── |
TAROは、環境に恵まれたのはもちろんですが、
自分でも、かなりのがんばりが
あったのかもしれません。
目を見開いていないと、
のまれてしまう危機感が
あったのではないでしょうか。 |
みうら |
世間からは
たぶん厳しいことを言われていたんだろうし、
変な人だと思われていたんだろうね。
でも、その「変」を、
KEEP ONした人だけが
芸術家っていわれて、
KEEP ONしなかった人を、
たんなる「変な人」と呼ぶんだろうね。
ずーっとKEEP ONすることって、
俺はかなり重要だと思う。 |
── |
亡くなるまで、作品をたっくさん、
つくりつづけましたからね。 |
みうら |
やっぱ、じいさんまでやるってとこが
おもしろいよね。
「じいさんでもこれかい!」ってとこが
おもしろいんだよね。
「じいさんはこれじゃねーだろ!」ってとこが
おもしろいんだよね。 |
── |
うははははは。 |
みうら |
そこがすごいよな、と思うわ。
やっぱ、描いてるとうまくなるもん、
絵って。
なんないんだもん、岡本さん、すごいよ。 |
── |
『今日の芸術』という著書にも書いてあります。
「芸術は、うまくあってはならない」。 |
みうら |
そのへんが岡本さんの、マイルールなんだよ。
マイルールでマイブームなんだよ、
この人の。 |
── |
そうやってがんばらないと、うまくなくは
描けなくなっていくんだなあ。 |
みうら |
俺、デッサンが下手だったんだけど、
美大に行くためにはデッサンができないと、
だめなんですよ。
あの審査って、芸術じゃないから。 |
── |
「うまさ」ですよね。 |
みうら |
うん。形がとれてるか、
光を感じてるか、ってことだから。
あんなことする意味がぜんぜんわかんなくて
二浪もしちゃったんだけど。
横尾さんも、本で
「アカデミックな教育は意味がないから
大学に行くのをやめた」
とか書いてたけど、
たしかにそれはそうだな、と思った。
でも、俺は行っちゃった手前ね(笑)、
もうどうしようもないんだ。
だからもう、高卒でいい、もう、ほんとに! |
── |
なにもそんなにヤケクソ風に
おっしゃらなくても。 |
みうら |
もお〜〜ほんっと、
行かなきゃよかったと思っちゃった、
そんなんだったら。
なんの意味もなかったもん。 |
── |
TAROは、パリの大学に行ったとき
民族学を学びましたね。 |
みうら |
ああ、わかるわかる。
だから、もう「ある」んだよね。
もう「ある」ものを、
マイルールで描いてるかんじがする。 |
── |
さて、ここが
TAROのアトリエだったところです。 |
みうら |
へええ。そのままにおいてあるんだね。
この絵は?
左にある絵は? |
── |
「明日の神話」という絵なんですけれども、
これは実は壁画の下絵なんです。
壁画実物は、先日メキシコで
35年ぶりに発見されたそうなんですよ。 |
みうら |
そうなんだ、35年ぶり!
へええ。
ねえ、あそこに船が描いてあるのがいいよね。 |
── |
右の下側に小さく黒い船が
描いてありますね。 |
みうら |
全部壊そうとしてるよね、あれで。
ここまで描いといて、台なしだもん。
ほら、みてよ、子どもの絵みたいに、
船が描いてあるよ、あそこに。 |
── |
ええ。 |
みうら |
かわいいね。 |
── |
ええ。 |
みうら |
‥‥ところでこれ、
お風呂屋さんにあったら
ぜったい、なごめないね。
情熱的だもんね。
うん、いい絵だね。
大っきい絵って迫力あるよね、やっぱ。 |
── |
みうらさんも
描いていらっしゃいましたよね。
100号の絵を、たくさん。 |
みうら |
うん、「天狗レノン」とか。
誰も描かないの、描こうと思って。 |
── |
どういうきっかけで? |
みうら |
仏画の連載やってたんだけど、
雑誌の片ページだったから、
いつも小さい絵で入稿してたんだ。
でも、担当の編集の人がおもしろい人で、
ちょっと困らせようかな、と思って
大きい絵で描いてみたんですよ。
それで「持って帰って」って言ってみた。
そしたら、その人、
たいへんそうにかかえて、
だまーって、持って帰って。
そのようすを、事務所の窓からみてて、
おんもしろくてさー。
それから、その人を困らせるために
どんどん大きくしてって、
ついに、100号の絵を描いたの。
タクシーにも乗らないサイズ。
編集部の人が3人がかりくらいで来て、
何にも言わず持って帰った(笑)。 |
── |
たいへんですよ、それ。 |
みうら |
撮影しなきゃなんないし、
ヤでしょうがないよね、そんなの。 |
── |
入稿のだんどりとか、考えただけで
気が遠くなります。 |
みうら |
ところで、岡本さんってさ、
にこーって笑ってるとこと、
ガーッとポーズとってるとこと、
ぜんぜんちがうね。
サービス精神なんだよね。 |
── |
そうですね。
言葉も、わかりやすいものを選んで
話していたんだろうと思います。
TAROのアトリエで、TAROのポーズ。 |
みうら |
岡本さんってさ、
顔が、もう、「太陽の塔」だよね。
自分の似顔絵じゃん?
目、むいて、眉間にシワ寄ってる。 |
── |
そうですかね?
「太陽の塔」の、
おなかの顔ですよね。 |
みうら |
そうだよ。口もそうなってるもん、この人。
太陽の塔のおなかについてるの、
自画像なんだよ、きっと。
だって、目、ものすごくむいてるもん。 |
── |
そうですね‥‥。
よくよくみると、似てるなあ。 |
みうら |
岡本さんの絵が嫌みにみえないのは、
プリティーだからだよね。
人物も、やっぱり
プリティーな方だったんだろうね。 |
── |
そうでしょうね。 |
みうら |
プリティーな人じゃないと
つくらないもん、自分の蝋人形。
そうとうプリティーな発想だよ。
あの手の椅子なんかも、すーごくプリティ。
絵の右に、プリティな手の形の椅子。 |
── |
外にいっぱい椅子が置いてありますよ。
もう暗くなっちゃったけど、
庭に出てみましょうか。
庭では、大きいオブジェが制作されたそうです。
塀が低いからよく人が覗いたそうですよ。 |
みうら |
かーわいいよね、
みんな、かわいい。
木の下に大きくてかわいい彫刻が。 |
みうら |
この大きいの、
呪術に使う人形みたいだね。
かわいいんだよね、
アフリカとかの呪術の人形って。
で、やることすっげえこわいんだよね。
ものっすごい恨みとか込めたりするんだけど
かわいいんだよ、そういうもんって。
だって、五寸釘打つやつだって、
かわいいじゃん? |
── |
たしかに。 |
みうら |
かわいいから、こわいんだよね。やっぱね。
「かわいいこわい」って、
岡本さんの魅力だよね。 |
── |
これ、鐘なんですけど。 |
みうら |
ついてみようかな。
あー、いい音すんね。
ガイーン、ゴイーン! |
── |
みうらさんだったら、この庭、
今後どうデザインされますか? |
みうら |
この庭ですか?
そうですね、とりあえず、これ、ぜんぶ、
どけますね。 |
── |
ははははは。
そうですか。 |
みうら |
どけます。
庭として、使います。 |
── |
これで、記念館見学はおわりです。
ありがとうございました。 |
みうら |
なんか、勝手にしゃべっちゃったなぁ。 |
── |
でも、TAROもきっと同じことを
考えているような気がしますね。 |
みうら |
でも、なんか、岡本さんに
「そういうことは
しゃべることじゃないんだ!」
とか言われそうだよ。
「そういうことは、
言葉にすることじゃない!」とか。
いまにも怒って、
あのへんから出てきそうだよね。
(みうらじゅんさんの遺伝子の巻・おわりです)
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