糸井 |
でも、なんで
今まで気がつかなかったんだろう?
‥‥その「体質」に(笑)。 |
京極 |
うーん。 |
糸井 |
家族からは指摘されないんですか? |
京極 |
そういうもんだと思ってたんでしょう。
ぼくもそう思ってたから。 |
糸井 |
「いいかげんにしなさい」とか。 |
京極 |
それは、多少思ってたかもしれませんが。 |
糸井 |
でも、ほんとうはムリしてたんだとは
だれも、気づかなかった(笑)。
|
京極 |
うん、だから、ぼくはね、以前から
「よくもまあ、寝ないで
そんなに働いて大丈夫だね」って言われたときには、
「いや、そんなことないです。
眠くなったら寝てますから」と言ってたんです。 |
糸井 |
うん、うん。 |
京極 |
働くだけ働いて、疲れたら寝てますから、と。 |
糸井 |
「別にムリなんかしてません」と。 |
京極 |
ところが、気持ちのうえではムリしてないんだけど、
身体はたぶん、ムリしてたんだろう‥‥な。 |
糸井 |
じゃあ、結果としてずいぶん寝なかったときに、
「こむら返り」を起こしたとか、
そういう身体的異常は、出なかったんですか? |
京極 |
いやね、そういうことについてはね‥‥。
思い起こせば、小学校1年生のとき‥‥。 |
糸井 |
おもしろくなってきた(笑)。 |
京極 |
犬のアップリケが付いた茶色のズボンを穿いて
学校に行ったんです、初夏のある日。
で、どういうわけか、ぼくは
そのズボンを「後ろ前」に穿いてたんですよ。 |
糸井 |
うん、うん(笑)。 |
京極 |
つまり、その‥‥いわゆる
放尿する際に必要なチャックはケツのほうにあって。 |
糸井 |
排便はできるけれども。 |
京極 |
パンツはいてるから、排便もできません(笑)。
で、ぼくはその朝、
トイレに行かずに登校してしまったふしがあり、
1時間目くらいから
すでに尿意をもよおしていたわけです。 |
糸井 |
まずいじゃないですか(笑)。 |
京極 |
そこで、わずか御年6歳のぼくは、
どうしたかというと‥‥
尿意を無視することにしたんですよ。
というのもですね、そのころって
トイレで、あの、排便などしただけで‥‥。
|
糸井 |
ああ、恥ずかしい、と。 |
京極 |
恥ずかしいというより、
「そういうあだ名」がついてしまう。 |
糸井 |
デリケートな時期ですよね。 |
京極 |
古きよきイジメが蔓延していた時期です。
幸いなことに、もよおしたものは、
大のほうではなかったんですが。
でも、放尿するためには
後ろ前のズボンを穿きかえねばならない。 |
糸井 |
そうですね(笑)。 |
京極 |
あるいは、大便器のほうでなければ、
放尿できない‥‥。 |
糸井 |
そうだ、たしかに(笑)。 |
京極 |
そこでぼくは、
学校が終わるまでトイレにいかずにやり過ごした。 |
糸井 |
ずっと? |
京極 |
で、うちに帰って、熱を出しました。
尿毒症になって。 |
糸井 |
はあ。 |
京極 |
それは、たぶん‥‥。 |
糸井 |
身体はムリしてたんでしょうね‥‥って
そんな解説させてどうするんですか!(笑) |
京極 |
ふつう、6歳の子どもなら
漏らすと思うんですよ。 |
糸井 |
少なくとも、尿毒症になるまで我慢はしないよ‥‥。 |
京極 |
ただ、ぼくには、そのときに
堪えに堪えていたという記憶がないんです。 |
糸井 |
ただ、しないでおこうと。 |
京極 |
そう、後ろ前がバレると、きっと笑われるから。 |
糸井 |
あの、例の「体質」のおかげで‥‥。 |
京極 |
つまりね、身体に負担がかかっていても
ムリのきいてしまうような精神構造で
以降の40年間を生きてきたのであろうと。
そして、だんだん歳を取ってきたら、
じょじょにガタも出てきたり、
むかしほどムリがきかなくなってきて‥‥。
じつは「すごくムリしていた」んじゃないかと。
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糸井 |
思い当たったんですね。 |
京極 |
ええ、40歳を過ぎてから。 |
糸井 |
なるほどなぁ‥‥すごい話だ。 |
京極 |
だから、たしかに
「眠くなったら、寝てますよ」と
答えてはいたけれど、
「つまり、おまえが眠くなるときは、
用事が済んだときだろう」ってことなんですね。 |
糸井 |
仕事に熱中しているときには
そもそも、眠さに気づいてないと。 |
京極 |
熱中してなくても、フツーで気づいてない。 |
糸井 |
でも、それは自分の好きに決めてるから
ぜんぜん、つらくもなかったわけですね。 |
京極 |
そのとおりです。 |
糸井 |
はあ‥‥それが、
京極さんの「寝ない」だったのか‥‥(笑)。
<つづきます>
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