「ひと目みて心を奪われる」といわれる、
色彩あふれる絵を描くジミー大西さんは、
数年前までは「お笑い」のタレントさんでした。
2002年12月より日本全国を巡回している展覧会に
足を運んだ人の数は
いまや、ゆうに30万人を超えるといいます。
ジミー大西さんが
タレントから画家に転向したきっかけには、
晩年のTAROがかかわっていたとか。
darlingがお話をうかがいましたよ。


第9回
自分と呼び合う絵。


大西 こないだメキシコに行ったんですけど、
メキシコのおっきな美術館に、
「うわぁーっ!!」って心にせまる絵が
1つだけあったんです。
ルフィーノ・タマヨという人の
絵だったんですけれども。
もう「太陽の塔」と出会ったときぐらいの
感動をしたんですよ。
これはすばらしい!すごい!と思って、
遠くでみたり近くでみたり
いろんな角度で、
とにかくみとれてしまったんです。
「ほかにどんな絵を描いてんねやろ」と思って、
どうしてもその人の画集が
欲しくなったんですよ。
ほんで、美術館の下の階で画集が売っていて、
僕はお金の計算できないけども、
「とりあえず持ってるお金のなかで、
 買えるもんやったら買いたい」
と言って、手に入れたんです。
ほんで、その画集をパーッてみると、
もんのすごい気持ち悪いんですよ。
美術館に展示してあったその絵だけは
気に入ったんですけど。
顔に釘を打ってる絵とかが、
出てくるんですよ。
「うわ‥‥展示してある絵をみるだけで
 終わっといたらよかった」
って、思いました。
糸井 そうなんだ。
ルフィーノ・タマヨ‥‥。
大西 画集みて「やっぱりきてるわ」って言ったら、
周りの人が
「ジミーちゃん、心配せんでも、
 ジミーちゃんもかなりきてるよ」

って(笑)。逆に、
ちょっとひと安心したりして。

糸井 でも、その画集が
「気持ち悪い」っていうのと、
「いい」っていうのの境目って、
よくわかんないですよね。
ほんっとにいいな、と思うものって、
ちょっと気持ち悪くなったりしない?
たとえば、女の子もそうでしょう。
ちょっと「かなわんもの」を感じるから、
魅力があるんだと思います。
大西 ああ、なるほど。
糸井 岡本太郎も、
青山の記念館に行くと、
ときどき気持ち悪くなるんだよね(笑)。
「あたった」みたいになるんですよ。
大西 ハハハハ。
糸井 僕はね、ジミー大西の絵にも、
それは感じる。
ただの「さわやか」ではない。
なんか不気味なものが、あるよね。
やっぱりすごいものを
持っているんだと思うよ。
大西 そうなんすかねぇ‥‥。
糸井 吐き気を催させるような、さ。
横尾さんも、そうだよ。
僕は横尾さんの絵をはじめてみたときに、
あんまり気持ち悪くて、
夜中に何度もみに行っちゃった。
なんというか‥‥
あんまりにも気持ち悪いものって、
つまり「自分と呼び合ってる」んだと思うよ。
大西 ふーむ。
糸井 さっきの画集って、
あとで「いい」って思うかもしれない。
大事にしてたほうがいいよ。
大西 そうですかね。
糸井 たとえばさ、鳥が飛んでるときって
きれいでしょう。
だけど、近くで見ると、
鳥って、蛇の顔してるんですよ。
大西 はい、眼が獰猛でね。
糸井 うん。
で、その両方が、鳥なんです。
えげつないものと、
うわぁ、すばらしい、ってものが、
重なるんだよ、たぶん。
もしかしたら、それが太郎の言う
「はみ出す」なのかもしれない。
大西 ああ! そうですかね。
そういうことが爆発になったり。
糸井 爆発って、迷惑じゃん。
きっと、もっと「迷惑」をしなきゃ
いけないんじゃないかな。
大西 アハハ。
糸井 「絵を1個見ただけで、
 もう人生、嫌になっちゃいました」
って人がいてもいいし。
大西 はい。
糸井 「もうすっかりやる気になっちゃって、
 会社辞めました」
でもいいし。
そのくらい与えられるものだと思いますよ、
やっぱり、絵って。
大西 その「はみ出すかんじ」
ルフィーノ・タマヨの絵の
「よさ」にたどり着くときが
‥‥ちょっと怖いです。

(いよいよ来週はジミー大西さんの
 最終回ですよー!)

2004-03-02-TUE

このページに関するメッセージをpostman@1101.comまでお寄せ下さい。
このページの全部または一部の無断複製・転載を禁じます。