おいしい店とのつきあい方。 |
高級なお店の会計はテーブルで、と言われます。 分かってはいるのだけれど、 どこからどこまでが高級なのかが、 分からないことがあります。 食事が終わって立ち上がるべきなのかどうなのか、 迷う前にひとこと言いましょう。 「お会計、お願いできますか?」
「日本人は会計を 『金を払う行為である』としか考えないんだネ」 と海外の友達はよくそう言います。 「金銭授受という行為を 日本人は、恥ずべきことと考えてるんじゃない? だってみんなコソコソしてるものネ。 文化的なものかな、歴史的な習慣なんだろうか?」 と、彼らは不思議そうに首を傾げます。 「だって、会計の瞬間って、 レストランの食事の中で クライマックスの一つなのにネ。 それを楽しまないなんて、勿体ない」 彼らは会計伝票を前に、かなりの時間を費やします。 舌なめずりせんがばかりの丁寧さで、 伝票の一つ一つの項目をチェックするのです。 見ようによってはオーダーミスがありはしないかと お店のあら探しをしているようにも 見えなくもないのだけれど、 実は今日食べたものを一つ一つ確認する、 という作業をしているのです。 あの魚の前菜の2000円は高かったなぁ。 メインディッシュの羊は素晴らしかった。 あれがこの値段で食べられるなんて信じられないネ。 など、言いながら、料理と値段を再確認する作業を。 当然、注文したときに値段は見ています。 値段を確認しながら、 しかも十分に納得した上で注文したはずなのに、 食べた後にもう一度、 値段とつきあわせて確認してみると、 随分、印象が違っていたりするものです。 お値打ち感があるか、ないか? というコトですネ。 テーブルを囲んでみんなで感想を言ってみる。 ‥‥楽しいです。 時間があっと言う間に経ってしまうくらい 楽しいことです。 プリフィックスなコースを食べたときは、 一品一品に値段が付いているわけじゃないので、 これほど入念な確認作業はできないけれど、 それでも思いもよらぬ発見があったりします。 「あれぇ、コノ店、パンのお代わり、 ただじゃなかったんだ」だとか、 「あっ、お水、サービスして貰ってる!」とか、 ささいなコトが分かってきます。 で、いろんな伝票をしげしげ見続けることで、 レストランの商品の値付けの不思議が 見えてきたりするのです。 だから楽しみましょう。 まじめに楽しもうと思ったら、 テーブルを立ち上がってレジの前で、 というわけにはいかないでしょう? 椅子に座ってじっくりと。 出来ることなら飲みかけのコーヒーや、 食べ残しのプチフルが置かれたテーブルの前で。 スマートに、あくまで 「私達は別に会計ミスを発見したいワケじゃ ないんですよ」という優雅な仕草で‥‥。
ところで割り勘って失礼なコトなんでしょうか? ボクはそうは思いません。 というよりも接待のような特別な機会を除いては、 自分が食べた分は自分で払う、 が当たり前でしょうから、 むしろ、割り勘であることが当たり前。 ただ、レジの前で割り勘金額を計算するような ドタバタ騒ぎこそが失礼なこと。 だから、会計はテーブルで、を心がけましょう。 そういえば割り勘と言っても、 いくつかのやり方があります。 自分が食べたモノ分の支払いをするやり方。 面倒なやり方ですが、一番、公平な方法です。 友達を友達としてずっと大切にしたければ、この方法。 出来れば注文する前に、 すいませんが、今日は伝票を 一人一人分けて頂けませんか? と言えばいい。 もう一つのやり方に、全員が食べた分を 人数でエイヤッと割る方法。 簡単ですが、不公平。 みんなが同じ程度の料理を同じだけ食べたような時は それでも大丈夫でしょうけれど、 一人だけいっぱい食べた、なんて場合は喧嘩になります。 特にワインなんかのアルコール。 飲む人と飲めない人が同じ金額では不公平が過ぎますネ。 注意が必要です。 ところで割り勘のことを 英語で「go Dutch」と言います。 ダッチはオランダと言う意味ですから、 オランダ風で行こう、という具合になります。 イギリス人とオランダ人は仲が悪い。 今でも仲が悪いか、と言うとそうじゃなく、 欧州列強が覇権を争っていた時代、 どちらも本国が小さく、 海運と貿易に活路を見いださなくちゃいけなかった イギリスとオランダは、 いろんなところで喧嘩してたんでしょう。 だから、英語でオランダ風と言うと あまりいい意味で使われないようです。 一緒にテーブルを囲んで、 みんなで均等に割ればいいのに、 あいつ、まるでオランダ人のように、 自分のぶんだけ払って帰ったぜ、 って感じで使われていたんでしょう。
最後に、会計時の楽しい工夫を一つ。 お金を払ったら領収書を貰うことをおすすめします。 会食費が経費で落とせるワケでなく、 なのにどうして領収書を? と思われるかもしれないけれど、 領収書を貰うというのは二つの意味で素敵なコトです。 一つは「今晩の楽しかった食事の想い出」になる、 ということ。 日記に貼っても良い。 財布に入れっぱなしでもかまわないでしょう。 ふとしたときに見返して、 その時を思い出す手がかりとしてとっておく。 実は領収書にはそのお店の隠れた性格がわかる情報に 満ち溢れているんですヨ。 大きくて分厚い立派な紙で作られた領収書をくれる店。 接待交際とか会食とかに使われる機会が 多い店なんだろうなぁ。 市販の粗末な領収書に手書きで 住所や電話番号が書いてある店。 ここは普段使いの店でしかないんだなぁ。 とか。 小さくてとぼけたような店なのに 「株式会社渋谷商店」みたいな社名の領収書だったり、 逆に立派な店なのに 領収書の発行人が個人名だったり、だとか。 普通にお客様として使っているだけだと分からない 情報が詰まっているんです。 もう一つは 「領収書は自分の名前を残す最高のきっかけになる」から。 「宛名はどうなさいますか?」 領収書をお願いするとまず一番最初にこう聞かれます。 「サカキ、でお願いします。 榊原さんの榊、キヘンに神様の神、 一文字でサカキです!」 そう口頭で告げてもいいのでしょうが、粋じゃないです。 だからボクは名刺を手渡します。 「会社名じゃなくて、名字の方でお願いできませんか?」 そんな感じ。 実はボクは、何人もの自分を楽しむために いくつかの名刺を持っています。 本業である会社の名刺。 サイドビジネスとして経営している会社の名刺。 シンガポールの友人にアドレスを借りて作った英語の名刺。 そして役職も何もついていない自宅の名刺。 お店によって使い分けます。 どちみち領収書の宛名は「榊様」であって、 なんら不都合は無いのですから。 ただ、お忍びレストランなんかで 自分の身分をあまりハッキリあかしたくない、 とかって時に、いくつかの名刺は役に立ちます。 二度と来たくないんだけどな、 と思ったレストランに限って 「名刺を下さい」とかって言われて、 そしたらボクはシンガポールの名刺を渡す。 あとは野となれ山となれ、って感じで。 食べ歩きが大好きな女性、 しかも彼女は専業主婦で ボクの同級生なのですが、 ボクは彼女に自分の名刺を持つことを勧めました。 自宅の住所と電話番号、 そして名前だけで構わないから、と。 そしてそれを会計のタイミングで手渡し、 領収書を作って下さいと言ってご覧なさい。 領収書が完成したら、その名刺も一緒に 多分、持ってくるから、 「名刺は差し上げます、なにかの機会に ご連絡できるとうれしゅうございます」 と言って置いて来なさい。 あなたの名前が永遠にその店に残るなんて 素敵でしょう! と。 「実はワタクシ、こういうモノなんです。 今日のお料理、感心しました。 出来ればダイレクトメール、くれませんか」 って、名刺を差し出すなんて まるでビジネスにおけるサラリーマン同士の 名刺交換でしょ? かっこよくない。 だから領収書。 ついでに名刺。 新しい人間関係の始まりです。 そうやってお気に入りのレストランが 増えてくるんですよね。 次回は「お金を払う人」のお話です。 illustration = ポー・ワング |
2004-05-27-THU
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