糸井 |
大西さんは、
テレビ番組の企画で絵を描くまでは、
絵からは遠ざかっていたわけですか? |
大西 |
はい、まったくしてなくて。 |
糸井 |
まったく描いてなかったんですか(笑)。 |
大西 |
だから、いま、
「ジミーちゃん、絵描きで頑張ってるね」
って言われることが、
ものすごい不思議なんです。
棚からぼたもちみたい、ほんまに。 |
糸井 |
本人から直接そう聞いたら
「‥‥そうか」って
言うしかないけど。 |
大西 |
ハハハ。 |
糸井 |
だけど、大人になってから
また褒められたからこそ、いま、
絵描きをやってるわけですよね。 |
大西 |
そうなんですよ。
岡本太郎先生が言うてくれたから、
だから、描いてみようと思て。
人から褒められることが、
それまでほんとになかったんですよ。
いつも、「アホウ」とか
人に突っ込まれてばっかりで。 |
糸井 |
そうだよねぇ。
それが役割だったもんね(笑)。 |
大西 |
そうなんですよ。
「ええ加減にせぇ」とか。
「なにしてんねん」っていうのが、
僕のなかに、染みついたものとして、
ありましたから。
「いいよ」っていわれたことは、
小学校の、例の写生会以来、
1回もなくて。 |
糸井 |
2回目が岡本太郎だった。 |
大西 |
そうなんですよ! |
糸井 |
すごい運命だねぇ。
それで、褒められてから
すぐ描いてみようと思ったわけ? |
大西 |
ええ。
「よーし、ちょっと描いてみよう」と思て、
描き出してみたら、
なんと、机の前に、
8時間ぐらい座れるんですよ。 |
糸井 |
そんな男じゃなかったのに(笑)。 |
大西 |
そんな男じゃなかったのに!
学校のテストの40分間でも、
じっと座っとけなかったのに。 |
糸井 |
うん、うん。 |
大西 |
「なんで8時間、
こうやって座っとれるのかなぁ?」
絵が好きというよりも、
自分が座っていられることに驚きました。
こんな自分、はじめてや。
もしかしたらこうやって描いている自分が
ほんとうなのかもしれない! |
糸井 |
不思議でしょうね!
「8時間」って、すごいよね。
そんときに、
なにを描こうと思ったんですか? |
大西 |
いやあ、描いてみると僕は、
丸描いたり、デッサンをするのが
ものすごいへたくそなんですよ。 |
糸井 |
うん、練習してないもんね。 |
大西 |
練習してないし、
影のつけ方もわからないし。 |
糸井 |
うんうんうん。 |
大西 |
たとえば、
「このえんぴつを写しなさい」
言われたら、
おそらく、長四角描いて、
上にこうやってチョーンと
とんがったもんしか、
たぶん描けないだろうなあと思ったんです。
でも、鉛筆というものには
六角形があったり、
いろいろなものがあったりする。
だけど、それが描けなかった。
でも、自分の描きたいものへの
世界観みたいなんがあって。 |
糸井 |
描きたいんだ。 |
大西 |
ええ。
その世界観で描いてるつもりなんですけど
まったく違うものを
描いたりしてしまうんですよね。
おんなじもん描いても、
ぜんぜん違うものができてきてしまう。
でも、8時間、座ってられる(笑)。
|
糸井 |
大西さんが「お笑い」をしてた時代って、
僕らからは楽しそうにみえたんだけど、
絵を描くときのような
うれしさっていうのはなかった? |
大西 |
「お笑い」のときは
みんなに突っ込んでもらったり
いじられたりするのが
うれしかったんですけれども、
絵は、ぜんぜん正反対でしたね。
もう、自分だけの世界に入ってしまう。 |
糸井 |
そしたら、たとえば、
「今日仕事があるのに、
絵を描きはじめてたんで忘れちゃった」
とか、そういうこともありました? |
大西 |
そこまではなかったですけど‥‥
ある種の「苛立ち」はありますね。 |
糸井 |
というと? |
大西 |
あ〜もう時間や、
仕事行かなあかんわ、というときに
「描けんのかぁ。
ここまで描きたいのに」って。 |
糸井 |
なるほど。
絵以外で、
そんなふうに思ったことないでしょ? |
大西 |
はい。‥‥でも、そうですね、
女の人といっしょにいたいという、
感覚に似てますね。 |
糸井 |
うわぁ‥‥絵が(笑)?
そうなんだ! |
大西 |
女の子と一緒におって、
ああ、もう時間や、仕事行かなあかんわ、
好っきやのに、いまから仕事、
ちょっと行ってくるわ、
というのと、ま、よう似た感覚です。 |
糸井 |
へぇーっ! |
大西 |
それが、自分のなかで、
ものすごい不思議に思えてくる。 |
糸井 |
いや、人の話だけど、感動的だよね。
そんなもん、
ないと思って生きてたわけでしょう? |
大西 |
まったく(笑)。
女の子としか、
もうそういうことはあり得へん、と思てた、
自分のなかで。 |
糸井 |
うんうんうんうん。 |
大西 |
絵を描いているときは、
いまだに8時間9時間、軽く座れます。
ほんで、そんな僕の姿をみて、
「一生懸命やってるねぇ」とか、
みんな褒めてくれるんですけどもね。 |
糸井 |
そうじゃない(笑)。 |
大西 |
僕にとったら、なんも
苦痛じゃない。
昨日でも、
12時間ぐらい座って描いてたなぁ、ずーっと。
まあ、メシくらいは食いますけどね。 |
糸井 |
だけど、そんな仕事、ないよね。 |
大西 |
はい。
なんていうんですかね、
仕事ていう感覚やないんです、半分ぐらいは。 |
糸井 |
そうなんだね。
「いまでも12時間座れる」っていう
信じられないことをみつけられたのも、
ぜんぶ、褒められたのが原因なんだね。 |
大西 |
そうなんですよ。
あの岡本太郎先生が、
あんなこと言えへんかったら、
僕、絵描きになってないです、たぶん。
(つづきます!)
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