「ひと目みて心を奪われる」といわれる、
色彩あふれる絵を描くジミー大西さんは、
数年前までは「お笑い」のタレントさんでした。
2002年12月より日本全国を巡回している展覧会に
足を運んだ人の数は
いまや、ゆうに30万人を超えるといいます。
ジミー大西さんが
タレントから画家に転向したきっかけには、
晩年のTAROがかかわっていたとか。
darlingがお話をうかがいましたよ。


第4回
テストの40分間ですら、じっとできなかった。


糸井 大西さんは、
テレビ番組の企画で絵を描くまでは、
絵からは遠ざかっていたわけですか?
大西 はい、まったくしてなくて。
糸井 まったく描いてなかったんですか(笑)。
大西 だから、いま、
「ジミーちゃん、絵描きで頑張ってるね」
って言われることが、
ものすごい不思議なんです。
棚からぼたもちみたい、ほんまに。
糸井 本人から直接そう聞いたら
「‥‥そうか」って
言うしかないけど。
大西 ハハハ。
糸井 だけど、大人になってから
また褒められたからこそ、いま、
絵描きをやってるわけですよね。
大西 そうなんですよ。
岡本太郎先生が言うてくれたから、
だから、描いてみようと思て。
人から褒められることが、
それまでほんとになかったんですよ。
いつも、「アホウ」とか
人に突っ込まれてばっかりで。
糸井 そうだよねぇ。
それが役割だったもんね(笑)。
大西 そうなんですよ。
「ええ加減にせぇ」とか。
「なにしてんねん」っていうのが、
僕のなかに、染みついたものとして、
ありましたから。
「いいよ」っていわれたことは、
小学校の、例の写生会以来、
1回もなくて。
糸井 2回目が岡本太郎だった。
大西 そうなんですよ!
糸井 すごい運命だねぇ。
それで、褒められてから
すぐ描いてみようと思ったわけ?
大西 ええ。
「よーし、ちょっと描いてみよう」と思て、
描き出してみたら、
なんと、机の前に、
8時間ぐらい座れるんですよ。
糸井 そんな男じゃなかったのに(笑)。
大西 そんな男じゃなかったのに!
学校のテストの40分間でも、
じっと座っとけなかったのに。
糸井 うん、うん。
大西 「なんで8時間、
 こうやって座っとれるのかなぁ?」
絵が好きというよりも、
自分が座っていられることに驚きました。
こんな自分、はじめてや。
もしかしたらこうやって描いている自分が
ほんとうなのかもしれない!
糸井 不思議でしょうね!
「8時間」って、すごいよね。
そんときに、
なにを描こうと思ったんですか?
大西 いやあ、描いてみると僕は、
丸描いたり、デッサンをするのが
ものすごいへたくそなんですよ。
糸井 うん、練習してないもんね。
大西 練習してないし、
影のつけ方もわからないし。
糸井 うんうんうん。
大西 たとえば、
「このえんぴつを写しなさい」
言われたら、
おそらく、長四角描いて、
上にこうやってチョーンと
とんがったもんしか、
たぶん描けないだろうなあと思ったんです。
でも、鉛筆というものには
六角形があったり、
いろいろなものがあったりする。
だけど、それが描けなかった。
でも、自分の描きたいものへの
世界観みたいなんがあって。
糸井 描きたいんだ。
大西 ええ。
その世界観で描いてるつもりなんですけど
まったく違うものを
描いたりしてしまうんですよね。
おんなじもん描いても、
ぜんぜん違うものができてきてしまう。
でも、8時間、座ってられる(笑)。

糸井 大西さんが「お笑い」をしてた時代って、
僕らからは楽しそうにみえたんだけど、
絵を描くときのような
うれしさっていうのはなかった?
大西 「お笑い」のときは
みんなに突っ込んでもらったり
いじられたりするのが
うれしかったんですけれども、
絵は、ぜんぜん正反対でしたね。
もう、自分だけの世界に入ってしまう。
糸井 そしたら、たとえば、
「今日仕事があるのに、
 絵を描きはじめてたんで忘れちゃった」
とか、そういうこともありました?
大西 そこまではなかったですけど‥‥
ある種の「苛立ち」はありますね。
糸井 というと?
大西 あ〜もう時間や、
仕事行かなあかんわ、というときに
「描けんのかぁ。
 ここまで描きたいのに」って。
糸井 なるほど。
絵以外で、
そんなふうに思ったことないでしょ?
大西 はい。‥‥でも、そうですね、
女の人といっしょにいたいという、
感覚に似てますね。
糸井 うわぁ‥‥絵が(笑)?
そうなんだ!
大西 女の子と一緒におって、
ああ、もう時間や、仕事行かなあかんわ、
好っきやのに、いまから仕事、
ちょっと行ってくるわ

というのと、ま、よう似た感覚です。
糸井 へぇーっ!
大西 それが、自分のなかで、
ものすごい不思議に思えてくる。
糸井 いや、人の話だけど、感動的だよね。
そんなもん、
ないと思って生きてたわけでしょう?
大西 まったく(笑)。
女の子としか、
もうそういうことはあり得へん、と思てた、
自分のなかで。
糸井 うんうんうんうん。
大西 絵を描いているときは、
いまだに8時間9時間、軽く座れます。
ほんで、そんな僕の姿をみて、
「一生懸命やってるねぇ」とか、
みんな褒めてくれるんですけどもね。
糸井 そうじゃない(笑)。
大西 僕にとったら、なんも
苦痛じゃない。
昨日でも、
12時間ぐらい座って描いてたなぁ、ずーっと。
まあ、メシくらいは食いますけどね。
糸井 だけど、そんな仕事、ないよね。
大西 はい。
なんていうんですかね、
仕事ていう感覚やないんです、半分ぐらいは。
糸井 そうなんだね。
「いまでも12時間座れる」っていう
信じられないことをみつけられたのも、
ぜんぶ、褒められたのが原因なんだね。
大西 そうなんですよ。
あの岡本太郎先生が、
あんなこと言えへんかったら、
僕、絵描きになってないです、たぶん。


(つづきます!)

2004-02-13-FRI

このページに関するメッセージをpostman@1101.comまでお寄せ下さい。
このページの全部または一部の無断複製・転載を禁じます。