──
今回のインタビューにあたって
あらためて
『ダム・キーパー』を見返したんですけど、
やはり、グッと来ました。
堤
あ、ありがとうございます。
──
たった18分の短編作品ですが、
見終わったあとの余韻が、じんわり続いて。
ロバート
その感想は、うれしいです。
18分の短編だけど、
短編だからこそ心に残るような作品に
なったらいいなと思っていたので。
──
ですので、今日は
何よりまず『ダム・キーパー』のお話から
おうかがいしたいと思います。
堤
はい、よろしくお願いします。
──
堤さんと、ロバート・コンドウさん。
おふたりは、ともにピクサーで
アートディレクターをされていたわけですが
今回は、ストーリーも自分たちで。
堤
ええ、それが‥‥大変だったんですよ(笑)。
ぼくら絵描きなんで、ふたりとも。
──
そうですよね。
ロバート
最終的に
『ダム・キーパー』の話にたどり着くまで
4本くらい
脚本を書いてみたんですけど、全部ダメで。
──
お話を書くのは、はじめて‥‥ですか。
堤
はい。とにかく、ふたりで、
ジタバタもがきながら完成させました。
──
アニメーションの制作現場って
とかく「分業」というイメージですが‥‥。
堤
でも、こと「ストーリー」に関しては
ここの部分はぼくで、
ここの部分はロバート‥‥みたいなことは
やりませんでした。
というか、できませんでしたね。
──
ではもう、とにかく、ふたりで、
組んずほぐれつ、みたいな。
ロバート
実際のアニメーションの制作に入ってからは
もちろん
おたがいに任せられる部分は任せて
進めていくんですけど、
話に関しては、グチャグチャになりながら、
ときには
ケンカしながらつくった感じです。
──
やはり「物語」というのは
はじめに、あるていど固めておかないと
動き出せないもの、ですか?
堤
少なくとも、ぼくらの場合はそうでした。
絵だったら、描きながら
いろんな方向へ膨らませていくことも
できるんですけどね。
──
そうなんですか。
堤
ふたりでやるときの「弱点」って、
意思疎通がうまくいかないと
いろいろバラバラになっちゃうことだと
思うんですが、
ふたりでやるときの「強み」は、
どちらかが
かならず客観的な見方をしてくれること。
ストーリーに関しては、
客観性がなければ伝わらないので、
自分の「主観」が入ったなって部分には、
別のひとりが客観的な意見を言って
なるべく
バランスを取るように心がけました。
──
でも、本当によかったです、お話。
絵は当然いいんですけど、
ストーリーがよかったなあと思います。
ロバート
それは、本当にうれしいです。
1年くらいは、かかったから。
──
あ、そんなにですか。
堤
まあ、1年と言っても、
『ダム・キーパー』を制作していたころは
まだふたりともピクサーにいて
『モンスターズ・ユニバーシティ』の
真っ最中だったんです。
だから「1年間ずっと」っていうわけでは
なかったんですけど。
──
では『モンスターズ・ユニバーシティ』と
『ダム・キーパー』を
同時平行でつくっていたんですか。はー‥‥。
ロバート
1年くらい、ウンウンうなりながら(笑)。
堤
奥さんに見せてはヒンシュクを買い。
──
あ、メイちゃん‥‥さん。
※堤さんの奥さまは宮崎駿監督の姪っ子さんで、
映画『となりのトトロ』の
メイちゃんのモデルになった方なのです。
堤
わりと自信があるぞってやつを見せても、
「うーん、どうかな」と(笑)。
──
そうやって、「他人の目」を借りながら
お話を練り上げていった、と。
堤
結局、映画もコミュニケーションなんで、
客観性って、すごく重要なんです。
ぼくらふたりとも、
自分の意見にこだわっちゃう性格だから
誰かに
客観的な意見を言ってもらえないと
暴走してしまう危険性があって。
──
逆に譲らなかった部分は、ありますか。
他人の意見を容れなかった箇所。
堤
ひとつには
ナレーションを入れるかどうかについて、
最後まで揉めたんですけど、
そこは、ぼくが、譲りませんでした。
ただ、譲らなかったんだけど
当然、ぼくひとりの映画じゃないですから
「ナレーションなし版」も
けっこう長い期間、存在はしていたんです。
──
なるほど。ロバートさんは
「他人の意見を聞く」ってことについては
どのように考えていますか?
ロバート
たとえば、誰かが
「このキャラクターの髪の色が気になる」
って言ったとしますよね。
その場合、その人は、たぶん、
「色」についてだけ指摘しているわけでは、
ないと思うんです。
──
と、言いますと。
ロバート
細かいディテールの部分、
つまり髪の色がおかしく見えるのは
視点をぐーっとうしろに引いて考えれば
全体的なバランスを欠いている。
ですから、人から指摘をもらったときは
「どこがおかしいんだろう?」
って、もっと広い範囲を見わたして
考えることが、重要だと思っていますね。
堤
難しいのは、あくまで
「答えは
自分たちで見つけなければならない」
ということなんです。
ようするに
「色がおかしい」と指摘されたとしても
「色を変えれば、それでオッケー」
には、かならずしも、ならないというか。
──
なるほど。
堤
ある登場人物の服の色が気に入らない場合、
実際に色が問題なのか、
それとも、色が気になっちゃうほど
別のどこかに、何か大きな問題があるのか。
問題の本質を突き止めるってことを
ぼくらつくり手は、やらなきゃならない。
──
おもしろいです。
つまり、みんなの意見を聞いてさえいれば
いいものができるわけじゃない、と。
堤
できないです、それだけじゃ。
まわりの人に「答え」を求めるんじゃなく、
まわりの人の意見をもとに
自分たちで
「答え」にたどり着く必要があるんです。
──
で、そうやって、ピクサーで
『モンスターズ・ユニバーシティ』の
アートディレクションをしながら
空いた時間や、週末を使ってつくったのが
アカデミー賞のノミネート作品、
18分の短編『ダム・キーパー』であると。
堤
はい。
<つづきます>