過ぎたるは及ばざるが如し。
どんなにおいしい料理も食べすぎてしまうと、
すべてが台無し。
何を食べたか? という思い出じゃなく、
テーブルの上にたくさん残ってしまった料理のことを
後々、思い出しちゃうはめになります。
もったいないです。
ただそれ以上にかなしいのは、
結局、おなか一杯にならずに
食事が終わってしまうコト、でしょう。
気取ったお店。
お洒落すぎるお店。
あるいは、体にやさしいを売り物にしている
お店なんかでよくあることです。
一皿一皿が少なすぎて、
本当にコレでおなか一杯になれるのかしら、
っていうレストラン。
それも厄介。
実際、大食い倶楽部何人かで訪れたレストランで、
メニューを端から端まで片っ端から注文して、
それでもおなか一杯にならなかった‥‥、
なんてことも少なからずあったりします。
楽しくおなか一杯にして差し上げることが
一番のおもてなしであろうレストランで
おなか一杯になれないなんて、
なんともかなしいじゃないですか。
食べすぎや食べなさ過ぎを防いで、
適量食べていただきたい、
という工夫の一つに「コース料理」があります。
お客様のお好み応じて注文できる
アラカルトも揃っているけれど、
なかでも今日、一番のおすすめで
しかもお得な料理を組み合わせた
コース料理のご用意もございますヨ。
というのが、一般的なレストランのメニューの姿です。
ところが最近では、うちのお店は
コース料理しかございません‥‥、
という店も増えてきた。
たいてい小さいお店で、
たくさんの調理人を用意出来るワケでなく、
だからお客様をお待たせすることのないように
おいしいモノをたべていただく工夫としての
お任せコース料理の店。
たくさんあります。
そんなお店の一つで、こんな経験をしました。
まだまだ若く経験もなく、
お店の人に自分のワガママを言うなんて
思いもよらない頃のコト。
笑うに笑えぬ思い出です。
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◆ううう、足りない‥‥!!!
面白いお店でした。
中華料理。
しかも脂を極力使わず、
体に良い素材を体に良いように調理した
体に良いモノだけをお召し上がりいただく、
今までになかったタイプのチャイニーズレストラン、
というコトでワクワクしながら訪れました。
化学調味料や脂を使わなくて、
これだけシッカリとした味わいの料理が作れるんだ‥‥、
と提供される料理は驚きの連続でした。
ところが上品なのは料理の味だけでなく、
ボリュームも驚くほどに上品。
パクッとやると一口でお皿が
キレイサッパリなくなってしまうような分量で、
なかなか空腹が満たされない。
しかも消化を助けるというお茶が出る。
丁寧に調理しているからでしょう‥‥、
料理と料理の間がとても長くて、
しかもその間、このお茶を飲んで待つわけですから、
もうお腹を満たすために訪れたのでなく、
まるでお腹をすかせるためにレストランに来たような、
そんな奇妙に包まれつつも2時間少々。
これでお食事の終わりになります、
といって麺が来ました。
おなか一杯にまだなってないのにもかかわらず。
しかもその麺というのが、
スープに数本、一瞬にして数えられるほどの数本、
チョロンと入ったモノでした。
スープを最後の一滴まで飲み干してでも、
おなか一杯になりゃしない。
これで最後の最後です、
という杏仁豆腐をチュルチュルすると、
ますますお腹がすいてきさえする。
とてもかなしい結末でした。
「お食事、満足していただけましたか?」
と、ワザワザ挨拶に出てきてくれたオーナーシェフに、
思いっきり元気の良い愛想笑いで、
「ええ、おなか一杯になりました!」
と嘘までついてしまった自分に自己嫌悪。
お店をでて急いで駅まで歩いていって、
それで駅前のラーメン屋台でズルズル、
味噌ラーメンを胃袋に入れ、
それで満腹をでっちあげるはめになったのでありました。
ますますそれで自己嫌悪。
確かにおいしい料理ではあったけれど、
おなか一杯にならなかったというコノ失敗。
しかもおなか一杯になりませんでした、
と言うコトもなく帰ってしまったというコノ失敗。
折角のステキな一日の最後の思い出が立ち食いラーメン。
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◆悪いのは誰? それはボクでした!
しばらくしてこのときの話を
懇意にしてもらっている
イタリアンレストランのシェフにしました。
すると彼はこう言いました。
「サカキ君が悪いネ。
おなか一杯でもないのにそんなコトを言うなんて」
「だって恥ずかしかったんですもん」
と言うボクに、彼はこう諭すようにいいました。
「レストランでお腹がすいている、
というコトを恥じることはないんだよ。
レストランに行って空腹じゃないということこそが
恥ずかしいこと。
出された料理を食べきれなかったことよりも、
おなか一杯にならずにレストランを後にした、
というコトの方が恥ずかしい、とは思わない?」
確かにそうだ、とそのとき、はじめて思いました。
おまかせコース一つしかなく、
すべての料理を出し終わったとしても
厨房の中に食材はある。
その店でも、もしボクがそのとき、
ちょっと物足りないんですけど‥‥、
と言えば厨房の中の他の食材をみつくろって、
ちょっとした料理を追加で作ってくれたのかもしれません。
あるいは、麺のお替りくらいなら
コース料理の値段の中で
たべさせてくれたかもしれないし、
そしたらその日、最後の思い出が
立ち食いラーメンにならずにすんだに違いない。
勿体無かった‥‥、の一言に尽きますネ。
料理人はそもそも、
うれしそうな顔してたくさん食べてくれる人が好き。
コース料理の最後までたどり着かず、
途中でギブアップしてしまうより、
ちょっと物足りない顔で、
まだおいしいモノはないんですか?
と、聞いてくれるような人が好き。
そうした人のために、レストランの中には、
とっておき、というモノが置いてある。
普通のお客様にはお出ししないんですが‥‥、
といいながら、その日、一食限りの自慢の料理が
ストンと目の前にやってくる。
‥‥かもしれないのです。
だから恥ずかしがらずに、
物足りなければそう言いましょう。
そのイタリア料理のシェフの店で、
ランチコースを食べ終わると、
必ずシェフにこう言われるようになりました。
「サカキ君、どうせまだ食べられるでしょう‥‥、
まかないでも一緒に食べていく?」
大きなお皿の上にテンコモリでやってくる、
厨房の中のあり合わせの食材をタップリ入れた
熱々のパスタであることがほとんどでしたが、
それはそれは、おいしかった。
レストランで得をすること。
それは、高いものを食べることでも、
何度も何度も行って名前を売ることでもないんですね。
お腹をすかせてタップリ食べる。
タップリ食べると言うコトを恥ずかしいと思わないこと。
そしてニコニコしながら、
他になにかおいしいモノはありませんか?
と聞いてみること。
美味なる扉は、そうした自分の空腹に
正直な人に真っ先に開くものである。
そうボクは信じているのでありました。
(つづきます) |