経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第24回 僕の会社がなくなった


僕は、一九八七年に大学を卒業して、
「ソロモン・ブラザーズ」という
アメリカの証券会社に就職した。
この会社は、当時、
「ウォールストリートの王」と呼ばれていて、
規模、利益、成長率、どんな基準で計っても
アメリカで一番の会社だった。
 
ところが、栄枯盛衰は世の常。
 
十年後の一九九七年、
ソロモンは「トラベラーズ」という会社に買収された。
急成長中の金融持ち株会社であったトラベラーズは、
既に「スミスバーニー」という証券会社を持っていた。
それを新たに買ったソロモンと合併させて
「ソロモン・スミスバーニー」
という証券子会社にしたのである。
この時点で、「ソロモン」の名前は
ニューヨーク証券取引所から姿を消した。
 
それから間もなく、
トラベラーズはシティバンクと合併して
「シティグループ」という会社になった。
そして、5月23日、シティグループは
「ソロモン・スミスバーニー」から
「シティグループ・コーポレート・
 アンド・インベストメントバンク」
に社名変更すると発表した。
1910年から続いた「ソロモン」という名は、
ついに、この世から姿を消す。
 
くどくどとカタカナを並べて、
僕の勤めた会社の滅びの歴史を述べた。
別に追悼したかったわけではない。
言いたかったことは、二つ。
 
まず、銀行、証券会社の合併、買収などの金融再編は、
世界的な動きであるということ。
自由化が進み、競争が厳しくなっているのは、
日本だけではない。
業界トップの「ウォールストリートの王」が
並の会社に転落し、買収され、
この世から社名が消滅するまで、たった15年である。
 
二つめは、会社が買収されることは、
社員にとって悪い話ではないということ。
手っ取り早いところで、
自社株を持っている社員は株価が上昇して財産が増える。
もっとも、これは、社員としてではなく、
株主としてのメリット。
 
社員としてのメリットは? 
強い企業が弱い企業を買う、弱肉強食の企業再編。
でも、そこで働く人たちが「食われる」のではない。
企業は、本来、資本(カネ)と
設備(モノ)と社員(ヒト)が、
利益を上げる(=資本を増殖させる)目的で、
結合したマシーンである。
 
買収する側の企業は、カネを提供して、
買収先のモノとヒトを手に入れようとする。
つまり、買われる企業のモノとヒトの立場からすれば、
資本が強化されて仕事がやりやすくなる。
その意味でも、
「会社が買収される」
ことは悪い話ではない。理論的にはね。
 
現実には、「会社が買収される」ことの
支持率を調査したら、すごく低い数字が出るだろう。
なぜか?
 
まず、「会社がなくなる」ことに
「故郷の村がダムの底に沈む」
ような寂しさを感じる人がいる。
企業は、理論的には
「資本を増殖させるマシーン」であるが、
多くの社員にとって「心の拠り所」の役目を果している。
 
しかし、心の拠り所は、
「立派な本社ビルにかかった看板に記された社名」
でなくてもいいだろう。(続きます)

2001-05-25-FRI

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