経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第9回 銀行にとって特別な「最後の一日」

日本では、ほとんどの大企業が
四月から三月までを「会計年度」にしている。
毎年、三月末日の時点で
過去一年間の企業活動のすべてを整理した
「決算」を、会社のオーナーである株主に報告する。
「決算」は、子供っぽい比喩で恐縮ですが、
「経営者の通信簿」ですね。

三月は一年の最後の月。普通の企業であれば、
最後の月といっても、年度目標の達成を掲げた
営業強化くらいはあるかもしれないが、
一二分の一のウェートしかない。
しかし、銀行にとっては、「最後の月」、というより、
「最後の一日」は特別の意味がある。
銀行の保有する株式、債券などの資産を
「三月末日の価格」で評価して報告するからだ。 

日本の銀行は、膨大な株式を保有している。
銀行の本業は、一パーセント、二パーセントの単位で
利息を儲けることなのに、
株価は、一割、二割の単位で変動する。
株価が暴落したら、
コツコツと集めた利息が一遍に吹き飛んでしまう。

普通の企業の成績は、小テストや授業態度で決まるが、
銀行の場合は、圧倒的に期末試験のウェートが高いのだ。

その問題の株価であるが、
去年の春は、ITバブルのピークのころであった。
そこから年末にかけて、株価はだらだらと下落した。
年が明けて、三月が近くなってくる。
誰もが、
「このまま株価が上昇しなければ、銀行の決算は苦しい」
と思う。

経営が苦しくなると銀行の
「信用創造(六回を参照して下さい)」する力が衰え、
世の中全体に出回るお金が減って、景気が悪くなる。
「貸し渋り」といわれる現象だ。
それを連想して、銀行以外の企業の株も売られる。
それで、年末から三月にかけて、
日本の株価はずいぶん下がった。
これは、バブルが崩壊してから、
毎年のように繰り返されてきたことである。

それを見越して、一部のプロがカラ売りをやるのだ。

三月(あるいは、「経過報告」に当る
「中間決算」のある九月)にかけて株価が下がり、
政府が「株価対策」を検討する。
今も、四月上旬の発表をメドに
与党三党が株価対策の検討をやっている。
あからさまに認めてはいないが、郵貯、簡保など
政府自身の金で株を買い支えたりもする(らしい)。

カラ売りをやっている人たちは、
短期間に一儲けしようと思っているだけだから、
頃合を見計らって買い戻しに動く。
ことに、評価損が出始めたら
さっさと諦めて引き揚げてしまう。
自分以外のプレーヤーも
同じ考えでいることがわかっているから、
いったん下げ止まったら、
一斉に買い戻しが入って急上昇しやすいのだ。

そういう身軽な動きをするのは、
プロの中でも「ディーラー」と呼ばれる人たちだ。
おもに証券会社にいて、自分(の会社)の資金を使って
自由に売買する。

「ディーラー」に対して、
「ファンド・マネージャー」と呼ばれるプロもいる。
生命保険、信託銀行など
数十年単位の契約で顧客から預かった資金を運用する
「機関投資家」で働く人たちである。
「こういうふうに運用します」
と言って預かったお金だから、
勝手に相場を張るわけにはいかない。

同じプロでも、
ディーラーとファンド・マネージャーでは
行動の基準がぜんぜん違う。

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2001-04-01-SUN

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