おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。




客席に着きメニューももらって、笑顔もバッチリ。
素敵なお客様としての印象もシッカリ作って、さて注文。
何を食べるか決める運命の瞬間がやってきました。
どうしましょう?

メニューから食べたいものを選ぶ。
とても悩ましい行為です。
たとえばお店で物を買うときに、
実物を見ないで買うということは滅多にありません、よね?
(通販だと、そうじゃないですけれど)
例えそれがどんなに高級な品物でも、
お店に行ったら、手にとってみて、
それから買うか買わないかを決めることができます。
ものによっては、買って使ってみて、
それで納得できなかったら返品することすら許されている。
とてもお客様にとって都合の良いシステムです。
ところがレストランで商品をたのむ。
実物を見てたのむ‥‥、
バイキングレストランや
カフェテリア以外ではまずできない。
あっ、そうだ、回転寿司。
あれは例外。
注文したものを食べてみて、
思ったのと違うからって
返品することができるわけじゃない。
お客様にとってこんな不利なシステムはないだろうな?
と思います。
飲食店と同じくらいお客様にとって不利なシステムは、
「理容室や美容室」ぐらいじゃないのかなぁ。
絶対に自分が思ったような髪型にならなくて、
なのにやり直しがきかなくて、
鏡の前の椅子に座ってお店の人に微笑まれたが最後、
決まったお金を払わなくちゃいけないシステム。
だから、メニューを読むちょっとしたコツを
知っているか知らないか。とても大きな違いになります。

いちばん立派な「グランドメニュー」。
もしそれ1冊しかなかったら?

まず、レッスン・ワン。

あなたの手元に何種類のメニューがあるのか、
数えてみましょう。
というのも、レストランが用意している
メニューの数の多さ、少なさは
厨房の心構えと状態を推察するのに
とても良いヒントになるから。
メニューを開く前に、その店の良し悪しを判断できる。
いいでしょう?

まず一番分厚くて大きくて、立派なメニュー。
「グランドメニュー」
とレストランの人たちは呼びますけれど、
これは営業時間中、いつでも注文することができる
レストランの定番商品を集めたモノ。
グランドメニューがない店はまずないでしょう。
この中に載せられている料理は、
厨房の中の調理スタッフが作りなれてて、
注文しても心配のない料理ということ。
グランドメニューの充実は
そのお店の厨房の中の充実の証だ、
と思えばいいでしょう。
ただこれ一冊ですべて済ませようとする店は、
それでいいか? というと、
そうした店の厨房は退屈で沈滞ムードの
あまり楽しくない職場であることがとても多い。
だって毎日毎日、同じ料理ばかりを作らされてる。
あるいは新しい料理に挑戦しようという
元気も気概もない厨房。
ドヨーンと暗い退屈な厨房が見えるよう。
そんな厨房で楽しくて勢いのある料理が作られる、
と思います?
だから、あなたの手元のメニューがたった一冊だったら。
今日は定番中の定番だけたのんで、
珍しい料理を試すのはやめたほうがいいだろうなぁ、
と思えばいいです。
あるいはメニューの中で一番安いものを。
仕方ないですネ。

ぺらりとした「挟み込みメニュー」で
お店のやる気がわかります。

でも、たいていはグランドメニュー以外にも
メニューが用意されているものです。
その時間帯、その季節などに応じて
お客様にお勧めしたい商品を載せたモノ。
ランチメニュー。
ディナーメニュー。
販売促進メニュー。
厨房のお勧めメニュー。
‥‥などなど、いろんな呼び方で
いろんなメニューが用意されています。
レストランの人たちはこれらのメニューをまとめて
「挟み込みメニュー」と呼んだりします。
グランドメニューのページとページの間に
挟みこまれて手渡されることが多いからですね。
この挟み込みメニュー‥‥、
グランドメニューより確実に薄くて小さい。
ほとんどの場合がペラペラの一枚メニューだったりして、
製作する費用も格段に安くて済みます。
だから簡単に交換できるし、頻繁に変更することもできる。
普通、グランドメニューというのは
短くても半年ほど、
たいていは1年間は使うようにできてます。
それに比べて挟み込みのメニューの試用期間は
1ヶ月から数ヶ月。
つまり、挟み込みのメニューは、
厨房内の新しい料理に対する対応力とか、
柔軟な姿勢などの指針になります。
やる気のない厨房は
挟み込みのメニューを嫌いますからネ。
厨房の作業は、適度に複雑で
適度に不慣れな調理を一つ一つ克服することで
上達するもので、だから優秀な厨房のスタッフは、
適切な挟み込みメニューを、
自分達の表現力をアップさせるための
良いキッカケとして歓迎するもの。

だからといって、あまりに多くの
種類の挟み込みメニューは逆効果。
厨房のスタッフが新しい料理の調理手順を
習熟しないうちに
どんどん次の新商品がやってくるような状態。
厨房の中はてんやわんやの大騒ぎです。
それになによりこのファミリーレストランは、
何をお客様に売ればいいのか判断すらできない
優柔不断で自信のない経営者が経営しているんだろうな、
と思えばいい。
経営者が迷っているレストラン‥‥。
そこに素晴らしいサービスとか
素晴らしい料理とかを要求するのは無理がある、
と思って間違いないでしょう。
だからグランドメニューと一緒に
あまりに多くの挟み込みメニューを手渡されたら。
そんなときは挟み込みメニューはそのまま
テーブルの上に置いて、
グランドメニューだけに集中しましょう。
不慣れでおそらく完成度の低いであろう
商品の一覧表に違いない挟み込みメニューに
目を通すのは時間の無駄遣い。
だから、グランドメニューの中の一番、
簡単にできそうな料理を探す。
間違いないです。

あなたの手元に程よく分厚いグランドメニューと、
控え目なサイズの挟み込みメニューが一冊づつ。
メニューはそれだけ。
今日のあなたは幸運です。
グランドメニューと挟み込みメニューを
かわりばんこに眺めながら、一生懸命悩みましょう。
多分、何をたのんでもこの店だったら大丈夫。
でもなかでも何をたのめば、とても楽しい食事になるのか?

レッスン・ツーの始まりです。次回につづきます。

illustration = ポー・ワング

2005-05-26-THU


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