第1回
僕は電車好きなのです。
「電車でGO!」という曲
(ハルメンズ1980、
COPYRIGHT KENZO SAEKI)
を作って歌ってしまったほどです。
(その件はまた回をあらため)
僕の家は生まれた時から総武線沿い(本八幡駅)にあり、
車窓から見えます。
ベランダで、チンポを回転させていると、
通勤している人に丸見えです。
電車の音(ガタンゴトン)を子守歌に育ちました。
だから、本八幡から秋葉原まで、目をつむって
乗っていても、ガタンゴトン、シャー、の音の
聞こえぐあいで、どこの駅の間にいるかわかります。
そんな総武線に乗って毎日東京にいっているわけですが、
そんな毎日についてこれから書いていきます。
まずは昨日起こった
「日本風土と節約貧乏性および、
法律の壁について」事件
について。 です。
昨日は総武線ではなく、
我が本八幡駅が始発の都営新宿線に乗ろうと
切符を買おうとしていました。
すると、いきなり総武線方向に歩いていくババアが
胸倉をつかむようによってきたのです。
俺なんかしたかな。お風呂あがりで、背中ふけてないかな。
すると 「あんたドコへいくの!」というのです。
「人がどこへいこうと勝手だろう」とも思いましたが、
こんなババアとケンカしててもしょうがないので、
「いや、神保町まで行こうと思ってるんです」
と答えました。すると
「もうお切符は買ったか?」と言うのです。
ハハア、マチガっていらない切符買っちゃったかな?
駅員にいえば金に変えてくれるのに。
と思いつつも、まあ、ちょっと安く買えればイイや。と
「ああ、いや、まだです」
と答えたのです。
すると、なんとそのババアいや、おばあさんは、
僕の手に、孫にお年玉をつかますように手を引き寄せ、
「これで何でも乗れる! 都営線乗り放題じゃ。
良かったら、使って下され。
わたしゃ、あんまりまだ、のっちょらんのじゃ。」
と都営交通一日乗り放題カードをつかませるのです。
「いや、こんな事をしてもらっては・・・」
よくよく考えてみれば、ああいうカードは買った人、
本人が使えるだけで、他人譲渡は無効なのだ。
しかも、飲みかけの酒じゃあるまいし、
乗ろうが乗るまいが、カードにはなんの関係もない。
そんな事とっさで浮かばない。
ババアの希望に答えるしかない。
しかし我々がいるのは駅員も見える改札の側だ。
「じゃあ、わかりました、
二百円ぐらいでも払わせてください。」
すると、ババア、いやおばあさまは、
得意そうに満面に笑みをうかべ、二百円つかんだ僕の手を、
トラクターでも押せそうな猛烈な力で
「いや、そんなのイランイラン、そんなつもりじゃない」
と押し戻し、
「地下鉄だけじゃなく都営バスかて、都電かて乗り放題!」
と叫びながら、総武線方向に去ってしまった。
考えてみれば、金銭授受したら、
駅員もとんできたかもしれない。
ババア、いやおばあさんの貧乏性な親ごころが、
その時になって体にしみてきた。
単にカードをあまり使ってなかったので
しゃくにさわっただけかもしれん。
しかし、その節約本能こそが、親心に疑似している。
なんか 親戚んちにいったみたいな感じなのだ。
ババア、いやおばあさまの貧乏性は、土の香りがしている。
やけに懐かしい。
ちょっと 落花生臭い千葉の香りだ。
不正乗車のカードで神保町に向かいつつ、
国土を支えてきた貧乏性の香りをプラスチックのカードに
クンクンと嗅いだ。
(1998/7/27)