MUSIC
虚実1:99
総武線猿紀行

第8回
「両国でL-1を見る」

僕は女子プロレスが好きなのです。
男子プロレスはあまり見ないのですが、
女子プロレスなら見るのです。

女の人が戦っている姿ってスゴイ。
技と技のかけあいの間にも、なんともいえない情念が
リング上をメラメラとかけぬけているようで、
目が離せません。
もちろんプロレスですから、
ロープに投げられて返ってくるなどの
お約束事もたくさんあるのですが、
それらの様式美が隠れてしまうぐらいのメラメラが
リングを覆っているのです。

さて、今回行くのはあの、
女子プロレス界で最も「男らしい女」と呼ばれている
神取忍選手が中心になって行われる「L-1」です。
男子のK-1に対抗して作られた大会で、
やはり、ほとんどノールールで
世界中からいろいろな分野の格闘技選手を集めて、
女子プロレスの選手と勝敗を競うというものです。

前回は3年前に行われました。
仕事でかなり遅れて、駒沢体育館についてみると、
外にはほとんど誰もいません。
実は遅れて行ったので、
ダフ屋から買おうと思っていたのです。
試合が始まってからのダフチケットは、
恐ろしいほど下がっていきます。コンサートでは、
始まる前は2万円したステージ前のチケットが、
2曲めの頃には1万円、5曲めのころには定価より安い
5000円に下がったりします。

ところが、この日はダフ屋のような人はいない。
女子プロレスにしては品の良い駒沢という土地に
気を遣っているのか、怪しいサングラスの人はいません。
それでも一応探してみようと、小さな声で
「あ〜〜、ダフ屋さんってひょっとしたら
何処かにいないかなあ」と小声でつぶやいてみました。

すると、入り口のところで、
大会関係者と思われる銀ぶちメガネの眼光鋭いお兄さんが、
ギラ!!! とこちらをにらみつけました。
「いや、ダフ屋さんはたいへんたいへん」と
わけのわからないゴマカシひとりごとをつぶやきながら、
しょうがないので当日チケットを買いました。
8000円。た・た・たけえ。
しかし、リングサイドから10列めぐらい。
だから悔いなし。

さあ、早くみなくては、と入っていくと、
休憩なのか、みんながドヤドヤ中から出てくる。
「サエキく〜〜ん、信じらんない!、今頃きたのお。」
と女性の女子プロレス友達たち。
なんと、トーナメントで繰り広げられた大会は、
神取選手が戦う決勝戦あと1試合を残すだけだったのです。
僕は1時間30分遅刻したのですが、
通常の女子プロレス試合だと、3割ぐらいが終わるころで、
どんなに早い試合でも、はんぶん終わる
という時間ではありません。
ところが、今日はL-1。
全く違う試合展開だったらしいのです。

ザワザワと席につくと、たしかにリングに近い近い。
八角形のリングには
2メートルほどの高さの金網がしつらえてあり、
その虫かごのようなところに
選手が2人ほうり込まれて戦うのです。
今日もだれよりも男らしく顎を突き出す
神取選手の入場に続き現れたのは、
ロシアの柔道家グンダレンコ・スベトラーナ。
体重120kgはあると思われる巨漢で、
神取選手のざっと2倍はあります。
チーン! いけ!
女子プロレス戦では見られない殺気がリング上を覆います。

しかし、30秒ほど経って揉み合ったあと、
神取はすぐに組み伏せられ、寝技に入ってしまいました。
み・み・み・見えない!
そうなのです。席が前の方なのは良いのですが、
寝技に入ってしまうと、
1メートルほど高く設営してあるリング上の向こう側は
ほとんど見えなくなるのです。
前の方ほど見えにくいのです。
しょうがないから、僕の後ろ側にある
液晶ビジョンに映し出される2人を見るしかありません。
これじゃあ、なんのために8000円出したのかわからない。
周りの他の人もみんなブツブツいいながら
後ろ向きになってスクリーンを見つめています。

2人とも全く動こうとしません。
2分30秒が経過したぐらいでしょうか。
「カンカンカンカ〜〜〜ン!」
という鐘の音が突然響き渡りました。
神取選手がギヴアップしたのです。
うわあ!
僕はたった30秒の生リングを見るために
8000円払ったのかあ!
どうりで試合が早くすすんだわけです。
一試合あたりの時間はどれも5分以内だったのです。
そんな思いをしながらも、またL-1に行こうと思ったのは、
総武線に乗ってすぐに着く
両国国技館で大会が開かれることになったからです。
(つづく)

1998-10-27-TUE

BACK
戻る