人の手でものづくりをしていく。デザイナー岡本菜穂さんと、この10年を振り返る 人の手でものづくりをしていく。デザイナー岡本菜穂さんと、この10年を振り返る
ジュエリーブランド《SIRI SIRI》とほぼ日がつくる、
スポットライトのようなジュエリー《HOBO SIRI SIRI》。

アコヤ貝がぐうぜんつくりだす、
美しいナチュラルグレーの真珠を使った
《HOBO SIRI SIRI Pearl Collection》でデビューし、
今年は10回目という節目のコレクションになります。

デザイナーの岡本菜穂さんの
研ぎ澄まされたデザインとあらたな挑戦。
幾度もものづくりを見つめ直しながら進んできた
HOBO SIRI SIRIの10年を、
長く担当する乗組員とともに振り返り、
最新のコレクションについてもご紹介します。
02

素材が持つ自然な美しさを引き出したい。
この10年で変化がある一方で、
ご自身の好みについても輪郭がハッキリしてきましたか?
岡本
基本的には、ロングライフデザインでありたいです。
1年で廃れてしまうようなデザインではなく、
時間や時代を経ても、
その魅力が色褪せないようなものづくりを
やりたいと明確に思うようになりました。



デザイナー特有の視点だとは思いますが、
“モノから応援される感覚”があります。
たとえば、照明がきれいなだけで、
その日一日が楽しくなる。
そういうものを私はデザインしたいですし、
自分がデザインによって生かされてきた経験を、
今度は自分の手で生み出したいと思っています。
写真
「こういうデザインが素敵」
「こんな素材を使ってみたい」と思っても、
つけてくれなかったら悲しいですよね。
なので、長く愛されるかどうか、という点で
厳しい審査が岡本さんのなかであると思うのですが、
ご自身の思い入れと違うところもありますか?
岡本
自分自身では長く愛されるデザイン
を意識して作っているのですが、
それが人気のない時もありますね。
かといって、浅はかなものは出したくないので、
奇をてらわないところの絶妙なバランスを考えて、
あとから後悔しないデザインをしたいですね。



私は形を作るのがすごく好きなので、
一つのジュエリーにつきラフも含めると
40、50くらいのスケッチがあります。
そんなにたくさん描かれるんですか。
岡本
きれいなスケッチではないですが、
アイデアスケッチのように
頭に思い浮かんだものを紙にいくつも描きます。
何日か日をおいて、見返して、また描いて‥‥
私しか解読できないような
微妙な角度違いのスケッチもありますが、
一つのアイテムを立体的に想像しながら
試行錯誤しています。
パールの場合だと「丸」という形が決まっていますが、
デザインする際にどんな難しさがありますか?
岡本
パールはだいたい8~9ミリのものを使っていて、
カットしたり手を加えて変形させたりしないので、
絶対的な一つのモジュールがあります。
なので、“その周り”をどうデザインしていくか、
ここに私の仕事が関わってきます。



ガラスの場合はゼロから、
形や角度も詳細に決められるので
考えるところが違いますね。
制約があるものをデザインするおもしろさは、
どういうところにありますか?
岡本
ゼロからデザインをすると、
自分の癖みたいなものが出やすくて
似たようなテイストになることがあります。
そういう意味で、制約がある方が、
自分が意図していない形になることはありますね。



あとは、素材のセレクトも
デザインのひとつになってきます。
無調色パールは色や形が少しずつ違うので、
こちらで希望を指定して
制作チームで一粒ずつパールを選んでいます。
写真
パールといえば真っ白で、
均一な円形をイメージしていたので、
無調色パールを見ていると
パールの個性を再認識します。
岡本
真っ白できれいなパールが
市場では選ばれやすいのですが、
そうではないものでも自然の中では平等です。
色や形が違うからといって、
価値が変わってしまうのはあまり好きではないので、
無調色パールを調理することに
関心が向くのかもしれません。



無調色パールをデザインするとき常に思っているのは、
持って生まれたなりの
素材が持つ自然な美しさを引き出したい
ということです。
そして、デザインのテクニックによって、
また違う表情を見せることができたらうれしいです。
技術を活かしたデザインをすることで、
あらたな価値が生まれる、というのは
ずっとやっていることだと思います。
無調色パールのよさは、
どのようなところにあると思いますか?
岡本
“無調色”というのがいいですよね。
ブルーグレーのような色味も好きですし、
手が加わっていない美しさに
惹かれるところがあります。
もしかすると人間の本能的なことで、
手づくり感があるフォルムに惹かれるんですよね。
自然による美しさというのは、
とうてい人間の手が届かないところなので、
だからこそ自然の美しさを活かしたいです。
宇和島の海の色を感じますよね。
写真
岡本
きれいでしたよね。
宇和島自体がとてもいいところだったので、
こういう場所で育ったパールなんだなと
知ることができてよかったです。
素材が持つ自然の美しさを引き出したい、
という点でどのようなパールを選ばれているのですか?
岡本
個人的にはどんなパールも
上手にデザインをしてお届けできるようにしています。
ただ、オンラインの販売だと伝え方も限られるので、
あまりにも個性が強いものは扱えません。
オンラインでは、ある程度色や形を揃えて、
たのしみ展など実際に見られる場所で
個性的なものを販売するなど、やり方を変えています。



ただ、すべてまったく同じパールだと
かしこまったムードのジュエリーになるので、
毎日のようにつけてもらうには
有機的な形のほうがいいなと思います。
3、4年前からシルバーとの組み合わせが
コレクションに入ってきたのも新鮮でした。
勝手な先入観ですが、
世の中がシルバーに目を向けていたとしても
岡本さんは我道を行くように思っていたので。
岡本
「我道を行っている」とよく言われるのですが、
私は結構世の中を気にしています(笑)。
写真
ジュエリーはつけてもらえないと完成しない、
と思うとたしかに世の中の気分を
取り入れないわけにはいかないですもんね。
岡本
もちろんデザイナーとしての美意識といいますか、
そういうところは自然と反映されると思いますけど、
私はつけてくださる方がいてこそのジュエリーだと
思っているので、あまりデザイナー側の、
「これが美しいですよ」
という価値観は出さないようにしているんです。
モノ自体が美しくまとまるのではなく、
人につけてもらってモノが完成するイメージでしょうか。
岡本
そうですね。
なので、余白があるようなデザインが
多いのかなと思います。



私はものと人との調和が気になってしまうので、
そこの隙間をデザインに入れる傾向があります。
ファッションによってジュエリーの表情が変わるように、
モードな方でもカラフルな方でも
どんな方にもフィットするように意識しています。
SIRI SIRIさんは
コラボレーションをよくされていますが、
他の方とのお仕事のときは
どれくらいSIRI SIRIらしさを意識されるのですか?
岡本
SIRI SIRIのコレクションを見て、
「こういうものをつくりたいです」
とお声がけいただくことが多いので、
SIRI SIRIらしさを全面に出すことが
求められているなと感じます。



直近ですと直島の地中美術館で、
美術館の体験を持って帰れるような
ジュエリーをつくってほしいという希望がありました。
それで、ネックレスとピアス、バングルを
1年以上かけてつくりました。
おもしろいですね、
体験を持って帰れるジュエリーですか。
岡本
地中美術館は美術作品だけでなく
建物を見に来る方も多いので、
建築を学んでいた身として親和性も感じました。



安藤忠雄さんが設計された建物は、
上空から見下ろすと自然の中に
いくつかの幾何学なかたちが浮かび上がってきます。
塩田跡地を含むランドスケープの輪郭をトレースして、
一つひとつ形の異なるモチーフをつなげた
ネックレスにしました。



ピアスはクロード・モネの部屋の
床に敷き詰められた立方体の大理石を
モデルにしています。



そして、どのアイテムにも
直島の海の塩が入っているんです。
ガラスの気泡のようなものが、そうですか?
岡本
そうです。
その土地の記憶、みたいなものを閉じ込めたくて、
高温のガラスに塩を入れると
気化してしまうのですが、
残像として泡が残ることが実験してわかったので、
その泡を活かしてデザインしました。
ジュエリーもアート作品の一部のようですね。
岡本
地中美術館の作品ではアーティストとしての目線を
求められたところはありますね。
造形の一つひとつに意味があって、
かなり時間をかけてディスカッションをしながら
つくりあげていきました。
現実的なことを考える必要性もあるのですが、
もう少し自分自身を出すことを
地中美術館のみなさんが引き出してくださいました。
私たちが最初に岡本さんのクリエイティブに惹かれた
MOLA MOLAのコレクションのように、
ご自身が生み出したストーリーから生まれた
ジュエリーなんですね。
岡本
そういうものづくりも、やっぱり楽しいですよね。
今はすごく早くものづくりができるので、
時間をかけて一つひとつ手づくり感があるものを
つくりたいと改めて思いました。
写真
(つづきます。)