おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。
(四冊目のノート)
すばらしいレストランにとって、お客様の名前と住所、
電話番号を記入した顧客リストは大切な宝物、であります。

フランスなんかではこういいます。
有名なシェフが独立して店を作っても
成功する確率はとても低い。
だけど、ステキな支配人やソムリエが独立をすると、
そのレストランはかなりの確立で成功をみる。
そういわれる一番の理由は、顧客リストの大切さです。
厨房の中で一生懸命料理を作っているだけでは、
お客様と名刺を交換したり会話を交わす機会がなくなる。
その点、ホールで仕事する立場の人たちは、
いつもお客様との人間関係の中にいる。
だから独自の顧客名簿をもっていたりして、
それが独立したときに役に立つ。
‥‥といわれているのですネ。
あながち誇張というワケじゃない。
日本でも名物ソムリエが独立して、
瞬く間に良いお客様をひきつけて
繁盛店を作ってしまった、という例がいくつもあります。
それほど、顧客リストはレストランにとって、
大切なモノなのでありますね。

顧客リスト。
それは絶えず、更新され続けるモノ‥‥、
でもあります。


昔はよくおこしになったけれど、
最近はあまり顔を見かけないお客様を整理する。
その代わりに、この前、
初めていらっしゃったばかりなのだけれど、
とてもステキな印象だったお客様の名前の前に、
チョコンと小さな印をつける。
今度、何か特別なイベントを行うときには、
必ずあの人に案内状をお送りしよう。
そう思って、名前の上にマーカーで色をつけて目印にする。

‥‥、というようなことが定期的に行われてます。
そしてこうした更新作業の、
一年でももっとも重要な時期が12月。
今年一年を振り返り、
新しい年を迎えるためのリストを作る。
あるいは、クリスマスカードや年賀状を正しく、
効果的に送るための顧客リストの見直しをする。
例えば年末年始の営業のご案内を送付する。
そんな準備をするために、
お客様名簿を整理する時期が12月‥‥、なのですネ。

こうしたレストランの経営のサイクルを
利用しない手はありません。

来年一年、自分のお気に入りのレストランで
得をしようと思ったら、
この時期にせっせと通って顔を出す。
年の初めの1月に、どんなに通って印象的、
と呼ばれるお客様であったとしても、
12月のお客様のたな卸し時期にまで
その印象が残っているとは限らない。
だから年末。
12月。
再びステキなお客様である、
ステキな自分を売り込むチャンス。
名刺の交換をもう一度、しなおすチャンス‥‥、
でもあるのです。

そもそも、12月という月。
新しいお店を訪れるのには、
あまりふさわしくない時期だろう‥‥、
とボクはかねがね思っています。
なぜか?
理由はいくつか。


まず、第一に12月にオープンするレストラン。
ボクはあまり信用しないことにしています。
書き入れ時に売り上げを作りたくて仕方なくて、
たいてい準備不足であるレストランがほとんどだから。
レストランというモノ、開店した当初から完璧な店‥‥、
というようにはなかなかならない。
どんなに優れたシェフと
すばらしいウェイターがそろっていても、
新しい場所と新しいお客様になじむまでには、
数ヶ月という期間を要するものなのです。
だから、良心あるレストランはたいてい、
2月とか6月とかという、
あまり忙しくない時期を選んで開店をする。
それをワザワザ、忙しい12月のようなときに
開店をしてしまう店。
そんなときにいけば、
てんやわんやの渦中でどうしようもないイライラを
ご馳走になって帰ってくるのが落ち‥‥、であります。
避けましょう。

もう開店して何年もたっているレストラン。
初めてなのはお客様であるワタシ‥‥、
であって、だから12月に行っても大丈夫でしょう。
そういうあなた。
ちょっと考え直してみませんか?

12月という時期。
通常のときとは違う営業をするお店がほとんどです。
年末、あるいはクリスマスの特別メニューを用意する。
料理も違えばサービスだって
いつもと違って濃密であったり、
あるいは忙しすぎるがあまり、
事務的でそっけないモノになってしまっていたり。
常連のお客様であれば、
12月だから仕方ないよねぇ‥‥、と割り引いて
贔屓目に見ることができるコトが、
初めての目には気になって仕方がないようなことがある。
すばらしいレストランのあるがままの姿を見ないで、
初めてのレストランのことを判断してしまうコト。
あまりに悲しい。
あまりに勿体無いコトでしょう。

レストランの営業のあり方が特別なだけでなく、
レストランにやってくるお客様の雰囲気、装い、
雰囲気もやはり12月というときは特別です。
いつもはやってこないようなお客様が
たくさん押し寄せて、
思っていた雰囲気じゃないのね‥‥、コノ店。
なんて失望を味わってしまうコトさえある。
12月というのはいろんな意味で
レストランにとって特別な月なのです。

だから「初めての訪問」の日にちを
12月で選ぶことも、
なるべく避けた方が良いのです。

ボクにとっての12月。
それは今年お世話になったおなじみのお店を、
丁寧に歩いて回る1ヶ月。
いつもの感謝をレストランにとどけたついでに、
人間関係を確認するためのよい機会‥‥、なのであります。
お歳暮がわりに笑顔と、
いつもよりちょっと余分の予算の入った財布を持って、
ご挨拶かたがたレストランのドアを開けに行く。
そんなつもりの1ヶ月です。

奇跡的なる人間関係作りが出来る12月。
ただ、いくつかの例外があります。
要注意。

宴会でにぎやかになりすぎてしまう、
居酒屋であるとか大衆的な大型和食レストラン。
そうしたお店はこの時期、少々、忙しすぎる。
宴会シーズンではない時期まで、
訪れるチャンスを先送りしてあげましょう。
でないと、せっかく、
好きになるだけの価値のあるレストランを、
みすみす見逃してしまうことになったりします。

そうしたお店に行くのならば、1月の後半。
あるいは5月の終わりから6月にかけて。
どちらも宴会とかパーティーとかが極端に少なくなって、
その分、一般のお客様にやさしくなる季節です。
 
2006-12-21-THU