大体にして若い頃、というのは、
格好をつけたい時期であります。
しかもボクが誰が見ても正真正銘、若者と言えた時代。
日本は古い日本と、新しい日本が対立するように、
でも混在していた時期でもありました。
古い日本をかっこ悪いと言い放つことが、若いということ。
ではあたらしいものはどこにあるのか?
というと、それがたとえばアメリカであるとか
ヨーロッパであるとか、
外国のさまざまなライフスタイルを真似ることが
あたらしいコトである。
のような、そんな不思議がまかり通っていた。
そんなところにちょっと海外の生活を齧った
生意気な奴が帰ってきた、のであります。
まるでボクは水を得た魚のような、
そんな勢いで、日本の古いさまざまをバッサバッサと、
切り捨ててゆく。
痛快でありました。
先輩たちはこういいます。
昔の日本にもいいところがあるんだから‥‥。
でもボクはこう切り替えします。
ボクはこれからの新しい日本を作ってゆく
立場にあるんだから。
古いものに心を奪われている暇なんかないんですよ。
‥‥、と。
なんたる生意気。
今、思い返すと、
ああ、友達にしたくないタイプのやな奴だったなぁ‥‥、
と自己反省をしてしまう。
そんな生意気。
特にお酒を飲むその飲み方。
オールドジャパニーズスタイルに対しては一刀両断‥‥、
でありました。
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ボトルキープという習慣。
これほどの日本独特の習慣は、
他の食習慣をみわたしてもなかなかない。
お酒をお店に預けるのであります。
一本、丸ごと。
それからしばらく、
そのお店に行って飲むべきお酒はそれ一種類。
しかも永遠にそのお酒を預かってくれるか‥‥、
というと、期限がある。
ある一定期限で、それを飲み切ることができなかったら、
没収であります。
なんたる理不尽。
自分で自分の首をしめるようなコトを、
なぜ人は喜んでするんだろう。
この世には一生かかっても飲みきれないほどの
種類のお酒があるというのに、
その一本の瓶を買ったばかりに、
それからしばらく、そればかり。
なんたる退屈。
なんたる堕落。
ひとつのお酒に縛り付けられる‥‥、というだけじゃない。
よしんば、そのお酒が好きで仕方なくって、
そのお酒とならば心中をしても惜しくない。
そんな運命のお酒に出会ったとしても、
そのお酒をただ一軒のお店でしか飲めぬとしたら‥‥。
なんたる切なさ。
なんたる悪夢。
東京という街ひとつとっても、
ボクを待ってくれているであろうバーが星のごとあり、
だからひとつのお店だけを特別扱いするようなこと。
なかなかできる相談じゃなかったりもした。
島国根性‥‥。
あたらしいものに挑戦しようとなかなかしない、
ジメジメとした人間関係に縛られがちな、
古い日本の弱い部分の集大成のような、このシステム。
ボクはその頃、どうにもこうにも嫌いだったのでありました。
ひとつのお店に縛り付けられるような重たさがある。
縛り付ける見返りに、
次からはちょっと得になるという世知辛さ。
いやだった。
しかもボトルキープというシステムをとっているお店の種類。
居酒屋。
スナック。
スタンドバーと、あまりかっこいいとは
当時のボクには思えぬ店がほとんどでした。
そこでボトルキープができるお酒の種類も、それほどはない。
2、3種類のお酒の中から、
自分の予算にあうものを選ぶ程度の選択肢しかなく、
だからズラリとお店の棚に同じお酒の瓶が並ぶ。
自分が飲むべきお酒を、
他のお酒と区別する唯一無二の方法は、
ボトルの首からぶら下がっているネームプレート。
ただ、それだけ。
まるで同じようなスーツを着込んで、
目立たぬように周囲に溶け込み生きてゆく、
日本のサラリーマンの美徳を
棚に飾ったようなその切なさ。
個性的に生きること。
他の人と、違った自分に自信をもとう、
とそう思っていた当時のボクには、
耐え難い無個性で、でもそうした店でボクの先輩や同僚が、
たのしそうに酒を飲む。
オレの酒が待っていてくれる、って思うと、
仕事にハリが出るんだよな。
といいながら、自分の名札がぶら下がった
ウィスキーで水割りを作って飲ませてくれる、
大学卒業2年目にしてパパになった同級生の、
シアワセそうな横顔が、
なんだかとても癪に思えてますます
そうしたお店が嫌いになる。
まあ、ひねくれモノであったわけです。
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好きな店にふらっと行って、
飲みたいものを飲んでキッパリ帰る。
しかもこんな飲み方にこだわってました。
バーに座って、まず一杯目は自分の飲みたい何かを
作ってもらう。
そして飲む。
二杯目には、お店の人に何か一杯。
おすすめのモノを作ってもらい、それをたのしむ。
それが自分のまだ飲んだことのない
新しいカクテルであったとすれば、
それがどんなモノであるのか、バーテンダーの話を聞く。
運よく見知ったお酒であったとするならば、
なぜそれをボクのために作ってくれたの?
なんて、ことを聞いてみる。
どちらにしてもお店の人とのコミュニケーションの
きっかけができ、たのしく時間をすごせる工夫。
そしてそれでもまだ懐具合とおなかの具合が許すなら、
こうお願いをする。
一杯目とも二杯目とも、
まったく趣の異なるもう一杯を
作っていただけないでしょうか?
一軒の店を三通りにたのしむ贅沢。
これこそ酒が好きなオトコのすることだよなぁ‥‥、
みたいな感じで悦にいってた。
一方、食事と一緒に飲むモノといえば、
ワインが基本で、つまり飲み切り。
一本抜いてゴクッと飲んで、
あまったところでそれはお店の人で飲んでください。
‥‥、とその潔さを良しとした。
そんな生意気なサカキシンイチロウの20世紀‥‥、
であったのです。 |