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サービス。
良いサービスに出会えるかどうか。
それにはかなり運不運の要素がある、と思います。
残念ながらどんなにお客様であるワタシ達が情熱を持って、
良いサービスをしてもらおう、としても、
いつも確実にすばらしいサービスに出会えるか、
というとそんなコトは決してない。
ボクだって、ときおりひどいサービスにさらされて
絶望的な気持ちになることがありますもの。
ただ、良いサービスに遭遇する確率を高めることは出来る。
‥‥、とボクは考えます。
それは「良いサービスの経験をひとつでも多く増やすコト」。
何度も何度も失敗と成功を繰り返して、
サービスに感動できる感受性を育てることが、
一番の近道だと思うのです。
とはいえ、自分だけの経験には限りがあります。
だからボクは、誰かがこんなサービスを受けて
とても気持ちよかったヨ‥‥、
とかって話を聞くのが大好き。
人の素敵な経験を、自分の経験にするコトが出来れば、
それだけ素敵なサービスに出会えるように
なるんじゃないか‥‥、と思ったりもするワケです。
そこで。
ボクが経験した素敵なサービスの話のあれこれ。
しばらくちょっとおすそ分けしてみようかな、と思います。
さて、一回目。
普段、レストランに対して
サービスのよさを期待しない人でも、
ちょっとした特別なサービスを期待してしまう
特別な機会があります。
記念日。
例えばその人の結婚記念日とか誕生日。
そうした日には何かのサプライズがあるとうれしいなぁ、
と誰でもほのかに思うもの。
‥‥ではありませんか?
10年以上も前の話です。
ワタシの母が、たまさかロサンゼルスで
誕生日を迎えることになりました。
大切な母の誕生日です。
しかも海外でむかえる誕生日でありますから、
やはり特別な誕生日にしてあげたいなぁ‥‥、
とボクは思った。
そこで母に、どんなところで誕生日をお祝いしようか?
と、聞いてみることにしたのです。
彼女の答えは至極簡単。
おいしくて楽しければどんなレストランでもいいけれど、
私の前に従業員がズラっと並んで
誕生日の歌をうたうような店につれていったら
承知しないからネ。
と彼女の答えは簡単ではありましたけど、
聞いたボクにとっては
かなり頭を悩ます答えでもありました。
さあ、どうしよう。
まず店選びです。
母が喜ぶ店でなくてはいけません。
どんなにおいしくても、
女性が、しかも落ち着いた年齢の女性が
楽しめる店でなくてはおもてなしにならないワケで、
そのためには条件がいくつかあります。
ウェイトレスが活き活き働いている店であること。
つまり女性が女性をおもてなしするような雰囲気を
もっているレストランがいいですネ。
それに女性が美しく見えるような店であること。
華美すぎず、明るすぎず、落ち着いていて、
ちょっとクラシックなインテリアで、
そこでなら母が居心地よさそうに感じるような店。
‥‥そんな店を探さなくちゃ。
当然、料理も大切だけれど、
やっぱり母が主役になれるような店。
高すぎちゃ駄目です。
自分の子供が余りに過ぎた無駄遣いを喜ぶ母親は
この世にはいない。
そう思ったほうがいいでしょう?
だから、程よく高級で、程よくおいしく、
明るい気分で食事をさせてくれる店。
そんなレストラン探そうと、まず一生懸命。
ホテルのコンシエルジュに聞きました。
それなら、母の日に一番人気のあるレストランが
近所にありますが、どうですか?
と、とあるレストランを薦めてくれた。
なんでも母の日になると、
10時の開店から24時の閉店まで、ずっと満席。
レストランの前の通りには、
母の日渋滞が出来てしまうほどに人気がある店だ‥‥、
と言うのです。
早速、電話番号をもらって、
予約の電話をするコトにしたのです。
可能であれば支配人とお話がしたいのですが‥‥、
そう言いました。
とても大切な人の誕生日の予約のことで、
どうしてもご相談したいことがあるのです、と。
ワタシが支配人ですが、
と落ち着いた声の男性に電話の向こうがかわります。
──大切な人というのはワタシの母なのです。
日本から来て、たまたま明後日が誕生日なのですが、
さりげなく、でも感動的な誕生日を
彼女にプレゼントしてあげたくて、
どうにか力になってはいただけないでしょうか?
ボクはそうお願いしました。
お母様はどんな方なのですか? と、彼は聞きます。
感動的なサービスの、何か手がかりがありはしないか、
というコトなのでしょう。
ボクは、彼女はとても社交的なのだけれど、
内気でもあり、特別扱いされるのが好きではあるけれど、
目立ちたがり屋さんではないんです。
とても複雑だけれど、チャーミングで美しい、
まるでサクラの花を人にしたような日本女性なのです、
と答えました。
なるほど、了解しました。
明後日、特別のお席をご用意して
お二人をお待ちいたしましょう。
そう答えて、電話を切ろうとする彼を制して、
最後にボクはこう言いました。
「ハッピーバースデーってお店の人に歌われてしまうと、
ボク、母に叱られてしまうのですけど‥‥。」
彼は陽気にこう答えて、電話を切った。
「ワタシの母も、そんなことされたら
ボクのお尻を蹴飛ばすでしょうネ。
安心をしてお任せください」
さて、その日が来ました。
どうなるのでしょう‥‥。
ワクワク、ドキドキ、ボクは母をエスコートして、
そのレストランの玄関をくぐったのでありました。
(つづきます) |
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