経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第6回 「量的緩和」と「インフレ・ターゲット」

「市場関係者」の予想していた通り、
19日(月)、日本銀行は金融緩和を決めた。
かなり思い切った内容で、「予想の上限」の感じである。
ポイントは二つ。
ひとつは「量的緩和」であること。
もうひとつは、条件付きながら
「インフレ・ターゲット」の考え方を取り入れたこと。

「量的」とはどういうことか?
普通、「金融緩和」は、
金利を下げて、お金を借りやすくすることである。
今まで、日銀は、無担保コール翌日物
(金融機関が一日だけ資金を融通し合うこと)
の金利を金融政策の基準にしていた。

これからは、「金利」ではなく、
「量」が金融政策の基準になる。
「日銀当座預金残高」という量。
「銀行、証券会社などの金融機関が
 日本銀行に預けている現金の量」である。
この残高は、今まで4兆円であった。
「量的緩和」によって、それを5兆円に増やす。
この口座には利子がつかない。
利子がつかない金を持っていても仕方ないから、
貸し出しに回るだろう、ということだ。

「金利」から「量」に基準が変った。
この意味は大きい。
金利はゼロより下げようがないが、
量はいくらでも増やせる。
5兆円でだめなら、6兆円、7兆円というように。
しかも、日銀は、金融機関から
手形や債券を買い上げることによって、
現金を供給する。
その中には、当然、国債が含まれる。
つまり、この「量的緩和」は、
日銀が国債を買いやすくする意味もあるのだ。

そして、インフレ・ターゲット。
「現在、マイナスの物価上昇率がゼロになるまで」
と期限を切っているから、
「インフレ・ターゲットではない」
と速水さんは言っている。
たしかに、2、3パーセントの物価上昇を
コンスタントな目標に掲げる
通常の「インフレ・ターゲット」とは違う。
しかし、
「マイナスの物価上昇率(=物価の下落)は好ましくない」
と日銀が認めたのだから、まさに、画期的だ。

19日(月)の午後、
この「予想の上限」の金融緩和が発表された。
「予想の上限」だったし、改めて
「円売り、ドル買い」をやった人もいたはずである。
しかし、為替市場は大きく動かなかった。
ヤマを張っていた人たちが
「利益を確定」させるために出す
「円買い、ドル売り」とぶつかってしまうのだ。

一方、20日の春分の日を挟んで21日の株式市場は、
日経平均株価が912円高と急騰した。
こっちは、逆に、
「日本経済は底無しにダメになってしまうのではないか」
とヤマを張って「空売り」していた人たちが、
「損失を限定」させるために
「買戻し」に走ったのだろう。
株価の急騰は、
「たとえ日銀が金融を緩和しても、
 日本の経済はよくならないのではないか」
と考える人が多かったことを示しているのだ。

僕は、今回の日銀の決定は正しいと思う。
しかし、日銀の変わりようは、
キレてしまったような感じがして、
ちょっと不気味でもある。
やっぱり、「欧米から言われた」ことが効いたのかなあ。

2001-03-23-FRI

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