── |
しかし、あらためてなんですが
よく宇宙まで飛んでいくなあと思って。
あんな、おっきなロケットが‥‥。
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星出 |
信じられないですよね。
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── |
はじめてロケットの打ち上げを見たときは
「火山の爆発」か何かのような、
巨大な自然現象が起きてるみたいに感じました。
つまり、自分と同じ人間の「仕事」だとは
とうてい思えなくて。
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星出 |
私も、初めてこの目で実際に打ち上げを見たとき、
「絶対ウソ」だと思ってましたね。
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── |
いや、「絶対ウソ」って(笑)。
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星出 |
あんな重いものが飛ぶなんて、あり得ないって(笑)。
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── |
でも、ほんとそうですよね。
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星出 |
ロケット1機、組み立てるためには
何万という数の部品が必要なんです。
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── |
ええ、はい。
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星出 |
それらひとつひとつのパーツが
おのおの、自分の役割をきっちり果たしている。
そうじゃなかったら、ロケットは墜ちる。
そこまでの正確さ・精密さを求められるものを
人間はつくることができるんだと思うと‥‥。
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── |
ネジ1本、ゆるんでいてもダメなんですものね。
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星出 |
ですから「打ち上げが成功した」というのは
それぞれの担当者が
それこそ「ネジ一本」の厳密さで突き詰めて
きっちり自分の仕事を果たした、
その確かな証しなのだと思っています。
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── |
なるほど‥‥。
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星出 |
宇宙で初めて国際宇宙ステーション(ISS)を
見たときにも、同じように感じました。
こういう仕事をしていますから
「国際宇宙ステーション」という大きなものが
宇宙に浮いてるんだということは
当然知ってましたし、
それがどんなものなのか、どういう状態なのかも
熟知していました。
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エンデバー号から撮影された国際宇宙ステーション(ISS)。
写真提供:JAXA/NASA |
── |
ええ‥‥。
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星出 |
でも、スペースシャトルに乗って
宇宙へ飛んで行き、
大きなステーションがバッと目に入ったとき、
「‥‥マジで?」と。
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── |
「ホントにあったんだ!」と?(笑)
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星出 |
そうそう、まさしくそんな感じでした。
「人間って、あんなでっかいものを
つくっちゃうんだー‥‥」と。
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── |
それも「宇宙に」ですもんね。
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星出 |
なにか「畏れ」みたいな感覚に襲われて、
そのあと、すごく素直に
「人間って、捨てたもんじゃないなぁ」
と思ったのを、覚えています。
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── |
ずいぶん前なんですけど
NHKの番組で宇宙とかロケットについて
特集していたんですね。
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星出 |
ええ。
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── |
ぼくたち「宇宙のしろうと」からすると、
ロケットを飛ばすために
難しい数学の計算だとか
先端的な科学技術が駆使されているのを見て
「はー‥‥」と思ってたんですが。
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星出 |
はい。
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── |
実際にロケットを組み立てる場面で
「試行錯誤の結果、最終的には
このベテラン職人さんのハンダがカギでした」
と。
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星出 |
ああ、そうです、そうです。
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── |
いや、「そこ、カギですか!」‥‥と。
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星出 |
結局「最後は人間」なんですよね。
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── |
溶接なんかは
ハイテクな機械か何かでくっつけてるのだと
ふつうに思ってたので、
何万人という人員、数十億円ものお金、
ときには人命までかかっている
「ロケットの打ち上げ」という一大プロジェクトが、
最終的には
「人間の熟練の技術」に支えられている
という事実に、ものすごく感動しました。
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星出 |
本当に、そうですよね。
さっき話しに出た実験棟「きぼう」のハッチを
地上で最終的に閉めたとき、
「次、ここを開けるときは宇宙なんだ」って
思ったんです。
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── |
ええ、ええ。
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星出 |
で、実際に宇宙で「パカーン」と開けたときに
ものすごく感動しました。
名古屋の工場で
多くの人たちの「手」でつくられていたものが
「いまここ、宇宙にあるんだ!」って。
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── |
ものすごい実感‥‥なんでしょうね。
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星出 |
ロケットの打ち上げが
人間の「手」にかかっていることもそうですが、
宇宙空間でトラブルが起きたときも
やはり
「人と人とのつながり」や
「人間の判断」が肝心だと思っています。
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── |
コンピュータがプログラムで
トラブルを取り除く‥‥というよりは?
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星出 |
ええ、やはり、最終的に判断するのは
「人」だし「仲間」ですから。
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── |
あの‥‥映画の『アポロ13』でも
いろんな問題が次々と発生するわけですけど、
地上のクルーと交信をし続けて‥‥
最後は
「ガムテープ」とか「はげまし」とかで
帰ってきた感じですものね。
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星出 |
ははは、そうですね(笑)。
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── |
あれを見てたら
トム・ハンクスとケヴィン・ベーコンは
「地上」といっしょに
帰還したんだなぁって思いました。
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星出 |
やっぱり「宇宙に行こう!」と思っているのは
コンピュータじゃなくて人間ですし、
ロケットも
「人間の気持ち」が飛ばしているものですから。
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── |
なるほど。
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星出 |
宇宙空間では
「究極の判断」を求められる場合もあるわけです。
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── |
それは、重大な決断を下さなければならない場面?
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星出 |
はい、そうです。
で、そのときには
やっぱり「人間として」判断するんです。
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── |
自分が、人間として、どう決断するか。
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星出 |
コンピュータは便利ですし、頭もいいし、
頼りにもなりますし、
私たちが決断を下すための重要なデータを
提供してくれますけれどね。
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── |
なにか「重大な判断」をせざるをえない状況に
陥ったときって、
当然「独断」することはないと思うのですが‥‥。
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星出 |
はい、地上と交信して決定します。
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── |
でも、常に交信できるとも、限りませんよね?
通信装置が故障したとか、そんな理由で。
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星出 |
おっしゃるとおりです。
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── |
その場合って‥‥。
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星出 |
われわれが「軌道上の判断」を下します。
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── |
‥‥軌道上の判断。
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星出 |
宇宙では、各人の判断を迫られるという場面が
当然あるものと想定されています。
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── |
はい。
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星出 |
結局、地上では
その部分の訓練を積んでいるとも言えますし。
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── |
なるほど、なるほど。
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星出 |
私が名古屋でロケット開発に携わっていたのは
まだ「H2ロケット」の時代なんです。
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── |
いま、現役で飛んでいる
「Hー2A」「Hー2B」の一世代前の
機体ですよね。
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星出 |
開発には、本当にさまざまな苦労がありました。
当時、私はまだ新人でしたけれども
打ち上げのときは
ふだんは仕事にたいして一切の妥協を許さない、
厳しい先輩がたが‥‥泣いてたんです。
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── |
ああ‥‥。
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星出 |
「あの人が泣くだなんて、
想像できない!」
というような先輩が、泣いているわけです。
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── |
はい。
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星出 |
‥‥全員。
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── |
それほど、嬉しいことなんですね。
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星出 |
燃焼試験でエンジンが爆発したことが
あったんです。
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── |
え!
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星出 |
すべてを、点検し直しました。
打ち上げ自体も延期になったんですが
全員が自分の担当箇所を、もう一度。
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── |
‥‥ええ。
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星出 |
そういうような苦労があったからこそ、
打ち上げが成功した瞬間は
みんな、涙していたんだと思うんです。
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── |
種子島の打ち上げを
Ustreamで生中継したとき、
「主人がロケットの開発に関わっていて、
彼の頑張りを見ていると
ぜったいに成功してほしいし、
成功したら、私も泣いてしまうかもしれない」
という、
奥様からのメールが届いていました。
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星出 |
ああ‥‥わかります。
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── |
家族のかたでさえそうなんですから、
直接関係した人の嬉しさって、
ものすごいものなんだろうなって思いました。
なにしろ、ぼくたち「単なる見物人」も
見て泣くくらいですから。
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星出 |
先輩が言っていたのは
「ロケットが飛んでいく」
ということは
「自分の担当したパーツが飛んでいく」
ということなんだ、と。
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── |
はー‥‥。
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星出 |
エンジンの担当だったら、エンジンが。
人工衛星の担当なら、人工衛星が。
フェアリングの担当なら、フェアリングが。
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── |
ブースターに留められたネジをつくった
町工場の職人さんなら、そのネジが。
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星出 |
ですから、宇宙ってところには‥‥。
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── |
はい。
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星出 |
それぞれの「思い」が、飛んで行くんです。
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── |
星出さんたちと、いっしょに。
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星出 |
そう。
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宇宙へ飛んでいく「H-2B」2号機。
写真提供:JAXA |
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