おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。




レストランの忙しい時間帯を説明するのに、
こんな言い方をすることがあります。

「あなたのお腹がすいた時間は、
 みんなのお腹もすいている時間」。

つまり人が昼ごはんを食べたいと思うのは
たいていが12時10分前後。
晩ごはんを食べたくて仕方なくなるのは、
7時から8時の間と決まっていて、
だからどうしてもその時間になるとお店は混む。
お店が混めば溢れた人はウェイティング、
というコトになる。
ちょっと時間をずらせばいいのだろうけど、
お腹がすいているのだから仕方ない。
お店を変えればいいのかもしれないけれど、
ここのあの料理を食べたい、と思ったら
なかなか他のお店の料理を思い浮かべることは難しい。
どうせ、他のお店に行ったところで、
そこも満席で待たなくちゃいけないかもしれないし。

さてウェイティング。
どのくらい待てばいいんでしょうか?
そもそもその仕組みって
どんなふうになっているんでしょうか?

ウェイティングの平均的時間は?

滞席時間、という言葉があります。
パソコンのワープロソフトの辞書には
まず必ずといっていいほど登録されていない、
外食産業の専門用語です。
滞席というのは、
客「席」に「滞」在しているという意味で、
つまり平均的なお客様がどのくらいの時間、
客席に座っていらっしゃるか?
ということを表現している。
そしてお店の種類によって
標準的な滞席時間が決まっている、といわれています。
法則はこうです。
客単価の安い気軽なお店は滞席時間が短くて、
逆に高級なお店になればなるほど滞席時間は長くなる。
500円くらいでお腹一杯になる
ファストフードのようなお店の場合、
30分以下の滞席時間。
1万円を超えてしまうような
フランス料理の専門店のようなお店では
2時間くらいの滞席時間。
ファミリーレストランの場合には
1時間くらいが平均的な滞席時間。
居酒屋だと1時間半というところですか。

だからファストフードで満席です、って言われても
当たり前にいけば30分ほどでどこかの席が空くことになる。
ところがフランス料理店に突然行って、
満席ですって言われたら
ひょっとしたら2時間待たなきゃ座れないかもしれない。
予約をしないで高級レストラン。
これほど危険はことは無いですよね。

待ってる人が目に入ったら?

一方、お店の人は満席でも待ってくれるお客様に
「どのくら待てばいいですか?」ときかれたときに、
この標準的な滞席時間から逆算して、
大体の待ち時間を算出する。
最初のお客様が40分前にやってきて、
ウチの平均的なお客様は1時間ちょっといらっしゃるから、
多分、30分以内にはご案内できると思います。
というような答え方。
経験豊富で熟練したホールスタッフなら、
勘を超越したかなりの精度で
ウェイティングの時間を当てることが出来る。
のだけれど、お客様がいつもよりちょっと余分にはずんで、
それだけシアワセな気分のテーブルの数が
多くなったりすると、おやまあ大変。
約束した時間に待っていらっしゃるお客様を
案内することが出来なくなる。
どうしましょう。

もしあなたが入り口近くのテーブルに座っていて、
案内されるのを待っているお客様が見えている。
ときおり、目と目があったりしちゃうんですネ。
待っている人の表情って
なんだかちょっと恨めしそうに見えたりして。
そんな人たちを前に食事しているのが、
なんだかちょっと後ろめたく感じたりして。
食事も終わってコーヒーを飲み、
さあ、もう一杯お替りしようか?というシチュエーション。
しかも時計をみたらお店にきてから、
1時間ちょっとを楽しんでいた。
としたら、お替りは我慢して
テーブルを待っているお客様に譲りましょう。
それが助け合い、というものです。
コーヒーのお替りはいかがですか?というお店の人に、
「いやもういいです。
 お客様が待ってらっしゃるようですから」
とか言って立ち上がる。
次の機会に利用できるサービス券なんてものは、
こうしたお客様のためにあるものです。

待たせすぎず帰る、
最高のお客様になろう。

問題はお店の奥に座っていて、
お客様が待っていることに気がつかないようなとき。
楽しくお腹一杯になりいつも以上に話に花が咲いて、
気がついたら2時間、
おしゃべりを楽しんでしまったようなとき。
何も知らずにレジに向かうと何人ものお客様が待っている。
冷たい視線。
わかっていたらもっと早く切り上げていたのにね、
なんてことがおこってしまう。
知らずにあなたは配慮に欠ける、
自分勝手なお客様のようになってしまってたりするんですね。

そうならないようにするにはどうすればいいのか?
実はお店の中にヒントがあります。
見渡す限り客席はお客様で埋めつくされてる。
なのにキッチンから料理が出てくる気配は無い。
お店の人はコーヒーのお替りとか、
食べ終わった食器の後片付けくらいしかすることが無くて、
ちょっと手持ち無沙汰のように見える。
かと思うと、どこかのテーブルのお客様が立ち上がったら
従業員が一斉によってたかって
そのテーブルを片付け始める。
そしてテーブルの準備が出来たら
すぐさまお客様が案内される。
‥‥ようなとき。
多分、このような状態のレストランの入り口では
何組かのお客様が待っているはず。
お店の人にさりげなくこう聞いてみましょう。

「ウェイティングの方がいらっしゃるんですか?」
ええ、何組かお待ちになってらっしゃるんですよ‥‥、
と言われたら
「それじゃあそろそろワタシ達は失礼しましょうか」と一言。
それで席を立ってみましょう。
店長の最敬礼と、最高の笑顔で送り出してもらえる。
気持ちのいいものであります。

レストランという場所はみんなのものである。
だからみんなで譲り合って使わなくちゃいけない、
ということなんです。

illustration = ポー・ワング

2005-07-14-THU


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