第9回
「両国でL-1を見る(その2)」
両国国技館で見るのが好きな理由は、
総武線最寄りであることの他に、
マス席があることにもよる。
たいていの場合、
マス席に4人ぶちこまれるようなことはないので、
あのフェリーの二等席のような布張りの席で
ノビノビとできるのである。
万が一満員で、
あの枠のなかに4人詰め込まれたら大変である。
だから、混みそうな試合はいかないのである。
背もたれもない平面の席は、
同じ姿勢で3時間以上はつらい。
満員の相撲鑑賞はじつに大変である。
マス席は前の畳の時よりは広くなった気もするが
まだまだ狭い。
布張りフロアが固いので、座布団持参が正解だが、
いつも忘れてしまう。
その代わり、会場で買うことはできない
大好物の赤ワインを紙コップといっしょに買っていく。
いやあ、ビールやワイン片手の格闘技鑑賞ほど
素晴らしいものはない。
女が戦い、男がそれを肴に酒を飲む。
極楽である。
さて、国技館ならダフ屋が出ているだろうと思い、
15時開演のところを15時20分につくと、
案の定、会場前には数人のおなじみの
汚れたジャンパー姿の男たち。
売れ行きが悪いらしく
ヤケクソぎみに「券あるよ券あるよ」。
前の2人組の男客たちが交渉しており、
「もういいよ、リングサイド半額の4000円ずつで」
という声が、ヤニだらけの口もとから漏れる。
「あのう、僕も下さい」と僕もいった。
1万円を出すと、「オツリオツリ」と
100メートル向こうで売ってる若造に合図。
「あっちで受け取ってくれ」といわれて、
若造のところに行くと、オツリに3000円渡される。
「エ! 4000円で1万円だから6000円のオツリだよ」
と思わず抗議すると、
チェ! という感じでもう3000円くれる。
全く油断もスキもないよ、この人たちは。
入場口に歩いていくと、後ろのほうから
「2000円でいいよ!」という声が聞こえてくる。
入場すると、まずグッズ売り場。
ここでプログラムを買う。
今日は1000円だが、
女子プロのプログラムは2000円以上することが多い。
高いのだが、試合内容などを確認して、
十分に楽しむためには、必ず必要なのである。
家で過去を振り返って色々思い出すためにもかかせない。
リーズナブルなグッズなのである。
ケチをして、隣の人や友人に見せてもらったりすると、
思わず熟読したくなり、
結局フラストレーションがたまり、健康に良くない。
タレント活動の多い神取らしく、おびただしい花輪の数。
正面には大槻ケンヂの花輪。
会場に入ると、もうすでに2試合めが終わった瞬間だった。
開始後約20分で2試合。
さすがL-1は今回も試合が早い。
通常の女子プロレスでは考えられないことである。
まあ、前座的な試合なので動揺はない。
席は案の定、すいており、
4人1組のマス席を一人で陣取る。
マス席としては前の方で、すごくイイ席だ。
ダフ屋、ありがとう。
正確には隣の人たちと相席だったのだが、
隣が空いていたので、そっちに陣取ったのだ。
遅れて行くと、その辺の判断もスムースにできてよい。
今さら人が来る可能性はまず無いからだ。
第3試合は神取の所属するLLPWの新人・八木淳子と
オランダの極真空手黒帯フローア・ホルマン。
フローアは本日最高のベビーフェイス顔で可愛いが、
たれ目の八木は写真ほど可愛くない。
顔はともかく、早い展開で押さえ込んで八木の勝ち。
動かない。寝技だ。
K-1との違いは押さえ込んだ時に、
下になった人間が殴りかえしたりしないこと。
女子は体力的にそういう攻撃が不可能らしい。
今回も、全く展開がない。
今日も、ただうずくまってるだけの、
伊豆バナナワニ園のワニたちのような試合を
見せられるのか。
まあ、良い。
第4試合はLLPWのキツネのような顔をした
小柄な沖野小百合と
テコンドーの韓国女子格闘家、リー・ウンジャ。
慰安婦問題など、なにかと日本と歴史的因縁の深い韓国だ。
これは燃える。
開始と共に、リーが猛然といどみかかり、
バシっとものすごい音をたてて、
ケリが沖野のケツ左側にヒット。
おおお! 素晴らしい!
日本の女性からは失われたといわれる、
今ではいかにも韓国女性の専売特許といえる
「貞操感がある生真面目さ」を匂わせるリー。
そんな彼女の切実なキックがマブしい。
こんな奥さんに、浮気を見つかったら即死だろう。
因縁を高らかに歌うこのワンヒット、
この瞬間に僕は本日払った4000円のうち
2000円は元をとったと認識した。
いや実際は、もうこれ以上、
戦いらしい戦いの展開は起こらないだろうという予想から、
僕の経済本能が逆算した結果の認識ともいえる。
素晴らしいキックを1本だけいれたリーは、
さっさと沖野に押さえ込まれ、
二人はリングにうずくまった。
ほとんど動かない。
リングの向こう側によっているので、
こちらの席からはあまり見えない。
動かなくなって2分。
タオルがリーのセコンドより投げ込まれる。
リーの負け。やっぱり今日もL-1だ。
試合の合間の休憩は、30秒ほどの車のCMが映し出され、
その同じCMが、何10回もリピートされ、
耳について気が狂いそうになる。
隣のオッサンが話しかけてきた。
「午後1時開場でさあ、すぐに入ったんだけど、
なんにもセレモニーとかねえんだよ。
ガッカリしたあ。つまんねえよ」という。
そういえば、K-1はたしか鈴木あみさんかリングが
歌を歌って盛り上がったのだと思うが、
そういう蛇足みたいなイベントも、
けっこう楽しみにしてるファンが多いのかもしれない。
'95年に有明コロシアムでやったJWPの大会の時は、
千葉麗子の新曲のノボリを持ったプロモーションマンが
リングの周りをかけめぐったのだが、
そんなのでも、無いよりはおもしろい。
女子プロレスファンには、
ロックファンや歌謡ファンも多いのだから、
レコード会社もなにかやったほうがいい。
経済企画庁長官になった堺屋太一は、
元JWPの尾崎魔弓の深刻なほどのファンで、
色々な噂もとびかったが、
そういう人がなにかやってもおもしろい。
公的資金導入を会場でアピールしたりして。
(この話またまたつづく)