経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第13回 政治VS経済

「円安ドル高に反対するアジア」の続き。

4月8日(日)、
第5回ASEAN(東南アジア諸国連合)財務相会議は、
円安ドル高に強い懸念を表す共同声明を採択した。
「円安が域内金融市場を不安定にさせ、
 ASEANの持続的成長の展望に
 悪影響を与える可能性がある」という。

東南アジア諸国が
これほど円安を警戒するのには、わけがある。
3、4年前の「アジア経済危機」を覚えているだろうか?
あのころも、1ドル147円まで円安ドル高が進行した。
アジア諸国の通貨はドルに連動しているから、
円安ドル高は、そのまま、「円安アジア通貨高」になる。

円安はアジア諸国の輸出に
打撃を与え、景気を悪化させる。
景気の悪化を見て、海外の資本が逃げ出す。
その結果、アジア諸国の通貨、株価が
暴落し、経済は大混乱に陥る・・・
急速な円安ドル高は、
アジア経済危機の悪夢を思い出させる。

アジア諸国にとって、
日本とアメリカに対する輸出は貴重な収入源だ。
昨年来、アメリカの景気が急速に悪化した。
アメリカ人が以前ほどモノを買わなくなって、
アメリカへの輸出が減る。
その上、円安では、心配にもなるだろう。

そういう折も折、日本政府は、
「緊急輸入制限措置(セーフガード)」
を発動する方針を決めた。
輸入が一定の数量を越えたら、
高い関税をかけて、輸入品を締め出す。
対象はネギ、畳表、生シイタケ。
中国からの輸入が急増している品目である。

農林水産省と自民党は、ウナギ、ワカメ、
木材などにも、発動を要請しているという。

僕自身は、農作物に関しては「国産品愛好家」である。
あまり機会はないが、
買い物に行ったら、値段は高くても
「ナントカさんの作った」有機野菜の類を買うことが多い。
ネギだったら、京都の「九条ネギ」ですね。

日本の農家にはがんばって欲しいと思う。
食糧の自給は安全保障に関わる問題だから、
経済だけで論じられないことも、理解できる。
しかし、今回のセーフガードの発動は、
どう見ても、日本の安全保障のためではなくて、
夏の参議院選挙のためでしょう。

経済だけで論じれば、原則として、
自由な競争が「全体の利益」を最大にする。
中国の農家に競争で勝てない日本の農家は、
ネギやシイタケを作るのをやめて、
他の仕事をやるべきなのだ。
それが「全体の利益を最大にする」経済の論理である。

「ネギやシイタケで生計を立てている日本人
 (何人いるんだろう)」の利益VS日本全体の利益。
ここで、前者が勝ってしまうのが、政治の論理だ。
政治家の仕事は、
個別利益を拾い上げて選挙に勝つことだから。

それは仕方ないんだけど、
危機的な状況にある日本経済に対して、
少しくらいは配慮できないものだろうか。
自分たちが輸出に頼って
景気を回復させようとしている時に、
「セーフガード」を発動して、
よその国の輸出を邪魔する宣言をするなんて・・・ 

景気が良くなれば、値段が高くても
鮮度で勝る日本産のネギを買う人も増えると思うのだが。

2001-04-12-THU

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