シリーズ 2012年 宇宙へぴょん!  星出彰彦宇宙飛行士インタビュー on orbit! 地上400キロのチーム・プレイ。シリーズ 2012年 宇宙へぴょん!  星出彰彦宇宙飛行士インタビュー on orbit! 地上400キロのチーム・プレイ。
 



第2回  スペースシャトルはかっこいい。

── しかし、あらためてなんですが
よく宇宙まで飛んでいくなあと思って。

あんな、おっきなロケットが‥‥。
星出 信じられないですよね。
── はじめてロケットの打ち上げを見たときは
「火山の爆発」か何かのような、
巨大な自然現象が起きてるみたいに感じました。

つまり、自分と同じ人間の「仕事」だとは
とうてい思えなくて。
星出 私も、初めてこの目で実際に打ち上げを見たとき、
「絶対ウソ」だと思ってましたね。
── いや、「絶対ウソ」って(笑)。
星出 あんな重いものが飛ぶなんて、あり得ないって(笑)。
── でも、ほんとそうですよね。
星出 ロケット1機、組み立てるためには
何万という数の部品が必要なんです。
── ええ、はい。
星出 それらひとつひとつのパーツが
おのおの、自分の役割をきっちり果たしている。

そうじゃなかったら、ロケットは墜ちる。

そこまでの正確さ・精密さを求められるものを
人間はつくることができるんだと思うと‥‥。
── ネジ1本、ゆるんでいてもダメなんですものね。
星出 ですから「打ち上げが成功した」というのは
それぞれの担当者が
それこそ「ネジ一本」の厳密さで突き詰めて
きっちり自分の仕事を果たした、
その確かな証しなのだと思っています。
── なるほど‥‥。
星出 宇宙で初めて国際宇宙ステーション(ISS)を
見たときにも、同じように感じました。

こういう仕事をしていますから
「国際宇宙ステーション」という大きなものが
宇宙に浮いてるんだということは
当然知ってましたし、
それがどんなものなのか、どういう状態なのかも
熟知していました。

エンデバー号から撮影された国際宇宙ステーション(ISS)。
写真提供:JAXA/NASA
── ええ‥‥。
星出 でも、スペースシャトルに乗って
宇宙へ飛んで行き、
大きなステーションがバッと目に入ったとき、
「‥‥マジで?」と。
── 「ホントにあったんだ!」と?(笑)
星出 そうそう、まさしくそんな感じでした。

「人間って、あんなでっかいものを
 つくっちゃうんだー‥‥」と。
── それも「宇宙に」ですもんね。
星出 なにか「畏れ」みたいな感覚に襲われて、
そのあと、すごく素直に
「人間って、捨てたもんじゃないなぁ」
と思ったのを、覚えています。
── ずいぶん前なんですけど
NHKの番組で宇宙とかロケットについて
特集していたんですね。
星出 ええ。
── ぼくたち「宇宙のしろうと」からすると、
ロケットを飛ばすために
難しい数学の計算だとか
先端的な科学技術が駆使されているのを見て
「はー‥‥」と思ってたんですが。
星出 はい。
── 実際にロケットを組み立てる場面で
「試行錯誤の結果、最終的には
 このベテラン職人さんのハンダがカギでした」
と。
星出 ああ、そうです、そうです。
── いや、「そこ、カギですか!」‥‥と。
星出 結局「最後は人間」なんですよね。
── 溶接なんかは
ハイテクな機械か何かでくっつけてるのだと
ふつうに思ってたので、
何万人という人員、数十億円ものお金、
ときには人命までかかっている
「ロケットの打ち上げ」という一大プロジェクトが、
最終的には
「人間の熟練の技術」に支えられている
という事実に、ものすごく感動しました。
星出 本当に、そうですよね。

さっき話しに出た実験棟「きぼう」のハッチを
地上で最終的に閉めたとき、
「次、ここを開けるときは宇宙なんだ」って
思ったんです。
── ええ、ええ。
星出 で、実際に宇宙で「パカーン」と開けたときに
ものすごく感動しました。

名古屋の工場で
多くの人たちの「手」でつくられていたものが
「いまここ、宇宙にあるんだ!」って。
── ものすごい実感‥‥なんでしょうね。
星出 ロケットの打ち上げが
人間の「手」にかかっていることもそうですが、
宇宙空間でトラブルが起きたときも
やはり
「人と人とのつながり」や
「人間の判断」が肝心だと思っています。
── コンピュータがプログラムで
トラブルを取り除く‥‥というよりは?
星出 ええ、やはり、最終的に判断するのは
「人」だし「仲間」ですから。
── あの‥‥映画の『アポロ13』でも
いろんな問題が次々と発生するわけですけど、
地上のクルーと交信をし続けて‥‥
最後は
「ガムテープ」とか「はげまし」とかで
帰ってきた感じですものね。
星出 ははは、そうですね(笑)。
── あれを見てたら
トム・ハンクスとケヴィン・ベーコンは
「地上」といっしょに
帰還したんだなぁって思いました。
星出 やっぱり「宇宙に行こう!」と思っているのは
コンピュータじゃなくて人間ですし、
ロケットも
「人間の気持ち」が飛ばしているものですから。
── なるほど。
星出 宇宙空間では
「究極の判断」を求められる場合もあるわけです。
── それは、重大な決断を下さなければならない場面?
星出 はい、そうです。

で、そのときには
やっぱり「人間として」判断するんです。
── 自分が、人間として、どう決断するか。
星出 コンピュータは便利ですし、頭もいいし、
頼りにもなりますし、
私たちが決断を下すための重要なデータを
提供してくれますけれどね。
── なにか「重大な判断」をせざるをえない状況に
陥ったときって、
当然「独断」することはないと思うのですが‥‥。
星出 はい、地上と交信して決定します。
── でも、常に交信できるとも、限りませんよね?
通信装置が故障したとか、そんな理由で。
星出 おっしゃるとおりです。
── その場合って‥‥。
星出 われわれが「軌道上の判断」を下します。
── ‥‥軌道上の判断。
星出 宇宙では、各人の判断を迫られるという場面が
当然あるものと想定されています。
── はい。
星出 結局、地上では
その部分の訓練を積んでいるとも言えますし。
── なるほど、なるほど。
星出 私が名古屋でロケット開発に携わっていたのは
まだ「H2ロケット」の時代なんです。
── いま、現役で飛んでいる
「Hー2A」「Hー2B」の一世代前の
機体ですよね。
星出 開発には、本当にさまざまな苦労がありました。

当時、私はまだ新人でしたけれども
打ち上げのときは
ふだんは仕事にたいして一切の妥協を許さない、
厳しい先輩がたが‥‥泣いてたんです。
── ああ‥‥。
星出 「あの人が泣くだなんて、
 想像できない!」
というような先輩が、泣いているわけです。
── はい。
星出 ‥‥全員。
── それほど、嬉しいことなんですね。
星出 燃焼試験でエンジンが爆発したことが
あったんです。
── え!
星出 すべてを、点検し直しました。

打ち上げ自体も延期になったんですが
全員が自分の担当箇所を、もう一度。
── ‥‥ええ。
星出 そういうような苦労があったからこそ、
打ち上げが成功した瞬間は
みんな、涙していたんだと思うんです。
── 種子島の打ち上げを
Ustreamで生中継したとき、
「主人がロケットの開発に関わっていて、
 彼の頑張りを見ていると
 ぜったいに成功してほしいし、
 成功したら、私も泣いてしまうかもしれない」
という、
奥様からのメールが届いていました。
星出 ああ‥‥わかります。
── 家族のかたでさえそうなんですから、
直接関係した人の嬉しさって、
ものすごいものなんだろうなって思いました。

なにしろ、ぼくたち「単なる見物人」も
見て泣くくらいですから。
星出 先輩が言っていたのは
「ロケットが飛んでいく」
ということは
「自分の担当したパーツが飛んでいく」
ということなんだ、と。
── はー‥‥。
星出 エンジンの担当だったら、エンジンが。
人工衛星の担当なら、人工衛星が。
フェアリングの担当なら、フェアリングが。
── ブースターに留められたネジをつくった
町工場の職人さんなら、そのネジが。
星出 ですから、宇宙ってところには‥‥。
── はい。
星出 それぞれの「思い」が、飛んで行くんです。
── 星出さんたちと、いっしょに。
星出 そう。

宇宙へ飛んでいく「H-2B」2号機。
写真提供:JAXA
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2012-01-20-FRI