おいしい店とのつきあい方。 |
そしてどうすれば常連になることが出来るのでしょう? ボクの友人にとてもまめな奴がいます。 なんに対してまめか? というと、 こと女性と親密になることに関しては あらゆる努力を惜しまない、 という点においてまめな奴です。 女性を口説こうと一生懸命ですから、 ことある度にボクに電話をかけてきます。 「今度のデートに使えるレストランは無い?」 「今、映画を見終わったんだけど、 食事の前にちょっと一杯ひっかけられる 気の利いたバーは無い?」 ‥‥、とまあまるでボクは彼の プライベートコンシエルジュのようであったワケです。 で、事後の報告を彼から聞くと、 いかにも至れり尽くせりで情熱的であり、 献身的なおもてなしに満ちあふれている。 ならば彼は首尾良く女性と 親密な関係になれているのか? というと、そうじゃないんです。 ‥‥かわいそうなことに。 見た目が悪いワケじゃない。 話題も豊富で男の目から見ても 結構、もてるんだろうな、 と思わせるタイプなのだけれど、これがもてない。 もてないのが彼にとってもしゃくの種らしく、 会う度あれこれぼやくものだから、 よし、どこが一体悪いのか、 今度のデートにボクも付いていってやるよ。 待ち合わせ場所に向かう途中で偶然会ったら、 ついて来やがって‥‥ みたいな感じで紹介してくれれば、いいだろう。 ボクは何もしないで観察してるだけ、ということで、 とハナシはまとまり、そして次の週末の約束です。 ボクはその日一日、彼とつきあって、 ああ、これじゃあ駄目だなと思いました。 確かに彼は一生懸命。ボクの想像以上に情熱的で、 だけど全然イケてないな、と思ったんです。 何故か? それは彼が始終、話しっぱなしだったから。
街で車とすれ違うと、 その車が最近リリースされたばかりで、 日本ではまだ手に入りにくいものであること。 旧型車に比べてエンジンが非常に洗練されていて インテリアもエレガントである、ということ ‥‥などなどをしゃべるしゃべる。 途中寄ったカフェでは、 この前にみた映画のハナシをずっとする。 レストランで食事している最中も、 ある海外のリゾート地の素晴らしい景色であるとか そこのホテルが洒落ていたとか、 あるいは出てきた料理と似たようなものを 昔、パリで食べたことがある云々であるとか。 挙げ句の果てに、自分は将来、 なるべく早い機会にセミリタイアして、 海外で半分くらい住みたいんだ、 というような聞いてもいない己の夢を語ったりする。 都合、6時間ほどの間に、 ボクの頭の中は彼の自画像で一杯になり、 彼女も見る間に不機嫌そうになって行く。 彼女を駅まで送ってから、反省会をしました。 「あのね、女性に好かれようと思ったら 自分からしゃべっちゃだめだよ。 彼女にしゃべって貰って、君は聞き役に徹しなきゃ。 オレだって二度とお前と一緒に食事しよう、 なんて思わなくなったヨ」‥‥と。 果たして彼がその忠告を受け入れたかどうかは わからないけれど、未だに彼は独身ですね。
人間関係とはこういうものだと思うのです。 好きになって貰おうと思ったらまず相手の話を聞くこと。 相手の話を存分に聞いた後で、 はじめて自分の意見を言うこと。 自分が何か言いたくなるのを我慢して、 相手が何を聞きたがっているか、 してもらいたがっているかを考えること。 それが大切。 レストランに好かれようと思ったら、 同じことをすればいいんです。 レストランに好かれた人が、 初めて常連になる権利を与えられる、 そうココロに刻めば良いです。 自分の存在を大声で主張したがる人がいます。 駄目です。 素晴らしいお客様は黙っていても、 姿勢と笑顔で目立つものです。 大声で従業員を呼び止めるなんて、 それはもてない男が去りゆく女性に 泣いてすがって捨てないでくれ、 と言っているようなものです。 どこそこのお店はどうこうで、 とグルメを気取って様々な知識をひけらかして、 一目置かれようとする人もいます。 これも駄目です。 どこそこの店が良かったのならばその店に行けば良い。 どこそこの店の悪口だったら、 ああ、この人はこの店のことも こうやって悪口をふれ歩く人なのかもしれないな、 と思われる。 何度も通って、十分にお店の人と 知り合いになってからの情報交換は必要ですけれど、 そうなるまではこのレストランの人に 自分の人となりを知って貰うことに 全身全霊を傾けなくてはなりません。 じっと我慢です。 自分のわがままを聞いてもらえるのが常連、 と思ったら大きな間違い。 店のわがままを寛大に聞いて上げられるのが常連。 むしろ、お店の人からわがままを 言ってもらえるようになったら 本当の上得意、と思ってもいいのじゃないかな。 例えば料理が大幅に遅れています。 忙しい時に面倒な注文を付けるお客様が 運悪く居合わせたりすると起こりがちな出来事です。 「注文した料理、まだなんですか。 この前、来たときには こんなに料理が遅れることなんて なかったのに‥‥」 と常連風を吹かせることもあなたの自由。 でも、同じシチュエーションに、 「忙しそうですね? いいですよ、私達の料理は後回しでも。 だって時間は幾らでもあるんですから‥‥」 と常連らしく 店の都合に理解を示してあげることも出来る。 どちらがそのお店にとって、 常連になって頂きたいお客様なのでしょう? それよりなにより、 「ごめんなさいネ。あのテーブルのお客様が 急いでらっしゃるみたいだから、サカキさん、 ちょっと後回しにさせて頂いてもいいかしら?」 と言ってもらえること、 これがあるお店に通い詰めたお客様にとっての 最高のご褒美です。
そうしたお店のわがままを聞いて上げた見返りは、 と言うと、いつもより入念に仕上げられた 素晴らしいお料理と、 仕事が一段落して ホッとした顔で厨房に出てきたシェフとの、 一言、二言、気の利いたおしゃべり。 幸せです。 月末の週末、夕方の5時くらいに 流行のレストランに電話をかけて、 今日のテーブルが今すぐ欲しい。 オレはいつも利用しているサカキだけれども。 イヤな客です。 月の中旬のしかも平日、 決まってそう言うタイミングを選んで、 予約を入れてくれるお客様。 そうした人とお店の人は友達になりたい。 週末のてんやわんやの大騒ぎ状態を見て、 勝手な評価を下すお客様よりも、 平日の比較的ゆるやかで、 その分、完璧に近い状態を楽しもう、 と思ってくれるお客様を大切にしたいと思うものなんです。 良いお客様を良いお店を育てよう、と思う人。 良いお店は良いお客様と一緒に育っていこう、 と努力する店。 気持ちの良い店で、 そして気持ちの良いお料理に恵まれて、 そうだ、この店の常連になろう、と決心したら、 さあまず今あなたが座っている お店の状態を観察しましょう。 お店の人は今、あなたに何を期待しているのでしょう? お店の人は今、あなたから どのような一言をかけてもらいたい、 と思っているのでしょうか? 幸せなる常連への道の第一ステップです。 次回は、デザートのお話、そしてトイレのお話です。 illustration = ポー・ワング |
2004-05-06-THU
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