生懸命掃除してきれいにならない、ということは
「きれいに対するセンスがない人」であって、
だから彼の作る料理が、安全で美しいはずもありません。
帰りましょうネ。
そのような店には入らず、帰りましょう。
店の前から踵を返し、電話をかけて、
「すいません、急に体の具合が悪くなったものですから、
行けなくなってしまいました」
と断って帰ればいいんです。
だってそんな店で食事したら
体の具合が悪くなっちゃうに決まってます。
だから決してウソをついたことにはなりません!
‥‥ですよネ。
健康のための自己予防です。
それともうひとつは「あいさつ」。
「いらっしゃいませ!」
に代表される、お迎えのあいさつ。
これも掃除と同じように、
「やる気」があるかどうかがはっきり分かります。
掃除と同じように、技術力なんかなくたって、
お客様を気持ち良くおもてなししよう、
という気持ちさえあれば
いいあいさつは誰にでも出来ます。
ただ、やみくもに大声を張り上げ
魚屋のような威勢良さで
「へい! らっしゃい」するフランス料理店、
なんてのはへんてこりんすぎてよろしくないように、
「自分のお店がどんな雰囲気の店で、
どのような言葉、言い方がふさわしいか?」
を十分に理解した上でのあいさつ、という
注釈付ではあるけれど、
でもあいさつというのは「やる気」があって、
躾が行き届いているという環境の中におかれれば
誰にも出来ることですからネ。
出来ればそれプラス笑顔…これで決まりです。
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あなたがレストランを判断する基準は
レストランがあなたを判断する基準です。 |
「清潔さ」と「あいさつ」。
実はこの店選びのヒントとなる第一印象は、
お店側がお客様を判断する際の
重要なヒント、でもあります。
「私はこれから行くレストランにとって
本当に歓迎されるお客様なんだろうか?」
「レストランの支配人って
お客様を第一印象で値踏みする、って
本当なんだろうか?」
こんな心配を持つ人って結構いるんじゃないでしょうか。
ボクもいろんな人からそんな疑問をぶつけられます。
どうなんだろう?
一番目の質問の答えはこうです。
すべてのお客様を歓迎して差し上げたい。
でも他の大多数のお客様の手前、歓
迎して差し上げられないお客様もいる。
そして二番目の質問の答えはこう。
お客様の「値段」を判断している訳じゃない。
お客様の「値打ち」を判断したい。
‥‥うーん、わかりづらいか‥‥。
あなたが「いくら使ってくれるか」で
判断したいのじゃなく、
あなたがどのくらい
「楽しむ準備ができているか」
というコトを直感したい、
と言い直せばわかりやすくなる?
一等地の一流のビルのテナントで、
高級が売り物の老舗なのに、
実際に行ってみると薄汚れていて、
葬儀委員長のような陰気臭い支配人が
ドヨドヨした空気の中を
無言で近づいて来るような店があります。
一方で、パッとしない町の
探しづらい路地裏にある
お世辞にも豪華とは言えない
質素な外観のビストロで、
でも玄関先までピカピカで、
ドアを開けるとかわいいマダムの満面の笑顔と一緒に
「いらっしゃいませ」というような店もあります。
立場を変えて考えてみましょう。
カシミアのテーラーメイドのスーツを着て
いかにも金を持っていそうだけれど
予約の時間に遅れた理由を運転手の不手際のせいにし
大声で罵倒する横柄な紳士
(紳士の頭を注意深く見つめれば、
ポマードで固まった毛の塊の間に
フケが浮いていたりします)に伴われた、
シャネルスーツで化粧品臭く、
無表情に蚊が鳴くようにしゃべる
陰気臭い爬虫類のような御婦人の二人連れのお客様がいます。
かと思うと、
決してプラチナカードなどは持っていそうにないけれど、
でも清潔感一杯で(たとえその服がちょっと流行遅れでも)、
なによりもはきはきしたあいさつが
はつらつとした印象のお客様がいます。
どうです? ボクだったら、後者に親切にします。
お店もお客様も、決して
「お金がかかっていそうで、豪華」
というようなことが大切なわけじゃないんです。
ただ知り合った最初のステップでは
見た目で相手を判断するしか手立てがなく、
そのヒントとして重要なのが
「清潔感が溢れている」ということと、
「笑顔とあいさつが美しい」ということなんです。
次回は、このことについてもうちょっと詳しく説明します。
「オトコはハンサム、オンナはエレガント」にネ、
っていうお話です。
illustration = ポー・ワング
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