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挨拶をおざなりにする、
ココロの伴わない、
ただ元気なだけの掛け声をかけて
満足しているような寿司屋を、
ボクは信じないことにしています。
どんなにそのお店がおいしくても、
どんなにそのお店が有名であっても、
好きになることができないんですね。
好きでもないお店のおなじみになっても仕方ない。
仕方ないことです。
お寿司屋さんの中には、様々な挨拶のきっかけがあります。
お店にお客様をお迎えしたときの挨拶。
お客様をお見送りするときの挨拶。
お客様からの注文をちょうだいしたときの、
「しょうちしました」という言葉もやはり挨拶。
ありがとうございました。
お待たせしました。
みんな挨拶。
これらを外食産業のサービス教育の専門用語的に言えば
「接客用語」というコトになります。
でも、レストランの人たちはなるべく
接客用語で仕事をした気になるのはやめましょう。
と、そういいながらがんばっている。
ひとりひとりの言葉で、
お客様との人間関係を大切にしながらサービスしましょう。
作業のついでに発する言葉は接客用語。
作業をとめて、お客様の目を見ながら
発する言葉がご挨拶。
接客用語では人間関係はつくれないけど、
挨拶を繰り返せばかならず心は伝わるでしょう。
だから、作業をしながら挨拶するのは
なるべく控えるようにしましょうね。
そう外食産業の人たちは一生懸命がんばっているんですネ。
挨拶をするのに、手を止めない。
何かをしながらついでに挨拶をしていくようなお店が、
お客様にとって快適な店ではない、
というのは寿司屋さんだけでなく、
どんなレストランにも言えること。
‥‥、であろうと思います。
ところで。
寿司屋の中には言葉をともなわない挨拶もあります。
あなたの担当の握り手が、寿司を一つにぎり終えます。
それでその出来上がったばかりの寿司を、
手を伸ばしてあなたの前にストンと置く。
丁寧に、そっと寿司をおいて、
手を離しながらあなたの目をみて、ニコッとする。
お待たせいたしました‥‥、の代わりです。
ニコッとされたあなたは、
その握り手の目を見てニコッと笑顔をおくりかえして、
寿司をつまんでパクリとやります。
ありがとう、いただきます‥‥、
というこれまた挨拶の代わりです。
言葉を使わぬココロとココロの会話。
つまり、アイコンコンタクトというあいさつです。
キビキビと寿司を次々握り続けるのに忙しい、寿司職人。
口を動かすよりも手を動かすことに
一生懸命な人たちで満たされている
寿司屋のカウンターの中ほど、
爽快でステキな場所はありません。
口をしゃべることよりも
握りたての寿司を食べることに使って
忙しいお客様で満たされている、
寿司屋のカウンターというのも
壮観ですばらしい場所でしょう。
そうしたカウンターの外と中をつないでいるのが、
アイコンタクトという挨拶。
すてきでしょう?
食事を終えてお店を出るときもそう。
お客様がお店に出られるときに、
お客様の代わりに引き戸を開けて、
ありがとうございましたとお見送り。
お客様の姿がみえなくなるまで、
お店の外でずっとお見送りをする‥‥、というのが、
最近の良いサービスの代名詞、
のように言われることがあります。
でも、寿司屋というレストラン。
特別なサービス係を持たないという点でも
特徴のある飲食店で、
つまりほとんどすべての人が作り手でもあり
サービススタッフでもあるのです。
サービスでおもてなしする、というよりも、
料理でおもてなしするレストラン‥‥、
とでもいえばいいでしょうか?
ですから、お客様をずっとお見送り、
というようなことはなかなか出来ない。
でも彼らはそれでも一生懸命、
ありがとうございますの気持ちを
お客様にとどける努力をするんですネ。
お腹一杯。
お勘定を終わってテーブルを立つ。
満足げなあなたの表情を確認するように、
お店の人たちは作業をする手を止めて、
ありがとうございました‥‥、とひとこと、言う。
ほんの一瞬。
たったその一言分の一瞬でありますけれど、
あなたはそのとき、お店の人のすべてのサービスを
一身に集めているのです。
おごちそうさま。
ハキハキ、はっきりそういいましょう。
そしてニッコリ。
飛び切りの笑顔がお店の人に伝わったのを確認したなら、
もう長居は無用です。
そうそうと、さっそうと、お店を出る。
カウンターの中は、もう次の作業のために動き始めます。
ひとりひとりの手の中には、
次の寿司を作るためのシャリやネタが仕込まれていて、
華麗な手際で次々、料理が出来始めている。
とはいえ、あなたが完全に店を出るまで、
お見送りの気配はそのお店の中に漂ってるでしょう。
扉を開けます。
外に出ながら、ためしにそっと振り返って
お店の中を見てみましょう。
カウンターの中の、
あなたに一番近くにたっているお店の人が、
にこやかな笑顔をたたえてあなたのことを
見つめてくれているのに気がつく。
後ろ髪ひかれるようなそんな気持ちで扉を閉める。
それと同時に、またこなきゃ‥‥、
とそんなシアワセな気分をもらって
お店を後にすることになる。
よかったねぇ‥‥。
また今度、日本にきたら連れてきてくれるかなぁ‥‥。
そういわれたらその会食は完璧以上の成功でしょう。
また来週。 |
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