黄昏 た そ が れ  日光・東北編       南伸坊さんと、糸井重里。昔なじみのふたりが、始終しゃべりながら小旅行。前回は鎌倉の名所をめぐりましたが、今回は日光、松島、花巻あたりを回ります。ゆっくと変わる風景と、めくるめく無駄話。いったいいつまで続くのかな‥‥? そしてこの不思議な企画は、なんとすべてをまとめて本になるのです。いえ、ほんとの話です。
第29回 仙台四郎の表現。
南 そこのさ、棚の上のところに、
なんだか古い写真があるでしょう?
糸井 うん? ああ、これは「仙台四郎」か。
南 そうそう。
糸井 仙台四郎は、知らない人も多いかもしれないね。
南 仙台四郎っていうのは、明治のころ、
仙台に実在した人で、
知能に障害があったんだけど
みんなに好かれていて、
仙台四郎が来る店は繁盛する
って言われてたんだって。
糸井 つまり、民間の「福の神」だよね。
それで、こういうお店に、
いまも写真が飾られているという。
南 でね。
「またか」って言われると、
困っちゃうんだけどね。
糸井 ‥‥まさか!
南 うん。オレは、仙台四郎にもなったんだ。
糸井 なったんだー(笑)!
南 もう、この旅は、行く先々に、
オレのなったことある人たちが。
糸井 けっこう、ローカルな人にもなってるんだね。
南 幅広いよ、悪いけど。
糸井 ははははは。
しかし、仙台四郎は、あれだね、
そもそものルックスが伸坊に似てるから、
「本人」になるのは簡単だったんじゃない?
南 いや、オレも最初はそう思ったんだけどね、
これが、難しいんだ。
糸井 へぇ。
南 まぁ、着物だしね、体型なんかも近いからね、
着替えて、この写真と同じように
腕組んで座れば大丈夫だろうと
思ってたんだけど。
糸井 そう思うよね。
南 ところがね、
この仙台四郎の有名な写真をよーく見るとね、
どうやら、下はふんどしをはいてるらしい。
糸井 うん。
南 で、股間のあたりがはだけてて、
出ちゃってるらしいんだ。金玉が。
糸井 ははぁ。
そういうことに無頓着だったんだろうね。
南 そう、そう。本人はね。
出てるとか、隠れてるとか、
そういうことは関係ないわけ。
糸井 そういうの、気にする人じゃないから。
南 そういうことなんだよ。
でね、オレが着替えて、仙台四郎になって、
この写真と同じポーズをしてみるっていうと、
写真を撮ってるカメラマンがね、
「仙台四郎の、そういうのも、
 表現したほうがいいんじゃないの?」と、
こう言うわけだよ。
糸井 つまり、お前も出せと(笑)。
南 うん。表現しろと。
糸井 「表現」(笑)。
南 表現っつったってさぁ、
ダメだろう、それは。
ふつう。やっぱり。
糸井 ダメだねぇ(笑)。
南 で、何枚か撮ったんだけどさ、
そのカメラマンいわく、
「ほら、やっぱりなにかが違う」と。
糸井 ごめん、確認しとくけど、
そのときのカメラマンってさ‥‥。
南 うん。うちの妻なんだけどね。
一同 (爆笑)
糸井 じゃあ、奥さんって、
アシスタント兼、スタイリスト兼‥‥。
南 そのころにはカメラマンも兼ねてた。
糸井 その奥さんが、「出せ」と。
南 そう、過激なんだよ。
まぁ、言ってることはわかんなくはない。
姿形はたしかに似ているけど、
精神が表現できてないということなんだ。
糸井 真面目に言ってるんだよね。
南 大真面目だよ。
言ってることもよくわかる。
でもね、その、写真を撮ってる場所って、
けっこう、人通りが激しいんだよ。
糸井 ははははは、外で撮影してたのか。
それで? けっきょく、どうしたの?
南 え? 出さないよ。
糸井 はははははは。
南 出すわけないじゃん。
(ホッとしたような、残念なような。
 つづきます)

2009-11-02-MON

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