シリコンの谷は、いま。 雑誌の記事とはずいぶんちがうみたいです。 |
第33回 オープンソースって、ネット企業にとって 良いことですか、悪いことですか? 「オープンソース」という言葉はご存知ですか? ここ数年、日本でも新聞に登場する言葉に なってきているような気がします。 「Linux(リナックス)」についての解説などで 知った人も多いのではないでしょうか。 今回はこの「オープンソース」という考え方が、 シリコンバレーのネット企業でどのように 活用されているかという話を書いてみようと思います。 僕たちがインターネットを使ったサービスを 開発するときには、コンピューターを動かすための ソフトウェアを作るのですが、そのソフトウェアは、 人間でも読めるプログラミング言語を使って書きます。 これをコンピューターが理解できる形に変換して 実際のコンピューターで使います。 この、人間が理解できるものを 「ソースコード」といい、 コンピューターが理解できるものを 「バイナリ形式」などと言ったりします。 バイナリ形式のソフトは、 人間には理解することができません。 ついこの間まで、ソフトウェア産業というのは、 みんなが使いそうなソフトを開発して、 それを売るというものがほとんどでした。 コンピューターでそのソフトを動かすだけなら、 このバイナリ形式だけあればよく、 人間が読めるソースコードを買った人に 渡す必要はありません。むしろ、 そのソフトがどういう風に作られているのかが 分かってしまうソースコードは、大切な企業秘密で、 ソフトを使うユーザーには それを見せたくないというのが常識でした。 この常識を覆す考えがオープンソースです。 オープンソースは文字通り、ソフトを使う人に ソフトがどのように作られているが書かれた ソースコードを公開してしまうというやり方です。 もともとは、大学や個人など、 ソフトを売って商売をする必要のない人たちが 始めた方法ですが、これがネット企業にとっても 無くてはならないものになっています。 シリコンバレーのネット企業ではこのオープンソースの ソフトウェアをかなり利用しています。むしろ、 ソースコードを公開していない売り物のソフトウェアは なるべく使いたくないというのが実情です。 ネット企業がオープンソースのソフトウェアを使う 一番の理由は生産性を維持するためです。 どんなソフトウェアでも、 なかなか100%信頼することはできません。 それは売り物として売っているソフトも 例外ではなく、お金を払ったソフトウェアだから 品質が高いとも限らないのです。 こういった時、オープンソースのソフトウェアを 使っていれば、自分たちで問題を解決することが出来ます。 うまく動かない理由をソースコードを見ながら調べ、 どのように動いて不都合を起こすのか 突き止めれば良いのです。 これがソースコードの公開されていない ソフトウェアだったら、なぜちゃんと動かないかを 突き止めることはできず、 ほとんどお手上げの状態になってしまいます。 もし問題を突き止めても、問題を直すことができません。 出来ることといえば、 ソフトの開発元のユーザーサポートに電話をして、 問題を解決してもらうことになりますが、 問題解決に何日も何週間もかかってしまうこともあります。 自分たちが利用しているソフトウェアの不具合で、 自分たちの開発の仕事が何日も停滞してしまっては 困りますから、そういったリスクを避けるために、 ソースコードのついてこないソフトウェアを使うことは 必要最低限に留めます。 オープンソースのソフトウェアを使っていれば、 ソフトウェアの不具合を直すだけでなく、 自分たちの必要とする機能が もともとのソフトになければ、 そのソフトを改造して追加したりすることもあります。 言い換えれば、自分たちが利用するソフトウェアが どのように動作するのかをすべて把握することが 重要だということです。 ネット企業にとって、ソフトウェアは最も重要な 商売道具ですから、これを自分たちのコントロール下に 収めるというのは大変重要なことです。 ネット企業が、あるオープンソースのソフトウェアに 大きく依存している場合は、そのソフトウェアの開発者を 自社の社員として迎え入れることもあります。 僕などからすれば、 そういった開発者はスター選手のような存在で、 そういった人が同じ会社で働いていて、 直接話をする機会があるというのはとても嬉しいものです。 また、シリコンバレーにいる多くのエンジニアは 趣味としてソフトウェアの開発をしていることがあり、 オープンソースという考えに慣れ親しんでいます。 そのため、 「サポートの受けられないソフトウェアなど利用できない」 などといった頓珍漢なことをいう人もなく、 オープンソースという考えが、 経営陣を含めて深く浸透しているなと感じます。 ネット企業の場合、ソフトウェアを売って 商売をしているわけではなく、 ある商売をネット上で実現するために ソフトウェアを作り、活用しているので、 オープンソースのソフトウェアが発展することは 商売上困るわけではありません。 むしろ、オープンソースの運動が盛んになった方が メリットが大きいのです。 しかし、残念なことに、こうしてオープンソースの ソフトウェアを利用することで、 ネット企業は大変恩恵を受けているのに、 それらのソフトウェア開発に対して、 企業側から恩返しをするということが まだまだ足りていないように思います。 ネット企業こそ、オープンソース運動への 技術の還元ということを もっと積極的に行っていかなければいけない と思っています。 上田ガク |
2004-02-17-TUE
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