経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第22回 機密費と接待費


政府の使うお金は、必要かどうか、判断しようがない。
ナントカ室長の使いこみで注目を集めた
「外交機密費」は、その典型である。
 
外務省は「機密費は必要だ」という。
しかし、現にムダに使われていても
外交に支障が出なかったのだから、
少なくとも、今までより少ない予算で十分のはず。
 
機密費の必要性を正しく検証するためには、
いったんゼロにしてみるしかない。
多分、何も問題は生じないだろう。
そこで、初めて、ムダであったことがわかる。
現実には、いったんゼロにできなくて、
「昔からあって、必要だ」
という外務省の理屈が通ってしまう。
 
これが、政府の予算が「去年と同じ」の
先例踏襲主義になる仕組みである。
 
政府の機密費は、企業でいえば接待費に当る。
ある商談がうまくいった時、
それが、接待のおかげだったのかどうか、
本当はわからない。
製品がよかったのかもしれない。
セールストークがよかったのかもしれない。
機密費と接待費はよく似た性質のお金である。
 
しかし、ものすごく大きな違いもある。
接待費は、機密費と違って、
「いったんゼロ」にしなくても
必要性を確かめる方法がある。
 
接待の必要性を一番正確に判断できるのは、
担当のセールスマン。
セールスマンの給料を
「売上マイナス接待費」の歩合にすれば、
ムダな接待費は使わなくなる。
 
実際の企業では、「接待費のワク」は
一種のボーナスと認識されていて、
「仕事のできるセールスマン」ほど
接待費をたくさん使うことが多い。
特に、年功序列の日本企業では、
仕事ができる、できないで給料に差をつけられないから、
その代償に「接待費のワク」を増やして、
できる社員に報いてきた。
 
ただ、企業は、その気になりさえすれば、
ムダな接待費を削ることは可能なのだ。
 
「政府のお金」では、そうは行かない。
担当者は、ひたすら、
「自分の仕事は必要だ」と主張して、
予算を分捕らなければならない。
本心ではムダだと思っていても、
それを口に出したら、予算が削られて仕事を失う。
 
役人もサラリーマンも元は同じ人間で、
同じ原理に基づいて行動している。
正常な人間は
「自分の利益が最大になるように」行動するのである。
もちろん、世の中には
お金で表しにくい「利益」もあって、
すべての人間が「金の亡者」になるわけではないけれど。
 
企業は、組織自体が
「利益を上げること」を目標に活動している。
そのため、「自分の利益」に基づく個人の行動を、
全体の利益に適合するようにコントロールしやすい。
 
政府のやることには、
企業の「利益」に当る明確な基準がない。
そのため、個人の行動を
全体の利益に適合するように誘導できない。
 
機密費と接待費は、そういう政府と
企業の仕組みの違いが際立つ例である。
 
能力給とかストックオプションとか、
「個人を誘導しようとする企業の試み」
が常に成功するとは限らない。
個人に裏をかかれてしまうこともある。
ただ、企業には誘導する方法があるけれど、
政府にはない。この差は大きい。

2001-05-16-WED

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