経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第37回 誰も政府は止められない


温暖化ガスの排出量削減を目指す
京都議定書の批准を巡って、
アメリカとヨーロッパが対立している。
アメリカは反対、ヨーロッパは賛成、
それぞれ意見がはっきりしているから、対立する。
 
いつものことながら、
日本政府のはっきりした意見はないようで、
その対立に巻き込まれて右往左往している。
ま、議長国として、
両者の仲を取り持とうとしている、
と言うこともできますが。

京都議定書は、
「地球温暖化」対策の国際条約である。

私たちの生活は化石燃料を燃やして
取り出すエネルギーに支えられており、
その過程で二酸化炭素などのガスが
排出されるのは避けられない。
ここまでは、異論のありえない現実。

そして、その排出されるガスが
このまま増え続けたら地表の温度が上昇する、らしい。
ここからは、未来に関する予測である。
真偽は神のみぞ知る。
ただ、「上昇するだろう」と思っている人のほうが多い。
僕も、そうだ。
 
地表の温度が上昇すると、
氷が溶けて海面が上昇する。
雨が降りやすくなる。
もしかしたら、寒い、乾いた標高の高い地域、
たとえばシベリア、チベット高原などは
今より住みやすくなるのかもしれない。

しかし、今日、世界の大多数の人は
標高の低い湿ったところに住んでいる。
突然、海面が数メートル上昇したら
多分生きていけないだろう。
緩やかな上昇であっても、農地、都市、工場など
長い時間をかけて築いた莫大な生産設備が失われる。

ちょっと回りくどい言い方をした。
京都議定書の目的は、
自然保護ではなく、複雑な仮定に基づく
経済的な利害の調整にあることを忘れないためである。
 
僕自身は、アウトドア―派ではないが、
表参道や代官山をドライブするより
林の中を散歩するほうが好き、
というくらいの自然愛好派である。
少しぐらい工業生産を減らしても、
緑を増やしたほうがいいと思う。

しかし、ゴルフが好きな人に、
「自動車に乗って(排気ガスを撒き散らしながら)、
 ゴルフ場(周囲の生態系を著しく破壊する)
 に行くのを止めろ」と言ったことはない。
僕にそんな権限はないから。
今日、個人の自由を制限できるのは、国家だけである。
他人に何かを強制したいと思ったら、
政治家になって、国会で法律を通すしかない。

そして、国家は、原則として
(ミロシェビッチのように
 極端な人権侵害を行なわない限り)、
完全に自由である。いかなる強制も受けない。
僕が他人に「ゴルフに行くな」と言えないように、
ヨーロッパも日本もアメリカに
「温暖化ガスを削減しろ」とは言えない。
 
アメリカ人は、
「地球温暖化仮説」をあまり信じていないのだろう。
少なくとも、差し迫った危機とは感じていない。
温暖化ガスの削減が
当面の経済活動に与える悪影響のほうが心配なのだ。

ところで、「温暖化ガスの排出量」って、
どうやって測定するのだろう。
どなたか御存知ですか?

2001-07-10-TUE

BACK
戻る