おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。


誰かと目的の店に行く時に
あなたはどこで待ち合わせをしますか?
選択肢は3つ考えられますネ。

(1)会社や家から一緒に出掛ける。
(2)どこかで待ち合わせて、そこから一緒に出掛ける。
(3)そのお店で直接待ち合わせをする。


(1)は会社の仲間や、恋人同士、
あるいは家族とかでレストランに行く場合、
いちばん、問題が少ないです。
これから同じレストランで
同じ時間を共有する人達同士の
確認作業が存分にできていますから。
一緒に行く人達がどんな洋服を着ているか?
その人の今日の気分や健康状態はどうなのか?
そうしたことを十分に確認しあって
レストランに向かうことができます。
「理想的」と言っていいでしょう。

問題は、別々の起点から
ある特定のレストランを目指す時です。
そして多分、東京のような大都会では
その方が圧倒的に多いのだと思うのだけれど、
その際、直接、目的地であるレストランで
待ち合わせするの(3)はこの上もなくリスキーです。
なるべく避けたい行為なんです。


魔法の時間が始まるためには
その前段階も重要ですよ!

なぜならば、まず相手が本当に
この店までたどり着くのかという心配が
あなたに生じます。
もちろん、時間どおりに食事が始まるのかも心配ですネ。
待っている時間の手持ち無沙汰な状態に
自分の精神力と忍耐力がついてこれるかどうかも心配。

そしてなにより、お店の人が心配で仕方ないからネ。
だってあなたと一緒に食事する相手が
どんな人かが、店の人にも分からないわけです。
というコトはレストラン側が
あなたに用意したテーブルが
果たして本当に良い席だったのかどうかも
判断出来ないんです。
待っているあなたに、
どのように接すればいいかどうかも分からない。
店の人たちまでも、八方塞がりになっちゃう。
そんなふうに手持ち無沙汰気に誰かを待っているお客様が
自分の店に何人もいたとしたら?
ボクが支配人なら泣いちゃいます。
泣いて表に出て天を仰ぎながら、神様に祈る。
「早く残りのお客様が無事、到着しますように‥‥」。
そして当たり前のサービスを
一分でも早くさせて下さい、って。

だから出来る限り、どこかで待ち合わせ、
同じテーブルを囲むすべての人達が
一緒にレストランのドアを開けるようにしましょう。
そうすればレストランの人達は
そのグループがどんな目的で
今日、自分の店に来てくれたのか、
正しく判断することができますから。
そこからすばらしく奇跡的なサービスが始まり、
魔法のように楽しい時間がスタートするんですから。
とどこおりなく、ネ。

カフェで待つ時は
どういうふうに待つ?

さあ、それでは、どこで待ちましょうか?
まず、おすすめは「カフェ」です。
想像してみてください。
レストランに向かう前に、
まずカフェで彼女(彼)を待つ。
「今日はどんな洋服で来るんだろう?」
「道路が混んでそうだから時間通りに来れるのかなぁ?」
とかあれこれ思いを駆け巡らせながら相手を待つ。
雑誌を読みながらでも構わない。
でも今日、一緒に食事する人のことと
その人と過ごせるであろうすばらしい時間のことを
想像しながら待ちましょう。
きっと、あっという間ですね、その人が来るまで。
で、やって来る。
「ああ、髪切ったんだ‥‥素敵だよ!」
とか
「そのネクタイ、素敵ね。似合ってるわ」
とか言いながら、目的のレストランに出発する。
そのネクタイが栄えるレストランならいいね、
楽しみだわ、とか言いながら。

もういちど復習。
彼女(彼)の来るのを楽しみに待つのに
ふさわしい場所はカフェであって、
レストランじゃありません。
レストランで直接会う、のは駄目ですよ。
どこかでまず待ち合わせしてレストランへ行きましょう。

どうしてもレストランで待つことに
なってしまった時は?

でも、事情によっては、
どうしてもレストランで直接待ち合わせをしたいことも
あるでしょう。
そんな時は電話で事前に確認しておきます。
「待たせていただけるスペースはありますか?」って。
ある程度規模の大きなレストラン、
あるいは規模を越えて高級で知られたレストランには
サロンとかバーという名前で
お客様が全員揃うまでの間を楽しむための
スペースが用意されています。
そこなら心行くまで、
誰にも迷惑をかけることなく
来るべき人を待つことができます。
安心です。

そんなスペースがないレストランの場合、
‥‥それがほとんどの日本のレストランの
現状なのだけれど、そんな時は客席で待つことになります。
くれぐれも新聞を広げたり
週刊誌を読んだりしないこと。
ゆったりした姿勢で、ホールの雰囲気を堪能しましょう。
あるいはメニューを見せてもらうのもいい。
お水を一杯もらって味わいながら
気持ちを落ち着かせるのも手だし、
予算が許せば、食前酒をなめるのも悪くないです。

この場合のポイントは「ゆったりと」。
腕時計なんかセコセコ見ないで、ゆったりと。

「ええ、僕は心配してませんよ。
 彼女は必ずやってきますから。
 お洒落して飛び切りの笑顔で、
 お待たせっ! って、やって来ますから。
 それより、今日は何が
 美味しく食べられるんだろうなぁ(ワクワク)」
といった風情で、待ちましょう。

そんなあなたの風情を見ればお店の人は安心をします。
そしてあなたにそろそろと近寄って、
世間話をしてくれます。
運が良ければ今日のお薦めのメニューとか、
このお店のシェフの経歴とか得意料理とか、
普通の人が聞けないようなことを
(わざわざ聞かなくても)
いろいろしゃべってくれたりしますヨ。
これがもし、あなたが腕組みして
苦虫をかみつぶしたような表情で
入り口をにらみつけていたり、
貧乏揺すりしながら本のページを
めくり続けているような人だったら、
お店の人も腫れ物に触るような対応しかしない。
それじゃ、損でしょう?

実はボクは結構、お店に先に行って
一人で待つことを上手にこなすことで得をしています。
ボクは店長やシェフから名刺をいっぱいもらってるけど、
その半分ぐらいはこのタイミングでもらったものなんです。
同じテーブルを囲む遅れて来た連中に
「ここのシェフって前にどこそこの店にいてさ」
なんて、少々うんちくめいた事を言って
さすがって思われたり、
店長に誰よりも親しげに話して貰ったり、
かなり羨ましがられます。

だからもしその場で待ち合わせ、ということになったら
絶好のチャンスを貰ったと考えて、
自分を売り込みましょう。
ポイントは、これも簡単。
「ワクワクした表情でその場の空気に溶け込む」こと。
すると得する情報が向こうからやって来るもんです。

間違っても、彼女を待つまでエグゼクティブを気取って
手帳でひたすらスケジュールチェック、
なんてことをしちゃ駄目ですよ。
そんな彼氏を見て、彼女も
「ああ素敵!」なんて思っちゃ負け。
仕事は会社でするものです。

「待つ」という行為において
絶対しちゃいけないことは?

ところでレストランで直接待ち合わせの時には、
まず予約した本人が誰よりも先に行くのが
一緒に食事する人にとっては礼儀だし、
お店の人にとっても安心できる当たり前のこと。
だとしたら、誰よりも得しようと思ったら
まず自分で予約をすることですネ、これ基本。

それから当たり前のことだけど、
予約の時間には遅れないように。
遅れる、というのは、
あなたを待ち焦がれているテーブルに対して
申し訳ない出来事です。
そのテーブルはたまたま今晩、
あなたのためだけに用意されているわけであり、
もしかしたらあなたより強烈に
そのテーブルを必要としている人を
悲しい思いにさせた結果であるかもしれません。
そう思うと一秒でも早くそのテーブルに
キスしたくはなりませんか?
だから時間は守りましょう。
大人なんだから。

さて、次回は、外で待ち合わせるときの裏技です。
カフェ以上にいい場所が、じつは、ひとつあります。
それは、‥‥さあどこだと思いますか?


illustration = ポー・ワング

2003-09-11-THU

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