おいしい店とのつきあい方。 |
このテーブルでいったい、 今晩、いくら稼ぎたかったんだろう? と考えてみたことはありますか? なんだか生々しい話題ですけれど、 ちょっと働く人の気持ちになって 考えてみてあげてください。 彼らはどんなお客様を大切にしたいでしょうか? 美味しい、楽しいと言って喜んでくれるお客様は もちろん大切。 だけど、しっかり儲けさせてくれるお客様も大切。 マナーも良くお洒落なお客様なのだけれど、 あまりお金を使ってくれないお客様は? いつも無理難題を言って常連風をふかせる 楽しくないお客様なんだけど、 気前良く高い料理を頼んでくれるお客様は? 素直に喜んでくれるお客様と、 働く人を結果的に喜ばせてくれるお客様の どちらが大切? ‥‥というような質問をすると レストランの人は一番困っちゃいます。 ──どちらも大切です! 順列のつけようがありません。 と、答えるでしょうね。 でも、考えてみればわかります。 「美味しいと言って喜んでくれる上に、 儲けさせてくれるお客様」が、 一番素敵なお客様であるに決まっています。 そこで少々、経営の勉強をしてみましょう。
このレストランでは、出来れば 一人当たりこのくらいのお金を使って欲しい。 そう思って料理長はメニューを考えます。 一人当たりの消費単価。客単価です。 お店が用意しているコース料理というのが、 だいたいそのガイドラインだ、 というようなことは 「注文のヒント」の項目で述べました。 アラカルトを中心に注文するにしても、 そのガイドラインに則れば 失敗することが少ない。 何より、お店の人から怪訝に思われることもありません。 ただそのガイドライン分の客単価を ワタシ達、払っているから大丈夫でしょう? と思うと、これが落とし穴になることがあるんです。 経営において大切なのは 「テーブル単位の単価」という考え方なんです。 客単価じゃなくて、テーブル単価。 これが最初に問題提起した 「このテーブルでいくら稼ぎたかったのでしょうか?」 ということの内容です。 例えばです、二人で行って四人掛けのテーブルをもらった。 しかもそのお店が満席の状態で、 ワタシ達から遅れてやってきた4人連れのお客様が、 満席だと言う理由で入店できずに帰ってしまった。 もしワタシ達よりも彼らの方が 先にやってきていたとしたならば、 お店は2人分の売り上げを 余分に確保することが出来たのに‥‥! チャンスロスです。 どうでしょう? 途端に四人がけのテーブルを 二人で占拠してしまったあなたは、 居心地の悪さを感じるでしょう? このお店にとって歓迎されていないお客様に なっちゃったんじゃないだろうか? って そわそわ落ち着かない気持ちに なってしまうかもしれないですね。 実際はそうしたことは日常的に発生するわけで、 レストランの人たちもそんなことで一喜一憂するほど、 そしてお客様を評価するほど、 お金の亡者であるわけもない。 だから萎縮しないで安心して、 伸び伸び、食事をすればいい。 ‥‥のだけど、ちょっとした気配りをもって、 自分達の幸運を楽しむ心の大きさを持つと もっといい、ですよネ。 例えばボクはそんなとき、 空席のためにワインをあけることにしています。 あるいはいつもより少々奮発して、 良い料理を取るようにします。 四人がけに二人で座るという 豪勢なテーブルを担当してくれたウェイター君に、 「ごめんね、こんなにいいテーブルを用意してくれて…!」 と一旦恐縮しておいて、 「お礼にワインを一本、頂きましょうか?」 とひとこと告げれば、 ああ、この人はボク達のことを考えてくれる、 素敵にレストランを使い慣れたお客様なんだ、 と思ってもらえるでしょう。 例えばランチタイムでせわしないお店で、 やはり良いテーブルを用意しくれて、 ランチだからワインをあけるのもなんだしな、 という時には、ボクはこうすることにしています。 メニューの中から なるべく早く用意できそうなものを教えてもらい、 テキパキ食べて、食べ終わったら すぐにお勘定をして立ち上がります。 「忙しそうですから、次のお客様のために 今日はこれで失礼しますネ」 そういいながら。 入り口でお客様がテーブルがあくのを 今か今かと待っている、 そんな空気の中にありながら、 食後のデザートとコーヒーを弄びながら、 テーブルにしがみついている 無粋なお客様なんか放っておいて、 彼らはあなたの横に飛んでくるでしょう。 名刺を持って、こう言うでしょう。 「今度、ごゆっくりお越しの時には ワタクシに是非、一報下さい。 とっておきの料理と とっておきのテーブルをご用意して お待ちしておりますから」 あなたが座っているテーブルには値段が付いている。 ‥‥そういうことです。 そのテーブルの値段をより価値の高いものにするのも、 台無しにするのも、あなたの気配り次第である。 ‥‥そういうことです。
ついでに、レストランの平均的な原価って どのくらいだと思いますか? 材料費は大体30%。 人件費が30%で、 それ以外の雑費が13%ほど。 家賃とか設備投資の費用回収分で 20%ほどが消えてなくなって、 手元に残る利益は7%足らず、というのが、 最も一般的なレストランの経営のあり方です。 あの程度の料理でこんな値段をとるんだったら、 さぞかしこの店、儲けてるんでしょうね! そう言われることがレストランで働く人たちにとって 一番、つらいことです。 マクドナルドのハンバーガーの味をとやかく言う人に、 ボクはこう言って反論することがあります。 130円のハンバーガーを店で売るということは、 50円少々の原料費であのハンバーガーを 作っているということであって、 あなた、その値段で当たり前のハンバーガーを 作ることが出来ますか? 出来るんだったら批判することも許されるだろうけど、 そうじゃなかったら、 ただ一方的に批判するのはおよしなさい、って。 マクドナルドのハンバーガーというのは、 あまりに極端な事例だったかもしれないけれど、 それにしてもレストランというのは 外から見るのと、中で見るのでは イメージも内容も、あまりに違う産業。 今日、このお店のこの料理と このサービスに払ったお金の行方を、 ある程度、イメージできれば 外と中のギャップが少しでも小さくなるかな? そんなことに憧れながら、 経営数値という寄り道をいたしました。 次回は、「お店の人の失敗」のお話です。 illustration = ポー・ワング |
2004-04-15-THU
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