糸井 |
田口さんにムチャなバントを
やらせた仰木監督について、
たぶん、ぼくは、田口さんと
ちょっと違うことを
感じていると思うんです。 |
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田口 |
はい。 |
糸井 |
たぶんね、将来、田口さんが
監督になったらわかると思うんだけど、
1回スパイクを脱いだ選手に
もう1回スパイクを履かせて
「バントしてこい」って言えることこそが
監督というものの存在意義だと思うんですよ。
つまり、極端にいえば、
そういうことがやりたくて
監督をやってると思うんですよ。 |
田口 |
どういうことですか。 |
糸井 |
「おまえはバントがうまいんだから、
もう1回スパイク履いて行ってこい」って
言う権利があるのは監督とか、社長だけなんです。 |
田口 |
そうですね。 |
糸井 |
ぼくが監督だったら、
毎日のようにそういうことを言いたい。 |
田口 |
や、困ります(笑)。 |
糸井 |
だって、遊びって、そういうものですよ。 |
田口 |
いや、遊びはそれで
いいかもしれないですけど‥‥。 |
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糸井 |
たぶん、そこで「遊んでこい」って言えるのが
監督だと思うんですよ。
「おまえだったらこのおもしろい遊びを
やってくれるよな」って思うんです。
それをね、絶対にやってくれない人もいるんです。
それをやらせると傷ついてしまったり、
オレはそういう人間じゃないって言い張ったり、
あるいは技術的に無理だったり。
そういう人にはね、言わないんですよ。
でも、こういいうおもしろいことを、
「ウソでしょう?」って怒りながらでも
いっしょにやってくれる人っていうのを
きっと監督は「ほしい!」と思うんですよ。 |
田口 |
それは、ぼくが監督になったときに‥‥。 |
糸井 |
きっと、わかるんだと思いますよ。 |
田口 |
はーー‥‥。
たしかに、チームにひとりはほしいですね。
そういう便利な選手。 |
糸井 |
で、いたら、きっとバントさせるんですよ。
だって、成功しても失敗しても、
できることは増えますからね。
実際、田口さんのユーティリティというのも
それで上がってると思いますよ。 |
田口 |
ああ、そうかもしれませんねぇ。 |
糸井 |
あの、2006年のワールドシリーズで
「生涯でいちばん緊張したバント」
という話を書いてらっしゃったじゃないですか。 |
田口 |
ああ(笑)、あれも、
「代打でバント」でしたね。 |
糸井 |
無理矢理こじつけて
物語にするわけじゃないですけど、
あのバントだって、仰木監督にそういう
ムチャなことを命じられた経験があったからこそ
できたことかもしれないですよ。 |
田口 |
いや、そうかもしれないです。
あのときも、とんでもない状況でしたから。
ワールドシリーズの第4戦で、
1点負けてる7回裏に
先頭打者がツーベースを打ったんです。
で、つぎのバッターが左打者なんですね。
ノーアウト2塁ですから、
引っ張らせたらええやんかと思ったんですけど、
「代打」って。ふつう、そんなことしないですよ。
あんな体のデカい左打者の代打に
ぼくが出て行ったら、もう、誰がどう見ても、
100パーセント、バントなんですよ。 |
糸井 |
敵も、味方も、ファンも(笑)。 |
田口 |
「これはバントだ!」と。
もう、「タグチ」っていうコールが
「バント」に聞こえましたから。 |
糸井 |
ははははははは。 |
田口 |
しかも、ワールドシリーズの第4戦ですよ?
最高に盛り上がってるスタジアムに、
「私は、バントしますよー」って出て行くんですよ。
もう、こうやってバントのかまえして、
ダグアウトから出て行くようなものですよ。
そんなプレッシャー、ないですよ。 |
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糸井 |
はははははははは。 |
田口 |
だってもう、サインも出なかったですからね。 |
糸井 |
え? ノーサインですか?
それは、出さなくてもわかるだろうっていうこと? |
田口 |
じゃなくて、口頭だったんです。 |
一同 |
(爆笑) |
田口 |
もう、絶対確実に伝えたかったらしくて、
ぼくがバッターボックスに入ったら
サードコーチがツカツカツカってやってきて、
耳元で「バント!」と。 |
糸井 |
ははははははは。 |
田口 |
いちおう「イエス」言いましたけど、
心のなかでは「わかっとるわっ!」と。 |
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糸井 |
(笑) |
田口 |
なんとか成功したからよかったものの。 |
糸井 |
その日のブログに、
「試合のあと、コーヒーを飲み終わるまで
バントの緊張が続いていた」って
書いてありましたよね。 |
田口 |
そうなんです。ずーっともう。
やっぱり、ワールドシリーズの緊張感というのは
独特のものがあるので。 |
糸井 |
その場面できっちりバントを決めたというのは、
みんなの記憶に残りますよね。
きっと、田口さんが年とって、亡くなったあと、
お通夜の席でみんながその話をすると思いますよ。
「おじいちゃんはね、
ワールドシリーズでね、
代打でバントしてね」って(笑)。 |
田口 |
そういえば、2004年に
プレーオフにはじめて出たとき、
記念すべき初打席が、
やっぱりバントだったんですよ。 |
糸井 |
(笑) |
田口 |
あのときはね、本当に、
「‥‥打ったろかな」と思いました。 |
糸井 |
あははははは。
(続きます)
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