おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。
(四冊目のノート)

さて、3時間ほどの晩餐のあと。
お店からほとんどのお客様がお店から姿を消した頃合で、
ボクはマダムにお詫びかたがた、聞いてみました。

お店のみなさんに喜んでいただこうと、思ったことで、
逆にご迷惑をかけてしまったみたいで、ごめんなさい。
もし、何かお土産をもってくるとしたら、
どんなものがいいんでしょうか?

そう聞いてみたのです。
答えは簡単。

レストランで売っているモノや、
仕入れられるモノを持ってくるのは賢くないわね。
ワタシたちは、サカキさんより
食材を仕入れるコトには慣れている。
知識もあるし、良い物を仕入れるルートも持っているから。

できればワタシたちが欲しくて、
でもなかなか手に入れることが出来ないものを
お土産にいただけるとうれしいわ。

素敵なレストランのお話。
どこかで食べた、おいしかったお料理や食材のお話。
なにしろ、ワタシたちは他のレストランが
にぎわっているときには、
こうして働いていなくちゃいけないから。
ワタシたちがどんなに仕入れようと思っても、
それは仕入れるわけにはいかないでしょう?
それに、多分、サカキさんの方が仕入れ上手だと思うもの。
楽しい話。

なるほど、納得。
したたか、反省。

閉店間際。
ご主人のシェフが厨房の中から、出てきます。
ワイン片手にくつろいで、
片手に透明のガラスのジャーをひとつもって、
ニコニコしながらボクのテーブルにやってくる。

テーブルの上にそのジャーをストン。
中にはホワイトアスパラガスがギッシリ詰まってました。

これ、サカキさんからもらったホワイトアスパラガス。
とても元気で若いアスパラだったから、
ピクルスでも作ってみようと思ってネ。
いただいたお礼のおすそ分け。
まだ作ったばかりだから、
あさってあたりが一番おいしくなると思うよ。
ちょっと我慢してネ‥‥、って。

それと一緒に、厨房の中から一皿とどく。
ホワイトアスパラガスを茹でてさまして、
それにアンチョビマヨネーズをトロンと垂らした前菜風。
それをつまみに、ワインを飲んで、
みんなでいろんな話をはじめる。
今まで食べた中で一番おいしかったパスタの話。
次のシーズン、作りたくてうずうずしている
秋の料理のおいしい話。
ボクがこの前行った、出来たばかりの
イタリアンレストランで感じたさまざま。
いろんな話で、夜中近くまで盛り上がる。

で、そのとき飲んだワインがとてつもなくおいしくて、
これ、高いんですか?
って、何気なく聞いたのですね。

シェフが言う。

いや、これはイタリアでは
そこそこ知れたワインなんだけど、
日本ではまだ引き受け先があんまりなくてね。
だからワザワザ、取り寄せてもらってるの。
来月、何ケースか届くはずなんだけど、
なんだったら一箱、お譲りしましょうか?

‥‥って。

値段を聞くと、確かにビックリするほど安く、それで一箱。
譲ってもらって、それはそのまま
お店のセラーにおいてもらった。
ボトルキープならぬ、ケースキープでありますね。

究極の友達付き合いをさせてもらった、そのきっかけが、
ちょっと恥ずかしい失敗だったというこの話。
もう10年以上も前のことであります。
なつかしい。

今でもそのお店の人たちとは、よい、お付き合い。
素敵なお店やたのしい料理をどこかで見つけると、
あの人たちに会いに行かなきゃ、
ってそんな具合に思ったりする。
ときおり、野菜があまったから、持って行く‥‥、とか、
すばらしいチーズが手に入りそうなんだけど、
一緒に買わない? とかって、誘ってくれて、
そのたび、恐縮したりする。
お礼に、情報ばかりじゃ申し訳ない。
それで、海苔であったり、
沖縄でもなかなか取れない黒糖だったり。
イタリアンレストランでは絶対仕入れて、
使いそうにない、おいしいものを見つけて、
おすそわけする、そんな関係。

お互いの役に立とうと思う関係。
それが長続きする、素敵な友達関係なんだなぁ‥‥。
って、そんな具合に思ったりするのであります。
いかがでしょう。

 
2007-09-27-THU