経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第32回 政府は役に立つか


昔の税金は、
下々の者が王や領主に納める「貢ぎ物」だった。
今の税金は、私たち国民が
私たち自身のために集めるお金である。
実際はともかく、理論的には。
 
しかし、何のために? 
 
税金を取る側の政府の言い分は、
「この社会あなたの税が生きている(だったけ?)」だ。
皆さまが税金を納めなかったら、道路や公園を造ったり、
ゴミを集めたりできない。それでは、困るでしょう? 
税金は「公共の福祉」のために必要なんです。
 
「政府が、今、税金を使ってやっていること」
が突然なくなったら、たしかに、困ることも多い。
しかし、政府が何かをやめれば、
それにかかっていた税金が要らなくなる。
その分、私たちが自由に使えるお金が増える。
 
この「自由に使えるお金が増える」ということを
うっかりして、政府が
私たちの役に立っていると勘違いする人が多いのである。
 
政府は、ものすごいお金をかけて、
校舎を建設し、備品を揃え、
先生を雇い、教科書を買って配って、
無料の「義務教育」をやっている。
ところが、この政府の教育サービスは、大変、質が悪い。
だからこそ、私立学校、塾、参考書など
有料のサービスに買い手がつく。
 
無料で配っている横で、
同じモノが高い値段で売れているのである。
そう考えれば、政府がどれだけ
質の悪いモノを配っているか、わかるだろう。
 
公立学校は「保護されている」から、
まだ、勝負になっている。
もし、塾や私立学校と同じ条件で競争させられたら、
公立学校は消滅するだろう。
「同じ条件で」という意味は、自分の子供を
「公立学校に通わせるか、その分のお金を
 現金でもらって塾や私立学校に通わせるか」
を親に選ばせる、ということである。
 
「政府はお金の使い方が下手」だから、
なるべく、政府には何もやらせないほうがいい。
これがサッチャー、レーガン以来の
「小さい政府」の考え方である。
よく、「英米と日本は違う」と反対する人がいる。
しかし、こういう考え方は、
イギリスやアメリカでも、かつては異端だった。
 
政府の役割は時代によって変わる。
 
日本政府の教育サービスだって、
昔は、大いに役に立った。
明治のころ
「ヨーロッパ文明を日本中に普及させる」ことは、
政府にしかできなかったであろう。
 
明治政府は、
「論語や武術を習うために民間で費やされていたお金」
を吸い上げて、お雇い外国人の給料に当て、
留学生を送り、教員を養成して日本中にバラまいた。
日本全体が貧しかったから、
政府が強制的に集めた税金で
費用を負担する意味があった。
 
今は、違う。日本は豊かになった。
資本も人材も民間にあふれているから、
社会に「何か新しいこと」が求められたら、
それを提供する企業がかならず現れる。
政府がしゃしゃり出なくてもいい。
 
現在、義務教育のせいで、
日本人は教育費の二重払いを強いられている。
義務教育をやめれば、
浮いたお金が他の消費に回って
少しは景気もよくなるだろう。
 
問題は、企業が有料で提供するサービスを
買うお金がない人はどうするか、である。

2001-06-20-WED

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