第9回 思い起こせば、6つのころから。

糸井 でも、なんで
今まで気がつかなかったんだろう?

‥‥その「体質」に(笑)。
京極 うーん。
糸井 家族からは指摘されないんですか?
京極 そういうもんだと思ってたんでしょう。
ぼくもそう思ってたから。
糸井 「いいかげんにしなさい」とか。
京極 それは、多少思ってたかもしれませんが。
糸井 でも、ほんとうはムリしてたんだとは
だれも、気づかなかった(笑)。

京極 うん、だから、ぼくはね、以前から
「よくもまあ、寝ないで
 そんなに働いて大丈夫だね」って言われたときには、
「いや、そんなことないです。
 眠くなったら寝てますから」と言ってたんです。
糸井 うん、うん。
京極 働くだけ働いて、疲れたら寝てますから、と。
糸井 「別にムリなんかしてません」と。
京極 ところが、気持ちのうえではムリしてないんだけど、
身体はたぶん、ムリしてたんだろう‥‥な。
糸井 じゃあ、結果としてずいぶん寝なかったときに、
「こむら返り」を起こしたとか、
そういう身体的異常は、出なかったんですか?
京極 いやね、そういうことについてはね‥‥。
思い起こせば、小学校1年生のとき‥‥。
糸井 おもしろくなってきた(笑)。
京極 犬のアップリケが付いた茶色のズボンを穿いて
学校に行ったんです、初夏のある日。

で、どういうわけか、ぼくは
そのズボンを「後ろ前」に穿いてたんですよ。
糸井 うん、うん(笑)。
京極 つまり、その‥‥いわゆる
放尿する際に必要なチャックはケツのほうにあって。
糸井 排便はできるけれども。
京極 パンツはいてるから、排便もできません(笑)。

で、ぼくはその朝、
トイレに行かずに登校してしまったふしがあり、
1時間目くらいから
すでに尿意をもよおしていたわけです。
糸井 まずいじゃないですか(笑)。
京極 そこで、わずか御年6歳のぼくは、
どうしたかというと‥‥
尿意を無視することにしたんですよ。

というのもですね、そのころって
トイレで、あの、排便などしただけで‥‥。

糸井 ああ、恥ずかしい、と。
京極 恥ずかしいというより、
「そういうあだ名」がついてしまう。
糸井 デリケートな時期ですよね。
京極 古きよきイジメが蔓延していた時期です。
幸いなことに、もよおしたものは、
大のほうではなかったんですが。

でも、放尿するためには
後ろ前のズボンを穿きかえねばならない。
糸井 そうですね(笑)。
京極 あるいは、大便器のほうでなければ、
放尿できない‥‥。
糸井 そうだ、たしかに(笑)。
京極 そこでぼくは、
学校が終わるまでトイレにいかずにやり過ごした。
糸井 ずっと?
京極 で、うちに帰って、熱を出しました。

尿毒症になって。
糸井 はあ。
京極 それは、たぶん‥‥。
糸井 身体はムリしてたんでしょうね‥‥って
そんな解説させてどうするんですか!(笑)
京極 ふつう、6歳の子どもなら
漏らすと思うんですよ。
糸井 少なくとも、尿毒症になるまで我慢はしないよ‥‥。
京極 ただ、ぼくには、そのときに
堪えに堪えていたという記憶がないんです。
糸井 ただ、しないでおこうと。
京極 そう、後ろ前がバレると、きっと笑われるから。
糸井 あの、例の「体質」のおかげで‥‥。
京極 つまりね、身体に負担がかかっていても
ムリのきいてしまうような精神構造で
以降の40年間を生きてきたのであろうと。

そして、だんだん歳を取ってきたら、
じょじょにガタも出てきたり、
むかしほどムリがきかなくなってきて‥‥。

じつは「すごくムリしていた」んじゃないかと。

糸井 思い当たったんですね。
京極 ええ、40歳を過ぎてから。
糸井 なるほどなぁ‥‥すごい話だ。
京極 だから、たしかに
「眠くなったら、寝てますよ」と
答えてはいたけれど、
「つまり、おまえが眠くなるときは、
 用事が済んだときだろう」ってことなんですね。
糸井 仕事に熱中しているときには
そもそも、眠さに気づいてないと。
京極 熱中してなくても、フツーで気づいてない。
糸井 でも、それは自分の好きに決めてるから
ぜんぜん、つらくもなかったわけですね。
京極 そのとおりです。
糸井 はあ‥‥それが、
京極さんの「寝ない」だったのか‥‥(笑)。

<つづきます>



2007-12-27-THU